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「‥なぁ、坂崎ってさ」
桜井が目の前にいる人物にぽつりと呟く。
「トラブルメーカー」
「いや、今回のは高見沢が絶対悪いからな!お前が訳分からない薬‥みたいなもん使うからこうなっちまったんだろ!」
「だって、本当にこんな風になるとは思ってなかったもん」
ヘラッとしてる高見沢を見据える桜井が、バシッと頭を一発叩いた。
「いって!」とわざと大きな声を出す高見沢をシカトして桜井は目の前にいる坂崎を抱き上げた。
「まさかお前が赤ちゃんになっちまうとはなぁ‥」
高いたかーいをする要領で小さくなってしまった坂崎を抱え上げ、桜井は笑いたい気持ちと呆れた気持ちが入り混じった複雑な感情を持て余してた。
キャッキャッと素直に喜んでる坂崎を見て桜井は、デレッと頬を緩めていた。
この男は結婚はしているが、子供がいない。それを言うなら高見沢も坂崎は結婚すらしてないから子供という存在には程遠いものだった。しかし今は坂崎がその子供になってしまっている。
どうして子供になってしまったかというと、先程桜井が言ってた通り高見沢のせいなのだ。
ネット通販で、遊び半分に「身も心も子供の頃に帰れます」といった詐欺も同然な商品を買ったのが始まり。本当にちょっとした遊び心でその薬を坂崎の飲んでいたコーヒーの中に入れて、五分くらい経った時事件は起きた。
ふと横を見たら坂崎がいないと思って驚いた時だった。
ちょこんと座る二歳か三歳くらいの子供がいた。高見沢が「?」となってしまい、その顔をじっくり眺めると‥‥坂崎本人だったのだ。
猫になるという坂崎には既に慣れて、あまりびっくりはしなかったが、これはこれで面白がっていた様子を桜井に発見されてそこで最初の一発を喰らわされていた。
「パパー?」
「違う違う。俺は桜井。さ・く・ら・い!」
「しゃくら‥?」
「うっ、やべぇ。俺、坂崎がこんなに愛おしく思えたの初めてかも」
まるでお父さんのようにベタ惚れな桜井を見て高見沢は「けっ」とあしらい、何故かふてくされていた。
薬箱に目を向けて改めてちゃんと説明書を読めば、「二時間で効果は消えます」と書かれていた。
もし、坂崎が元に戻った時に赤ちゃんになっていた時の記憶が残っていたら困るのは当然高見沢なのだ。
坂崎と一緒にいたのは高見沢だけなのだから、明らかに犯人はコイツだと解ってしまうだろう。その後の坂崎からどんな制裁が下されるかが問題だ。
真っ先に逃げるしかない。
これが高見沢の答えだった‥。
「幸之助ちゃんは可愛いでちゅね~」
「気持ち悪いんだよバカ桜井!」
「なに嫉妬してんだよ」
「断じて嫉妬ではない!なんで俺が坂崎に嫉妬しなくちゃならんのだ」
プイッと顔を逸らす高見沢を見ていた坂崎はテーブルの上に乗せた桜井から離れて怖い顔をしている高見沢に近付いた。
そしてその長い髪を思い切りグイと引っ張り、頭がカクンとなった高見沢を見て桜井が吹いた。
ワナワナした表情で小さくなった坂崎を睨み付けているが、当の本人は邪気のない満面の笑顔で高見沢に向かって微笑んでいた。そんな顔で見られると怒りのボルテージが一気に降下していくのが自分でも分かる。
高見沢はそんな坂崎を見て「なんて俺は甘い奴なんだ‥」と桜井に気付かれないように呟く。
「棚瀬に見せるか」
「勝手にすれば」
いつまで経っても髪を離してくれない坂崎に高見沢は彼の堅く握られた小さな手を離そうと必死になっていた。
早く誰にでも見せればいいじゃないか、と思っていたがこんな可愛い笑顔を誰にでも振り撒くと思うとちょっとばかり胸の奥が引っ掛かった。そんなもの大人の坂崎だってみんなに笑顔を向けてはいるが、全部が全部本物の笑みではない筈だ。愛想笑いや営業スマイルとでもいうのか‥。
だが、今の坂崎にそんな上手に表情を作る事なんて出来ない。嬉しければ笑う。悲しければ泣くといった単純な子供になってしまっているのだから。
そんな純粋無垢な今の坂崎に誰もが夢中になる筈と悟った高見沢は離してくれなかった手を逆にキュッと握り締め返した。
すると驚いたように坂崎の目がまん丸く高見沢を見つめていた。
「やっぱヤダ。誰にも見せたくない」
「な、なんなんだよ‥。いいって言ったりヤダって言ったり」
「だってみんなに見られたら坂崎が赤ちゃんになったってコイツにバレる可能性が高いから」
「つまりは俺にも口止めをすると?」
「なんか奢るから勘弁して‥」
「了解」
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