罪人たちの舟

人「せ、船頭さんたち大丈夫かなぁ‥?」

旅「うんー‥。あんまり大丈夫そうには見えないけど‥」

人「数年ぶりにお話書かれたと思ったら、、いきなりこんな過酷なことするぅ?」

旅「流石船頭さんたちの世界だね‥ははっ」

 

 

 

リハビリお話3

 

 

ギィィと重たく開いていく大きな扉。

その扉と共に、ゆっくりとした動きでこちら側へと入ってくる人物。それは私の使者である坂崎だ。

何が起きているのかは概ね予想はついているが、こんなに早く坂崎が助けを求めに来るとは思わなんだ。

私の居座る方へと赴く坂崎。しかし、あやつのツラ..とてもここで働いていいと言えるような表情はしていなかった。負の感情に蝕まれているのは一目見れば分かるもの。

尋ねてみるか..

 

「どうした、坂崎?罪人共の始末は終わったのか?」

「….マモン様。罪人たちの見送りは暫く待って貰いたいです」

「それなりの理由があるというのか」

「..二十四番が恐らく複数の罪人たちによって、とても危険な状態に晒されています。いち早くアイツを助けてやりたいと思い、ここに参りました」

「ほぉ..。あんなに罪人のことを忌み嫌ってるお前が罪人を救いたいと?面白い話しだな」

「真剣な話しなんです。聞いてください、マモン様」

「….この私に罪人を救えと言うのか、貴様は」

「はい。仰る通りです」

 

その鋭く冷たい眼光が私を捉える。普段の坂崎では有り得ない態度であるのは明白。

怒りに復讐心..そして自分の愚かさへの呆れ。

今お前を蝕んでいるのは、我ら悪魔にとって至高の欲であった。特に今は憤怒の感情が坂崎に取り憑いてるおる。ふんっ..、今この場にサタンがおれば、奴は間違いなく喜んで坂崎の怒りを増長させるであろうな。

「また我らはあんな罪人の為に手を貸さなければならぬと..。そういうことか、坂崎?」

「..申し訳ありません」

「くだらんな。私は罪人を二度も救うほどお人好しではないのでな。今日が奴の寿命と思え」

「しかしっ..!」

「私に逆らうというのか?奴はじきに息絶える。..何を焦っている坂崎?本来、あヤツらは元々ない命。それを今日ここまで生きてこられただけ感謝しなければならぬ立場であるぞ?そんな死に損ないの為に貴様は我ら悪魔を再び失望させる気か?」

「..くっ」

「悪いことは言わぬ。奴は死なせておけ」

 

そう挑発してみせた途端、坂崎が「ふざけんじゃねぇッ!!」と初めて私に刃向かってきたではないか。

ほぉ..。まさかそう来るとわな。

見たことのないようなあやつの表情は、まるでその瞳からは私に対しての憎悪までもが現れ始めているようにも見える。眉間にシワを寄せ、吊り上がる眉と鋭い目付きはまるでお前といつも共にしている罪人たちの顔付きと、そう変わりない。

我を忘れているな、坂崎。

「二十四番は死なせませんッ!!アイツの命は俺の命でもあるんだ!そうみすみす死なれちゃ困るんですよ!!」

「どうしたのだ坂崎。お前らしくもないぞ?」

「俺らしくない..?俺はただ、もう大事だと思う人たちを失いたくないだけだッ!!妹も失い、かつての仲間たちも消え、更にはやっと少しずつ理解し始めている相手をも見捨てろと!?確かにアイツらは許されないことを仕出かしたけど、今は俺の大事な仲間なんですよッ!!!」

「..薄汚れた人間の分際でか」

「えぇ。人間は醜くて汚くて、どうしようもないくらい脆いです。でも、俺には俺の信じた奴らがいる。その相手の命が自分の吹き込んだ魂であれば、救おうと思ってもおかしくないはずだ!?」

「….、」

「それにアイツらはいつでもこんな嫌いな俺を助けてくれた!!今度は俺がアイツらを救わなきゃダメなんだよッ!!」

言いたいことを言いたいだけ吐き出した坂崎は、くるっと私に対して背中を向けたかと思えばすぐさま走り出してしまった。

私が手助けしないと分かったのか、諦めて帰るようだ。

 

「相変わらず愚か者だな、坂崎よ」

 

...

 

「うっ..、ぉええ..っ!は..っ、はァっ..」

「がんばれ、桜井..!気をしっかり持て!」

「..さ、さむいッ..、さみぃよ..!ぉぐッ..」

「大丈夫ですか、二十四番さんっ?体の震えが..」

「七十二番さん、どうします?どうすればいいんですかっ?何か対処法とか知らないんですか??」

「俺は桜井みたいにクスリやってた訳じゃねーし、対処法とか分かんねーよ..。いつもはこんな酷くならねぇし、第一..多量摂取しちまってるから体が完全にイカレちまってるんだと思う。医者じゃねーから俺には何が正解か分からん」

「でも見てるだけじゃ死んでしまうかもしれないんですよっ?全身の痛みに嘔吐の次は震えてるじゃないですか!」

「….。」

 

そう言われても..。俺たちが間違った判断をすれば、それこそ命取りな気がする。

だからと言って、見てるだけなのは正直もうキツい。そして何もしてやれない自分たちが憎い。全員が見てるしか出来ないなんて..無力にも程がある。

とにかく船頭が帰ってくるのを待つしかねぇ。

そうこうしていると、他の船頭たちが俺たちの家にまで駆け込んできては桜井の状態を気にかけてくれているようだ。しかし、今のこんな桜井を見ては顔を引き攣らせて息を飲む音が聞こえた。

もし..もし、桜井が自ら進んでやったとしたらそれは自業自得だ。それでも俺は助けようと思えるが、船頭たちはどうだろうか。

しかし今回は無理やりやらされたとなれば、みんなは桜井を助けてあげたいという気持ちを持ち合わせている。その気持ちは正直すげぇ嬉しかったし、有難かった。だが、この場にいる全員が助けたいと思うだけで結局何もしてやれていない。

こんな苦しいことってあんのかよ..おい。

 

「..くっ」

ズキッと頭が痛む。

まただ。また痛みが走る。さっきからなんなんだよコレ?

 

「どうしたんですか、七十二番さん?」

「いや..。なんでもねぇよ」

三番が尋ねてきたが、それをはぐらかす。よりによって、なんでこんな時に俺の体調も優れないんだよ。..くそっ、頭おかしくなりそうだ。

自分に気を取られてるうちに、一番が「二十四番さん!?」と声をあげるので、桜井の様子がまたおかしくなったのか?と思いそちらに顔を向けてみると..

 

「くっそぉおお..!!欲しい..いゃ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだッ!!..ぁあぁあああっ!!!」

「二十四番さん!しっかりして下さいってば!!」

「桜井っ..」

「イヤだイヤだイヤだイヤだっ!!うぅううッ..!くれよ..早く欲しいッ!」

「桜井っ!」

何かを求め始めている桜井は、天井に向けて手を伸ばしながらブルブルと震える指先で縋っている。

そっと俺も手の伸ばし、その震えた指先に少しだけ触れてみると..ヒヤッとした冷たい指の感触が伝わってくる。こんなにもコイツの体は冷えきってしまっていたのか..

 

「あぁあッ..、苦しぃ..っ。ダメだ….ダメ、だ….っ」

「..!?」

なんだっ?今までの震え方となんか違うぞ!?

「七十二番さん!二十四番さん、痙攣起こしてますよ!?」

「痙攣って..!おいっ!!お願いだからしっかりしろよ桜井!?」

 

しかし、桜井の容態は急激に変化していく一方。再び目が虚ろな状態に戻ってしまい、手から腕にかけての痙攣が酷い。それに加え顔色も真っ青になっており、下手すりゃこのまま死んじまいそうな勢いでしかない。

おいおいおい..!もうこれ以上のことは起こってくれるなよ..!

「目の焦点が定まってません!呼びかけても反応も示しませんし、一体どうすれば..」

 

俺はどうすればいい..?

このまま桜井を放っておけというのか?いや、そんなこと出来るはずがない。だけど、やり方が分からない。どうすればいい?どうやればいい??中毒者の看病なんて、見たことないからガチで分からねぇ..っ。

いや、落ち着け落ち着け落ち着け..!

そう自分に言い聞かせてみるも、嫌な汗が額を流れる。自分も震えが止まらなかった。頭もそれと同時に真っ白になっちまっている。

みんなが俺の名前を呼び、どうするんですか!とデカい声で問いただしてくる。

この状況を落ち着かせる為には..その為にはっ….

 

「….せ、」

 

バンッと開いた扉に目を向けると、そこには今俺が呟こうとしていた名前の奴が、若干息を切らしながら立っていた。

「船頭..っ、」

「二十四番の様子はどうなってる?」

 

息切れした呼吸を整えつつ、桜井が寝ているベッドの方へやってくる船頭。その顔はさっきとはあまり変わらず、寧ろ恐さが増しているようにも見えた。

クソっ..悪魔め。やっぱ罪人を助ける義理なんてないって訳か。

「痙攣起こしちまってる。呼吸も浅いし、顔も真っ青だ」

「とにかく..コイツを楽にさせてやるのが優先だ。誰か滝つぼから水を汲んできてくれないかっ?それを飲ませれば或いは楽にしてやれるんじゃ..」

「そ、そうか。あの水なら治癒力もあるから、多少は良くなるはずだ..!」

「あぁ。本当なら二十四番担いで向こうまで連れて行きたいが、こんな状態じゃあ逆に危険だ。出来るだけ大量の水をここに持ってくるようにしてくれ」

「分かりました。俺が行きます!ペットボトルかなにかこの家にありますか?」

「あぁ、そこの冷蔵庫の横にデカいやつが置いてあるからそれ使ってくれ!」

「はい!」

滝つぼの水..。そこまで頭が回らなかった。そうだ、この島は悪魔の力が働いてるせいで不思議なことが多い。

あの滝つぼには何度も世話になっているのに、今の今まで全く頭に入っていなかったな..。悔しいが、やっぱ船頭がいてくれて少し安心しちまっている自分がいた。

五番が水を汲んできてくれるとのことで、俺はペットボトルが置いてある場所を指差している時だった。

 

 

桜井の吐く息が、プツンと切れてしまったではないか。

 

「えっ..?」

全身に入っていた力が一気にすとんと抜けたようで、ベッドにだらんとその体を横たわらせるだけになっちまっていた。

「さ、桜井っ..?」

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