Resilience - 1/2

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殺し屋さん

ようやく辿り着いた港の近くにある自分たちの隠れ家。

手負いの俺は少し疲れていた為、バイクを走らせていた高見沢の背中に頭をずっと預けさせていた。そんな弱り切っている俺に高見沢が「着いたぞ坂崎」と声をかけてくれるも、彼の広くて温かいこの背中でウトウトしてしまっており、妙に意識が遠い。

精一杯「あぁ‥」と呟いてみせるも、脚と腕が痛くてあまり動きたくない。

そう思っていると、バイクの荷台から引きずり下ろしてくる高見沢。そしてこんな俺の体をヒョイと持ち上げてはお姫様抱っこの形で抱えられ、そのまま家の中へと突き進んでくれた。お姫様抱っこが恥ずかしいとはもう思わなくなったな。いつもの事だし。

でも、こうして怪我をしている俺を軽々と運んでくれる相手もいないと不便ではある。まだ桜井と二人だけだった時は、桜井が居ない場合もよくあったので自力で家に戻る事も多々あった。

しかし今は三人。一人増えてくれるだけでだいぶ戦力にも手助けもなる。有り難いね。

運ばれている間、目を瞑りながら静かに息だけをしていると、高見沢がそっと俺をいつも座っているソファーに寝転ばせてくれたので、横になった体はさっきよりかは楽。

目をうっすら開けながら下ろしてくれた高見沢に一言礼を述べると、「あいよ」とだけ告げた高見沢はネクタイをシュルルとほどいてはそれらをポーンと向かい側のもう一つ置いてあるソファーに投げ捨てた。雑だなぁ、相変わらず。また桜井に怒られるぞ。

それを分かってて黙ってる俺も俺だろうけど。

あー、腹へったーと呟く高見沢が台所の戸棚に置かれてあるソイジョイを取り出し、包み紙を破ってはそれをもくもく食い始める。それ桜井のやつじゃん‥

そうそう、今桜井は俺の代わりに死体を運んでいる最中。秘密警察に追いかけられた後、俺たちは一旦分かれて俺と高見沢は家に戻り、桜井は死体の処理をしに行くとの理由で今彼はここに居ない。

ソファーの上でぼーっとしていると、俺の頭の上ではニャン‥という猫の鳴き声が聞こえてきたので、目線だけをそちらに向ければ、そこに居たのは飼い猫。俺を心配してくれてるのかな?

猫に手を伸ばし、ふわさらした毛並みを撫でてやると俺の上半身まで移動して来ては、ちょうど胸板の辺りで腰をおろしてそのまま目を瞑ってしまった。なんだよお前、俺を心配してたんじゃなくて、寝床がなくて困ってただけかよ。

そうは思いつつも、眠りにつこうとしているコイツを痛んでいない方の手でそっとさすってやった。

「なぁ高見沢」

「ん?」

ソイジョイを食べ終わった高見沢。喉が渇いたらしく、冷蔵庫からファンタを取り出してそれを飲んでいた。‥これは高見沢のものだな、多分。

「ガーゼ取ってくれん?脚の血が止まらん‥」

「珍しいな。いつもなら今頃止まってる筈なのに」

「‥秘密警察の怨念がこもってるんじゃないの」

ガーゼを持ち出してくれた高見沢は、俺がいる方へとそれを投げながら「なーるほど」と変に納得している。

ほんと‥いつもならこんなかすり傷程度、血は止まってくれてる筈なんだけどな。

もう一人の自分の顔が浮かんでくる。

あの‥俺たちを憎んでやまない厳つい目付き。嫌な奴らに目をつけられたもんだ。しかし、これから先暫くは会う事もないだろう。

猫を体の上からずり落とさないよう、上手い具合に右脚を曲げながら痛みを含むそこの部分へとガーゼを押し当てる。ちょっとソファー汚れちまったな。あとで拭いとこ。

あー、そうだ。お気に入りだったネクタイも自分からぶった切っちゃったんだ。買い直さなきゃな‥

フゥーっ‥と吐く大きな息。

今日も俺はこの日を生きているし、生きていける。

人の命を消す仕事をしている俺たちが、こんなにも平和な時間を過ごしていてもいいのだろうか。

「桜井、いつぐらいに帰って来てくれるかな‥」

「あと三十分もあれば戻ってくるだろ。んでよ、またさっき依頼のメール来てたんだけど坂崎動けそうか?」

「‥せめて二、三日休ませて。左腕が折れてるかもしれないし」

「んー、そうかぁ。じゃあこの依頼は弾いておこ。金額も大したことなさそうだし」

勝手に依頼を断る高見沢。まぁいいけどさ。

それより桜井早く帰って来てくれないかなぁ‥。手当てして貰うなら桜井に限る。高見沢になんか任せられる筈もなく、たまーに仕方なくではあるけど桜井が数日帰って来ない日もある。そういう時には高見沢に手伝って貰ったりしているが、コイツにあんまり怪我してる部分触らせたくないんだよ。

そんな訳で桜井が帰って来ると分かってる日は高見沢が俺の怪我の面倒を見る事なんてほとんどない。

それから高見沢が言っていた通り‥ではないが、四十分くらいしたのちに帰って来る音がした。

腕で両目を覆い隠して浅い眠りに入っていたせいか、彼の低くて心地のいい声で「ただいま」と小さく呟く声が一気に眠りに誘う。しかしその後に俺が「おかえり」と返すも何も返事はないまま。

だけど足音がこちらに近付いて来る。

「大丈夫か坂崎」

「‥まだ脚の血が止まらない」

「なに?」

「秘密警察の怨念かもね」

「それは冗談なのか」

「‥さぁね。でもいつもならこんな傷、すぐ治る筈なのに。なんか悔しい」

「身体が段々元に戻り始めてるって前言ってたよな?」

「あぁ‥。でも、こんなに早く元に戻るわけがない。徐々に徐々に戻っていってる‥って感じだったのに」

「‥‥そうか」

よっ、と体を起こして座る形にしてみせた。猫は横に置いておく。

「高見沢は?」

「部屋」

「ったく、アイツまーたネクタイこんな所に‥」

ブツブツ文句を言う桜井ではあるが、高見沢のほったらかしたネクタイを手に取りそれを片付けていた。そのついでに救急セットを持って来てくれた彼が、俺の脚の傷を見ながら薬を塗ってくれるその手は優しい。

そしてポツッと呟いた桜井のセリフに耳を疑った。

「坂崎、‥お前のその身体をおかしくさせた施設?かなんかは知らんけど、教えろ」

「えっ‥?なんで?」

「お前のその身体が使えなくなったら意味がねぇ。薬があるなら取ってきてやるよ」

「バカやめろ!あんな場所に行ったら抜け出せなくなるぞ‥!?」

「‥客として行けば帰して貰えるだろ?」

「そりゃ‥そうだろうけど。でも危険だし、あそこは異常だ。俺でも抜け出すのにどれだけ苦労したのかと‥」

「分かってるさ。でも今は坂崎の身体が元に戻る方が俺たちにとってこの上なく不利だ。‥ま、俺が不死身になっても構わないんだけどね」

「やめとけ。こんな身体、人間じゃない。絶対に後悔する。こんな役目は俺だけでいい。この世の中に役に立たなかった俺が今ようやく役に立ててるんだ。だから‥二人にはこんな身体になって欲しくない」

「そう、か。ならやっぱりこの役目はお前に任せるわ。ほらよ、もういいぞ」

「ありがと」

脚の包帯を巻き終え、次に左腕を差し出す。

ダランとした腕を見ながら桜井は「折れてそうだな‥」と独り言を言う。

「お前が一番デカい傷負ったのってなんだっけ?二年前のアレか?」

「あぁ、車に吹っ飛ばされたやつだな。あん時は首の骨折れかけて流石にヤバいと思ったけど‥」

「一ヶ月も経たない内に治ったもんな。さすがはバケモノ」

「そりゃどーも」

左腕を固定し終えた桜井が、「完全に折れてはないから三日くらいで治るよな?」と尋ねる。なので、多分ねとだけ返す。

そして立ち上がっては「何か食いたいもんあるか?」と聞いてくるので、麻婆豆腐と答えると若干面倒くさそうにしているが、「分かった」と返ってきた。

しかしまだ俺ら朝も食ってなかったよな‥。朝飯に麻婆豆腐か。中々刺激的じゃん。

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