その背中を追いかけて
「ねぇ、コレ絶対坂崎さんたちにバレたらヤバいって..」
「そんなもん分かってるよ!だけど俺たちこのままでいいと思ってんのか?」
「そりゃあ、僕は高見沢さんの左目に早くなりたいって思ってるし、坂崎さんのような物凄い秘密警察になりたいよ!」
「だったら俺たちが早く認めて貰えるにはコレしかない!」
「….。よし、分かった。じゃあ僕も協力する」
「あったり前よ!..というより鈴木、お前も本当は少し調べてたりしてたんじゃないのか?」
「えっ!な、なんで知ってるの?」
「なんでだろうねー?」
悪戯っ子みたいに魅せるその笑顔。なんだ、吉田には気付かれていたのか..。それだったらもういいやと開き直り、自分の持っていた情報と吉田の持っていた情報を照らし合わせてみることになった。
見比べてみると僕の調べたものと、多少は違うものの大体は同じ。..これならきっと特定だって出来るはずだ。これは僕たちが頑張らなければならない。
「日にちは合ってるか?」
「うん。やっぱりこの日だったんだね」
「よし、じゃあこのことは俺たち二人だけで….」
「なーにやってるの、二人ともっ!」
ドッキィ!!と心臓が飛び出るかと思うほどビビってしまった僕と吉田。
..まさか棚瀬さんが居るだなんて考えてもみなかったから、後ろから声かけられたせいで汗がダラッダラに流れているではないか。もちろん吉田も。
そんな二人を不思議そうな顔してこっちを見てくる棚瀬さん。まぁここは棚瀬さんがモニター監視する為、彼が常に居る場所なのだからここに現れるのは当然のことなんだけれども..。それでもやっぱり足音やドアの閉まる音もなく中に入ってきてしまうこの人は凄い。
「た、棚瀬さん..っ」
「もう!ビックリさせないで下さいよ!」
「あは、ごめんごめーん!二人が随分真剣に話し合ってるもんだから、つい驚かしたくなっちゃって!」
「くそー..」
こんな悪戯はここの坂崎班に入ってから日常茶飯事だから特に気にはしてないんだけどさ。
ハァーーっと長い溜め息を漏らしている僕を見て、棚瀬さんはごめんってば〜とか言いながらお詫びの印なのか、今さっき買ってきたばかりのハイチュウを一粒ずつくれた。ま、いっか..
僕と吉田は話す場所を変えようかと思い、この部屋から出ようとした時。モニターを眺めていた棚瀬さんがいきなり声色を変えて「やめろ」と告げてくる。
さっきまでの明るくておちゃらけた雰囲気とは一変し、棚瀬さんの背中からはなんだか近寄り難いオーラが放たれている気がした。隣に居た吉田と目をチラリと合わせると、アイツも若干棚瀬さんに気圧されている様子だ。
「な、なんのことですか?」
「やめろって、どういう意味..?」
僕たちがそう棚瀬さんに尋ねてみると、あの人は腕組みをしながら僕たちの方に体を向き直したかと思えば、今までに見たこともないくらいの鋭い目付きで、「もう一度言う。やめろ」とだけ告げた。
こ、コワイ..。坂崎さんにも負けないくらい怖い。
「えと..」
「お前ら今してた話し〝殺し屋〟の情報だろ?」
「っ..」
「命が惜しければ下らない真似はするな。分かったか?」
「は、い..」
「なら良かった!」
二人して頷いてみせると、棚瀬さんの表情はまたもやコロッと変わってしまい、いつものあの優しそうな顔へと戻っていってしまった。
さ、流石坂崎さんとコンビ組んでいただけあるよこの人..
そして今度こそ二人で部屋を出ると、吉田と改めて目を合わせてはデカい溜め息を吐き出した。
「怖かったァ..」
「まさかバレてるだなんて思ってもみなかったしね..」
「あぁ、ホントだよ。..でも俺は諦めてねーからな。とにかく、少しでも早く桜井さんたちに追いつきたいからさ!」
「うん、それは僕もだよ」
「よし!それならこの殺し屋たちが現れる日の前までに情報収集するぞ!」
「オッケー!」
そして数週間後。
この日は夜中だけれど仕事が早めに終わったので、鈴木と帰るふりをして殺し屋たちが現れるとされる公園の近くのネカフェで時間を潰した。
もうすぐで夜中の四時だ。そろそろ出ようか、と言い出す鈴木に合わせてネカフェを後にした俺たち。正直に言って、物凄く緊張してるし怖い気持ちもある。だけど、こんなことでビビってちゃ一人前の秘密警察になんかなれやしない。
早く桜井さんに追いつきたい。
ただそれだけだった。
「場所は..多分この辺だろ?」
「まだ居ないっぽいけど..」
「どこかに隠れて様子見してみるか」
「うん、そうしよう」
少しガッカリしてしまった。この情報は間違っていたんじゃないかって思ってしまったからだ。
うーん..何度も調べたからここで合ってるはずなんだけどなぁ..
そう思いながらどこかいい隠れ場所はないかと見渡しながら歩いていたその時だった。
「そこから動くな、動くと撃つ」
後ろからよく聞き慣れた低い声が聞こえたかと思った。
だけれど、その相手は俺たちの知っている人ではないことが今言われたセリフでよく理解出来た。
あぁ..しくじったかも..
「銃を持っているなら下におろせ。そしてワイヤーみたいな物もだ。置いたら大人しく両手を頭の後ろへやれ」
聞き慣れたはずの声がこんなにも恐ろしいだなんて..
しかし、俺と鈴木はこの声の言う通りにするしか出来ない。ブルブルと震える手で、所持していた銃と移動する為のワイヤーを下にそっと下ろした後、二人して両手を頭の後ろへとやるしかなかった。
やべぇ..めちゃくちゃ怖ぇ..
すると、その声の持ち主の他に二つの足音が俺たちの後ろまでやってくる音がする。その足音が止まると、カチッという音とパチンッという音が耳に入ってきた。なんの音だ..?
そしてこの声がまた喋り出す。
「悪いね君たち。俺らの居る場所を突き止めたのだけは頑張ったと褒めてあげたいところだ。けどな、もうとっくに仕事は終えちまってたんだよ」
「そ、そんな..」
そしてまた聞き慣れた少し高めな笑い声が聞こえた後、ソイツは言葉を続ける。
「銃声聞こえなかったでしょー?ごめんね〜、ホントは俺だって派手に殺りたかったけどさ、今回は特に隠密にしなきゃいけない仕事だったもんで、銃にサプレッサー付けてるんだよねー。もちろん今も」
サプレッサーって..銃声を抑える為に、銃の先端に取り付ける道具だったよな?けどなんで今そんな説明を….
「あれー?まだ分かんない?今ここで俺が引き金引いても音は響かない。しかも夜中のひろーい公園。だーれも助けは来やしないっしょ?理解した?」
「….くっ、」
「そうそう、もう諦めなって。こっちは殺しのプロだよ?死体なんかもキレーに片付けて痕跡残さないようにしておくからさ、….君ら死んで」
「..っ!」
目尻に溜まる涙が、目を固くギュッと閉じたと同時にポロッと地面に落ちてしまった。
まさかこんな事になるなんてな..思いもしなかった。鈴木も巻き込んでしまって、俺は一体どうすればいいんだろう..?
そう考えていた時..
「その子らに手を出さないで欲しいんだけどなぁ..」
「!?」
「誰だ!?」
えっ..!?
この声は..、まさか!
鈴木と一瞬だけ目が合うと、俺たちは咄嗟に後ろを振り返ってしまっていた。
そして目の前にいるのは、よく見慣れた三人。
だけれど俺たちの知っている三人とは全くの別人でもあるということ。
黒いシャツと黒いパンツ。それぞれのカラーネクタイを締めている〝殺し屋〟の桜井さん、坂崎さん、高見沢さんがそこには居た。
これが..殺し屋の三人っ..?
桜井さんと高見沢さんが銃を構えているのに対し、坂崎さんは大きめのナイフをこちらに向けており、俺たちが振り返ってしまったので少しだけ驚いてはいるけれどあまり気にしていないらしい。
「棚瀬さんッ!!!」
まさかな、まだお仲間がもう一人居たとは誤算だったな。
坂崎と高見沢にこの新人である秘密警察の二人を見張らせ、俺は後ろから聞こえてきた声の方へと体の向きを直してみせると..そこには、あの時一度だけお目にかかれたもう一人の秘密警察がそこに居るじゃあないか。
両手にハンドガンが二丁。そして俺たち殺し屋をキツいぐらいに睨みつけるその鋭い眼光。この前、奴らの本部屋上で会った時アイツはこんなツラなんかじゃなかった記憶があるけどな。
その顔はあちらさんの坂崎とほぼ同じようなドギツイ表情。..へぇ、こんなヤベぇ奴がまだ秘密警察の中に篭ってたって訳か。
数メートル先には、あまり見慣れない顔をした眼鏡をかけた男が一人。その男の居る先へ銃を構えてみせるが、奴が怯む様子は見られない。相当な手練だというのが窺えた。
「悪いがこっちもその子たちを返してもらうよ。未来ある若い二人に死なれちゃ秘密警察側にとっても困るからね」
「….。久しぶりだな、棚瀬くんとやら。あの屋上の時ぶりだね」
「んなこたー聞いてない。二人を返せっつってんだよ」
「それはお前次第なんじゃないのか?全く、俺らもナメられたもんだな..こんな新人の青二才に狙われてたなんてよ」
坂崎と高見沢に銃とナイフを突きつけられ、怯えきって涙を浮かばせている新人秘密警察たち。悪いけど、その程度の実力じゃこの俺たちを捕まえるなんて出来る訳がない。ただでさえ秘密警察の三人だって俺たちを捕らえることが出来てないんだから、君らには到底ムリな話しだ。
坂崎と高見沢に合図を送ると、二人は新人秘密警察くんたちを人質に取る形になり俺と一旦距離を置いていく。不安そうにしている新人秘密警察たちは、小声で「棚瀬さん..っ!」と助けと申し訳なさを含めた声色でアイツに目で縋っていた。
人質に取れば奴はどうする?
だが、奴は顔の表情を微動だに動かすこともせず、ただただ俺を睨みつけるだけ。なんだ?焦りを悟られないように気を張っているのか?
いや、違う。あれは自分以外の全てを信じていない目だ。この新人秘密警察がどうなってもいいというのだろうか。..試すか。
「俺らをナメた罰だ。コイツらにはここで死んでもらう」
「..なんだと?」
「お前はコイツらを救い出せるかな?」
「….。」
さぁ、来い棚瀬とやら。お前の実力を見せてみろ。
すると持っていたハンドガンを腰のホルスターに収めたかと思いきや、奴はスーツパンツのポケットの中から手袋を取り出してはそれを静かに嵌めていく。あぁ、よく見知った奴らと同じになったか。
最後にクイと口で手袋を嵌め終えた途端、奴は顔をあげてクソ怪しい笑みをこちらに向けながらこう言い放った。
「そっくりそのまま返してやるよ。
..この俺もナメられたもんだな」
もしかするとコイツ、相当ヤバい奴か?
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