リハビリお話
今日もなんの変わり映えしない日常。船頭たちも高見沢も見張り番をしているし、同じく俺もそうだ。罪人たちが冥道の釜へ送られる日だ。
見送る時間はいつもバラバラで、今日は夕方くらいからとなっている。なので、今は最後となる自由時間。好きに過ごさせてやっているだけのはずだった。
..俺が他の罪人たちに呼びだされるまでは。
「….話しってなんだ?こんな遠く離れなきゃいけないほどの話しか?」
「あぁ..。アンタに聞きたいことがあってな」
今、目の前にいるのは俺がこの三日間話し相手をして世話をしてやった罪人たち数人。コイツら罪人は、船頭たちなんかよりも俺たちを頼ることの方が多い。それは言われなくとも俺と高見沢が罪人だからである。
だもんでこうして呼び出されて色んな話しを聞かされるというのは、よくあること。何も疑問には思っちゃいなかった。
だから今だって、いつもみたいに死ぬのはコワイだとか自分の犯した罪の重さを口にするのだとばかり思っていたのが、それは間違いだった。
俺はここに居すぎて、人を見抜く力が衰えていたのかもしれない..
「お前は覚えているか?俺たちは一度アンタに会っている」
「..なに?」
ピクっと眉をひそめる。
そして警戒心をほんの僅かに露わにしてみせた。
「まぁ、アンタは覚えてるはずないか。俺たちの前に出てきたのは一瞬だけだったしな。その一瞬に俺たちはお前の虜にさせられた。..そして地獄を味わった」
「悪いが覚えてねーな」
「そりゃそうだろう。お前さんは有名人だからな。こんな下っ端で使いっ走りされてた俺たちなんか覚えてるはずがねぇ」
「..話しはそれだけか?終わったんなら、とっとと戻るぞ」
「そうだね、戻りながら話すとしよう」
フゥと溜息をつく相手。コイツら、昔俺が詐欺った奴らの手下共か?だとしたら俺のせいで、その組織は崩壊して警察にしょっぴかれて挙句の果てはこんな場所まで流され着いた..と。
俺が怨まれているのは、きっとコイツらは上の奴らの身代わりで警察に差し出された、謂わば生贄みたいなもんだろう。だから地獄をみたとか言っているのか。
ちょっとヤバいな、この状況..
船頭たちがいる方向へ戻りつつ、警戒心を解かずに周りの奴らに目配せしながら口を開く。
「申し訳ないことをしたな。俺は崩壊した組織は気にしちゃいなかったもんでねぇ。アンタらが例え悪いことをしてなくても、上の奴がダメだとこうなっちまうのか」
「あぁ、そうさ。俺たちは所詮、使い捨ての駒だからな。..それよりさ、アンタはクスリかなんか好きだったよね?」
「え?ん、まぁ..好きだな。最近はあんまやってねーけどよ」
「それは良かった!俺たち、いいもん持ってるんすよ~。どうです?試してみません?」
「い、いや。最近やってねぇし..」
否定してるのに、相手は俺の言ってることなんか構わず、どこからか灰色っぽい..白っぽい粉が入った袋を取り出してきた。
それを目にした瞬間、少しだけゾッとした。
もちろん俺はそっち側の人間だし、クスリを好んで使って人の道をはずれちまってるが..流石に今、目の前にあるものには手を出そうなんて思わなかった。
なぜなら俺は自分の抑制心をコントロールすることが出来る為、クスリの中でも比較的軽いもん(とは言っても危険物には変わりないが)を取り扱っていたからだ。
「そ、それって..ジャンクか..?」
「ピンポーン!どうです?使ってみますかぁ~?」
「はあッ..?」
一瞬の隙と動揺を見せてしまったのか、後ろに居た奴らに取り押さえられてしまい身動き出来ない状態になっている。
持っていた棍棒がいつの間にやら奪われており、それが思いっきり頭に落とされた衝撃で意識がトビそうにもなっちまった。抵抗したくても手段を次々に奪われてしまえば、結局は何も出来ない。
体力は普通の奴らよりかは段違いなのだが、こう数人もいると流石の俺でも太刀打ち出来ねぇ..っ。
「くそっ..!?いっ、てぇなオイ..!」
「ねー、ほら?大好きなクスリで逝けるんだから文句ないでしょ?」
「お、お前らなぁ..っ!俺はいらねぇって言ってんだろうが!?つーか、俺を怨むのは筋違いだろ!?こんなんにしたのはお前らの上司様たちだろーが!?」
「いやダメだよ。もちろん上の奴らは死ねばいいとも思ってる。あと俺らアンタのこともクッソ嫌いだし、怨んでたんだもん。まさかこんな島にいるだなんて..夢にも思わなかったさ。じゃ、そゆことで俺たちもあと少ししたら死ぬし、お互いあっち側で会おう?….桜井賢さん」
「っ..!?」
...
「….。」
桜井の奴遅ぇな。何やってんだよ。もうあと一時間もすれば罪人を見送りに出さなきゃいけないっつーのに。
確かさっきまで向こう側で見張りをしていたのに、知らん間に消えちまってるし。んまぁ、罪人どもの話し相手かなんかしてるんだとは思うけどぉ..
でもそろそろ俺たちも準備しなくちゃいけない。一度、全員いるかチェックやら釜の調子を見たりとやることは残っている。さて、どうしたもんか。船頭に相談してみるか。
「おーい、船頭ぉ~!」
「ん?」
向こう側にいる船頭に呼びかけ、手をヒラヒラさせておびき寄せる。
「ねぇ~、桜井しらねー?」
「二十四番?さっきまであっちにいたはずじゃ..」
船頭の指差す方に、人は誰も立っていない。
「あれっ?いなくなってる。てことは罪人たちとなんか話し合ってんのか?」
「まー、多分そうだろうけどぉ~。..あ、二番~!桜井しらねー?」
「えっ?二十四番さんですか?」
近くを通りがかった二番に声をかけてみるも、奴も俺たちと同じでどこにいるか不明だと言う。うーん、困ったなぁ。
「どーする、船頭ぉ?」
「時間ないけど、捜してみるか」
「おけー。二番たちも手伝ってね~」
「あ、はい。それは全然いいですよっ。他にも誰か呼んできましょうか?」
「うん、あと二人くらい連れてきてぇ。俺たち先に行ってるからー」
「分かりました」
そう伝え、二番は他の船頭たちを呼びに行くのを見届ければ、俺と船頭はすぐさま走り出して桜井を捜しに行った。
しっかし、桜井の野郎どこまで行っちまったんだよ。いつもなら余裕もって早く戻ってくるはずなのに。
隣で一緒に走っている船頭も不思議がっていた。
「珍しいな、アイツが時間に戻って来ないなんて」
「そだねー。なんかあったのかなー?」
「三十分前になっても見つからなかったら一旦引き上げるぞ。いいなっ?」
「へいへい、わあーったよ。もし見つからなかったら、….ッ!?」
「ん?急に止まってどうした?二十四番見つけたのか?」
「っ..。い、いや..。なんでもねぇよ、….行くぞ」
「? お、おう」
再び走り出す俺たち。
今の胸への衝撃はなんだったんだ..?感じたことのないくらい響く痛さだった。
さっき走り出す前にハァっ..と一つ呼吸を置き、整えたはいいものの..まだジワジワと痛みが蔓延っていやがる。なんなんだ?
うっすら汗をかいているが、船頭はそれにまだ気付いてはいない。ま、気付かれちゃ鬱陶しいからこのまんまでいいんだけどよぉ..。だけど、無視は出来ない現象なのは間違いなかった。
そして後から追ってきた船頭たち三人と合流し、俺たちは桜井の捜索にあたった。
ただ..まさか桜井がこんな目に遭っているなんて、誰もまだ想像していなかっただろう。この出来事が、俺たちの生き方を変えてしまうほどのことになるなんて予想もしていなかったからだ。
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