降りてきたもう一人の天使
次の日。
私を助けてくれた能天使ことタナセに会いに行き、タクローさんに一応許可をもらってからこの男を連れ出すことにした。そしたらなぜかサカザキも引っ付いてくるが…まぁ、午前中はそう大して仕事はないから別にいいのだが。
サクライはしっかりと仕事しに行ったからな?
「これがその〝明日の鐘〟ですか?」
「あぁ。今までは私一人しか鳴らせなかったのだが、お前がここへ来たということであれば、当然この鐘は鳴るはずだ。サカザキ、一回見せてやってくれ」
「へいへい」
面倒くさそうにしているサカザキだがアイツは〝明日の鐘〟の下へ立つと、鐘の紐を思いっきり引っ張ってみせたが……
「…えっ!?音が鳴らない…!?」
「言った通りだろう?しかし私がコイツを鳴らそうとすれば…」
サカザキに代わり私が鐘の下へ行くと、サカザキから紐を受け取りそのまま引っ張ってみせれば先程とはまるで違うその美しい鐘の音色をあげてはこの町へと響き渡らせていく。
こんな不思議な光景を見ては口を開けて驚いているタナセではあったが、私もいつこの力が失われるか分からんからなぁ…。天界であんなこと言ってしまったあとだし、寧ろなんでまだこの力があるのか謎なままだ。
後ろにいたタナセに「鳴らすか?」と問うと、彼は慌てて「は、はい…!」と言いながら鐘の紐を手に取ったあと、私たちと同じように紐を引っ張ると当然鐘は鳴るのだが…
「あれ?」
「なんかいつもと鐘の音が違くない?」
「そ、そうなんですか?」
私とサカザキだけが気づくその鐘の音は、なんと言えばいいのか私が鳴らした時よりもタナセが鳴らした時の方が音が低いというか重厚感があるというか?私が鳴らしたら逆に風にのって透き通るかのような音色だからこうも違うのかと感心してしまう。
右手を顎に当てながら理由を考えてみるが、鐘は我々天使をよく見ているという意味なのだろうか?天使によって音色が変わるとか…?
「天使の個性でも出るのかね?」
「かもしれんな。どちらかと言えばタナセはバリバリに戦闘するタイプの天使だから鐘の音が重たく聞こえるのかもしれん」
「あ〜なるほどね。タカミザワも戦いはするけど元はそんな戦うようなタイプじゃないんか?」
「まぁな。タナセみたいに戦闘となるとあんな目付きは出来ないしな、私は」
「えっ…!」
度々見てきたこの男の相手を冷徹な目で見てくるその視線は、私以上に悪魔と戦ってきては全ての誘惑に打ち勝つ為に培ってきたものだというのもちゃんと理解している。副長をやっていただけあって相当な手練ということはもちろん理解しているさ。まぁ、あの会議の場にいつもいたから当然強いのだろうとは思っておったし。
「あー、確かに。タカミザワは天使に戻るとどっちかっつーと力強いって雰囲気だもんな。けどタナセは逆にベリアルと対峙した時なんて、めっちゃくちゃに殺気立ってたもんなー」
「いや当たり前でしょう…!?奴ですよ!?ベリアルですよ!?寧ろなぜ人間の皆さんがアイツに対してそんな余裕そうな態度しているのかが分かりませんよ、こちらからしたら…!」
「うんまぁ、ね?慣れかな」
「慣れちゃダメですってば…!もう…」
相変わらずタナセが呆れているけど、まぁベリアルももうこれ以上ここの人間たちに危害を加えると私が手に入らないのを知っているので今のところは安全圏にまだいるので大丈夫なはずさ。
「タカミザワ様、しっかりとここの人間たちに言って下さいよ!あの悪魔は最悪中の最悪な悪魔なのだということを!」
「も、もちろん何度も言ったぞ…?それなのにここの皆は私の話しを全く聞こうとしないんだよ…あはは」
「逆になぜ人間たちが恐れないのかが不思議で仕方ないのですが…」
すると後ろから「ここのみんなは色んなものを何度も悪魔たちに奪われているからですよ」なんていうタロウの声が聞こえてくるので、三人で振り返ってみせれば今日は休暇のはずのタロウがここにいるではないか。
「タロウお前、来ておったのか?」
「はい。ちょっとやりたいことがあったので来てみればタカミザワさんたちの姿が見えたので寄っちゃいました」
そんなタロウの言葉にタナセが「奪われている…?」と疑問を口にしてみせれば、タロウは〝希望の鐘〟の傍へ立ってはここの丘の景色から町並みを静かに眺めつつ、そして語り始めていく。
「昨日タカミザワさんやサカザキさんたちが言ってましたけど、俺たちは悪魔に何度も大切なものを奪われてきました。始めはサクライさん、サカザキさんの命。そしてそのあとはタカミザワさんの生きる希望を奪っていき…、お二人が蘇ってきたと同時にタカミザワさんの記憶をまた悪魔に奪われて…。なのに俺たちはそれを全て見ているだけでした。誰一人として悪魔に歯向かえる者もいなくて、ただ一方的にタカミザワさんたちが蹂躙されているところを見ているしか出来なくて…悔しいのにこの体は怖くて動けずにいて、何度自分を鼓舞しては立ち向かおうかとも思っていたのに結局俺たち人間は何も出来ず奪われてばかりだったんです…」
「そう…だったんですね」
タロウ…お前、そんなことを思っておったのか…?
初めて彼からそんな言葉を聞いて、少しだけ胸がギュッと掴まれたかのような感覚に陥る。
「だからこそあのベリアルとかいう悪魔がここへ来ようとももう誰も何も恐れません。これ以上悪魔に奪われないようにする為には俺たちここにいる人間の心が強くなければ意味がありませんから。力で勝てなくとも心をしっかり強く持ってさえすれば、例え殺されたとしてもそれは悪魔たちには負けたって言えないでしょう?」
「それはそうかもしれませんが…」
まだ余り納得いってないような表情をしているタナセだが、タロウが軽く〝希望の鐘〟の紐を引っ張るといつも通りもう一つの鐘がこの町に鳴り響いていく。そしてタロウのその横顔はとても勇ましくて…その目に宿す“何があっても諦めたりするものか”とでも言いたげなその表情は、私も見習わなければならないものなのかもしれん。
「タカミザワさんがサクライさんとサカザキさんを失ったあとの苦しみにもがき続けているあの頃をみんな覚えているんです。だからもう誰もあんな思いをしたくないから強くいられるんだと思います。それが子供だろうと女性だろうと関係ないんです、ここのみんなはタカミザワさんが大好きだからこそあんな目に二度と遭わせない為にも恐れを知らない人たちばかりになっちゃったって言った方がいいかもしれませんけどねっ?…ま、昨日タカミザワさんがその悪魔に唆されかけて“なんでー??”とは俺も思いましたけどね〜!」
「ぅぐう…!?す、すみません…」
タロウにジトーっとした目で見られたがこちらは目をそーっと逸らすしか出来ない…。多分昨日のことはこの先一生言われ続けるかもしれん変なネタのようなものになってしまっただろうなぁ…。絶対この先も皆から弄られ続けるの確定だ…
私とタロウのこんなやり取りを見ていたサカザキがニヤついた顔をしているのに対し、タナセは少しだけ吹き出してはいたが…まぁまぁまぁ別に構わないさ。私は自分の欲望にも打ち勝てたので気にすることなどない…!
「でも良かったです…」
「何がだ?」
タナセがようやく少し安堵したかのようにこの町並みを眺めていると、サラッとした心地よい風が通り過ぎていき、それのせいで私たちの髪がその風のせいでふわりと靡く。
「タカミザワ様がここの地でとても愛されていて…。貴方は全然独りなんかじゃないんですねっ」
パッとこちらに顔を向けてきたタナセの表情はとても穏やかになっており、かけられたその言葉がとても嬉しくて嬉しくて…改めてここの町の者でもない誰かにそう言われると、ようやく私はここの者たちに認められたかのように思えるなと。今心がとても温かい。
するとサカザキが「アンタは落ち損か?」なーんて嫌味たらしく聞いてしまうので「ちょっ…!」とは思うものの、当の本人は少しおどけた顔をして「かもしれませんねー」などと答えてしまっている。そ、そりゃあそうだわな…。天界であんなものを目にしてしまっていたら、如何に私が孤独だったのかとそう思われても仕方ないよな…うん。
「す、すまないタナセ…。私の為を思って覚悟してまで地上へと来てくれたのに…」
「……これから私たち、どうなるのでしょうね?」
「さぁなぁ…それは私にも分からんが、これから先は敵が悪魔だけではなく天使も加わるかと思うと心底億劫ではあるが…。でも今までと違って私にはお前がいる。一人でも近くにこうして天使がいてくれると私はとても心強いぞ?町の皆ももちろん大切だが、タナセの存在も相当大きいぞ私にとっては!そして昨日の私の態度の非礼を詫びたい」
そう言いながら私がもう一度タナセに頭を深々と下げると、またタナセが「もう大丈夫ですから…!頭をあげて下さいっ!」と両手をブンブン振っては慌てている。しかし昨日は私の為を思ってベリアルとの契約を止めに入ってくれたというのに、あの態度はなかったよな…と私はまだ後悔している。助けてくれようとしてくれた相手なのに、本当に私は弱くて情けない天使だよ。アイツらが言っていた通り、私はただの出来損ないなのだから。
「謝らないで下さい…!だって私にも気持ちは分かってあげられますから…。あんなことがあった後であれば、悪魔の囁きについのりたくなる気持ちも分かります」
「出来損ないのただの赤子の戯言だと思ってくれたらそれでいい」
「それは…違いますよ、タカミザワ様」
「え?」
タナセの視線が真っ直ぐと私を捉えるので、こちらも誤魔化さずにコイツの話しを聞こうではないか。
「貴方は出来損ないなんかじゃありません。とても優秀だったからこそ他の上級天使は貴方を恐れたのです」
「そんな訳が…」
「いえ、貴方はいつも完璧に仕事をこなしていたではありませんか。貴方が失態を犯しているところなんて一度たりとも見たことがないですし、とても努力しておられたじゃないですか。私は知ってますから、タカミザワ様が影で死ぬほど努力していたことを」
「…でないと他の者たちに着いていけなくなるからな」
「歳が若いというだけで虐げられ、除け者扱いされていたという事実は正直私も知り得ませんでしたので今まで気づけず本当に申し訳ありません…。他の仲間たちに伝えられたらどれほど良いのだろうと今も悩んでおりますが、そう簡単には事が運ぶとは思えないのでそこも難しくて…。熾天使に座天使、それに貴方と同じ智天使たちがこんな事実を公にするとは思えないうえに誰もそんなことをしているだなんて信じられないでしょうから私たちは分が悪い状況ではあります」
「それはそうだな。でももう私は正直どうでも良いのだ…。私が天使に戻れなくなろうとも、天界へ帰れなくなったとしても…もう私にとっては全てがどうでも良い。アイツらと関わりたくない。私が一人悪者にされるくらいどうってことないんだよ」
「しかし…!」
「私の無実を証明してやりたいってか?やめておけタナセ、どう足掻いても我々二人だけではアイツらには勝てぬ。…そう思ってくれるだけで私は心から嬉しく思うぞ?ありがとな、本当に」
「いえ…、私はただ無力なだけです…」
「無力なものか。だって私のことを助けてくれて、それに私の傍にいてくれるではないかっ」
「でも…」
「私は独りじゃないから…この町の皆がいつもすぐ傍にいてくれるから…。天界では孤独だったかもしれないが、ここでは私を想ってくれる人たちがこんなにも大勢いるのを私は忘れてはいけないのだよ。だから前を向いて生きていける。…ま、人間の私にとっちゃ天界や魔界がどうなろうと知ったこっちゃないからなぁ!私たちはそれに巻き込まれぬよう、上手くのらりくらりと交わしてスルーを貫き通すぞタナセっ?」
「えっ…?は、はい!分かりました…!」
一応納得してくれたかな?でも私たちの今出来ることと言えばこれくらいしかないのも事実だしなぁ。人間として生きるというのなら、私は人間界で必死に生きていけばいいだけなのだから天界や魔界がどうなろうとも知るかって話しだからな、こちらからすれば。
ここで一旦タロウとは分かれ、私たち三人で町の方へ戻る途中にサカザキがとあることを聞いてくる。
「でもさぁ、タカミザワにも上には家族とかいたんじゃねーの?その人たちのことはもういいの?」
「言わないようにしておったのにぃ〜…」
「あ、そーなん?悪ぃわりぃ気ぃ遣えんくって」
「ホントだぞ、まったく…」
気にしないようにしていたのにサカザキに言われちゃあ答えるしかないので、ため息をつきながらサカザキの質問に答えてみせる。
「家族と言っても私たち天使は神から創造されたに過ぎない存在だから、人間たちのように血の繋がった家族とかいうものではないのだよ。だけど苦楽を共にした者たちが私の周りにも大勢いた。その者たちだけでも別れの挨拶くらいしておきたかったが…天界で私の扱いがどうなっているのかもう分かっておるから会いに行ってもムダだろうな」
「そっか…。なんかごめん」
「いいと言ってるだろう!私にはサカザキたちがいる!その事実だけで私は強くなれるし寂しくもないんだからな!…共に生きてくれるんだろう?」
そう私が少し切なげな表情で尋ねてしまったからなのか、サカザキが少し焦りながらも「当たり前だろ…!」と即答してくれた。うん、そうやって答えに詰まらずに即答してくれることこそが本当の意味での答えだと私は思っているから、だから私は何も不安も不満もない。お前たちと共に生きていけるんだもの、こんなに幸せなことはないぞ?
私とサカザキのやり取りを見ていたタナセがぽつりと「早く私もここに慣れたいものです」と呟くように話しかけてきてくれたので、私もサカザキも「すぐに慣れるさ」と答えてやる。
このあとはタナセをこの町の案内をしつつ、ちょうどサクライが働いているセキグチさんのお店の前まで来たのでついでに軽くブランチしようとなりお邪魔すると、サクライが私たちに気づいて「いらっしゃい〜!」なんて明るく声をかけてくれて、好きな空いてる席座ってもいいよとのことなのでテキトーに座る私たち。
まだお昼前なのでそこまで人も多くないのでサクライも私たちのテーブルへ来ては少し一緒にお喋りをしていた。
「タナセ案内してたの?」
「そうだ。先ほど私の教会にも行って、〝明日の鐘〟も見事鳴らしてきたぞ」
「あ〜!なんか〝明日の鐘〟の音二回聞こえてきてたけど、一つはタナセだったの?なんか音がいつもと違うな〜とは思ってたけど」
「そうそう、私とタナセとでは鐘の音が結構違うんだよ」
「サクライもすぐ分かったん?」
「分かるよ〜!さっきセキグチさんと“あれ?いつもとなんか違くない?”って話してたとこだったし!」
「やっぱり私とタカミザワ様ではかなり違うのですね」
「うん。だって〝希望の鐘〟ともまた音が違ったから…なんだろうな〜?って不思議に思ってたから答え分かって良かったよ。あの音はタナセだったのね」
「これからも私が鳴らしても良いのでしょうか?」
「いいんじゃない?だってアレは天使しか鳴らせない鐘なんだもん」
「…先ほどタカミザワ様やサカザキさんにここの町の伝承や今までにあったことを聞いてましたが、あの鐘は…一体誰がなんの為に作ったのでしょう?」
「それはさっきも言ったじゃねーか、昔の人々があの悪霊天使を封印する為に造ったようなもんだって…。まぁその悪霊天使はサクライが復活させたようなもんだけど」
「ゔっ……すみません…」
「こらサカザキ!もうそういうことは言ってやるな!」
私がサカザキに向かって叱責するも、サカザキは全く気にしてなさそうに「腹減ったから注文していい?」とサクライに聞いているが…コイツもコイツで自由で羨ましいな、ホント。
それに釣られてサクライが私たちの注文を取ってメモしてからキッチンの方へ戻ろうとしていた彼に対してタナセが「貴方がタカミザワ様を裏切ってしまった人間なのですか?」と聞いていたので私が慌てて「おい…!」と言いかけたのだが、声をかけられたサクライは振り返ってタナセを見つめては「うん、そうだよ」とハッキリと答えてしまう。さ、サクライ…
「とても…そんな風には見えないのに」
「あはは、そう思うよね?でもさ…」
そう言いかけたサクライはタナセだけを見やり、そして腕組みしてからなんだか怪しい顔を見せつけながらこう答えてしまう。
「人は見かけによらないってもんよ?俺は自分自身の私欲とこの町に残る伝説を証明したいが為だけにタカミザワを裏切っちまった“最初の”人間だからねぇ。…ただの悪霊に取り憑かれていただけだっていうのにね、バカでしょ?ホントに」
「サクライ…」
今のアイツは…本当はどう思っているのだろうか。
「だから貴方も気をつけてね?近くにいる者が本当に信用信頼出来る人たちなのかを貴方はしっかり見極めなきゃいけないんだよ。特にタナセはタカミザワと違って今も本物の天使なんだからさ?」
「はい…分かりました」
「信じるって言葉は重たいように聞こえるかもしれないけど、でもそれで救われる人たちも大勢いるのも本当だからね。その信じる相手が天使だろうが悪魔だろうが人間だろうがそれはきっとどんな人種や種族でも関係ないと思うんだ。タカミザワもきっと天界の天使たちとの関係の在り方を考えるようになってきているだろうし、俺たち人間のことをこんなに信頼してもくれている。それに、もしかしたら悪魔たちが本当にタカミザワの味方だとしたら、誰をどう信じるかはもう自分で決めるしかなくなるもん。だから見かけに騙されないように気をつけてね、タナセも」
「は、はい!」
とかなんとかサクライが言ってるが「ま、もしかしたらまた俺が裏切ったりするパターンもあるかもだけどね〜」なんて変なこと言ってくるから私もサカザキも少しギョッとしてしまったのだが、口調が完全にからかい口調の冗談で言ってるだけだっていうのは分かっているのでまぁいいだろう…
でも心臓に悪いからやめてくれ。
だがサクライは私たちのこんな反応など気にせずにキッチンの方へと引っ込んでしまったので暫くは戻ってはこなかったものの、ようやく出来上がった料理を持ってきてくれては三人で食べる。うむ、やはり美味い!タナセも「美味しい!」と感動してくれたようで、サクライはとっても嬉しそうにニコニコしながら料理を頬張るタナセを見ては「ゆっくりしていってな」と一言残してからまた奥に引っ込んでしまった。
は〜、サクライも料理はいつ食べても美味しいなぁ。ここ最近太ってきたような気もしなくはない…かも。気をつけねば…
「でもよー、サクライさっきあんなこと言ってたけど昨日はタカミザワたちが降ってくる前にベリアルに対して“タカミザワが全世界を敵に回しても俺は最後まで何があろうともアイツの味方だ”って言い切ってたんだぜぇ?」
「そ、そうなのか?」
パンを頬張りながら昨日の出来事を口にするサカザキの言葉に驚き、ご飯を食べる手を思わず止めてしまったほどだ。サクライがそんなことをベリアルに向かって言っていたのか…?
な、なんだか嬉しいと同時に恥ずかしい。いやでも嬉しい。
「サクライも自分で分かってるだろうけど、お前を一番最初に裏切っちまった人間ってのがアイツにとっての負い目なんだろーよ。良かったなータカミザワ、何が起こってもサクライだけは最後までお前の味方だってさ。心強いな?」
「確かに心強いし安心出来るな、サクライなら。…でも全世界を敵に回すは流石に言い過ぎだろ…。私そこまで悪いことしない…」
「俺は多分自分の心に従うからその時の判断を信じるわ」
「う、うむ…。サカザキはそれでいいと思うぞ」
「タカミザワ様たちは本当に仲がよろしいのですね?なんだか見ていて安心致しました」
「あはは…、仲が良さそうに見えるのならそれはそれでいいんだがな」
三人とも全て食べ終えた頃、サクライがまたやって来ては「ちょっとサービスね」なんて言いながら小さなケーキを出してくれたので私は心踊って飛び跳ねる。やった!サクライの作ったケーキだ!
サカザキが「何味?」と聞いているが、サクライは「レモンケーキ」とだけ答える。私たちが早速頂くと生地の中に香る爽やかさと同時にくるレモンの甘酸っぱさが絶妙に美味い!食後の紅茶にとても合う!サカザキも美味いと褒めながら食べており、タナセも「…!」と言葉を失ってはあっという間に食べ終わってしまっていた。もう少し食べたい気持ちはあるが、これくらいでちょうどいいので我慢しましょう。
まだ店内は混んでいないのでサクライも同じテーブルの席にちょいと座りながら軽く四人で談笑していたり。どうせこんな小さな町の中なのだから顔見知りばかりでみんな朗らかな性格の人が多いので、サクライが今こうして少しサボってようが誰も何も言わないさ。寧ろサクライはきちんと仕事をしている方だと思うしぃ?サカザキに比べれば。それにセキグチさんも特になんか言ってくる訳ではないから今は大丈夫な時間なのだろう。
「サクライ今日夜ウチ来る〜?」
「うん、行くつもりだったよ。タナセの働きぶりを見てみたいしね?」
「えっ」
言われた本人はちょっとドキッとしてそうな表情をしているが、まだ人間界二日目なので大目に見てやってはくれんかね?
「タナセをからかうでないぞ、サクライ」
「うぅん大丈夫。タナセはしっかりやってくれるタイプだってのは分かってるから、サカザキをこれからどう扱うかを見てみたいって感じだよ」
「俺かよ」
けっ、とあしらうかのような態度のサカザキではあるが、お前がきちんと仕事していればそれでいいだけの話しではあるんだからな?
「タカミザワは今日弾き語りする?」
「どうしようかな〜。今週は目一杯休もうと思ってたところだから、今回はやめておこうかな〜」
「あのお店で音楽をするのですか?」
と、タナセが質問してくるのでサカザキが「するぜー」と答えると、彼は少し興味深けに「へぇ!」と明るい反応をする。お?気になるのか?
「皆さんやるんですか?」
「俺はあの店で働いてっから半分アレが仕事みたいなもんではあるからな」
「逆に俺はチップ欲しさの小遣い稼ぎってところだね」
「そうなんですね。タカミザワ様は?」
「私もただ好きでやってるだけだからなぁ。あまりチップ欲しさとかでやってる訳ではないが、でも貰えるもんはもらっておこうとは思ってるぞ」
「しかもコイツ女装するんよねぇ」
「おい!やめんかサカザキ!私の威厳がなくなるだろう…!?」
「どーせこれから見せるんだから威厳も何もねーじゃんかさー?なに恥ずかしがってんだよ〜??」
「う、うるさいっ!ちょっと黙っとけ!」
「タカミザワ様は女性の格好するんですか…」
「しかも結構似合うんだよね」
「サクライまで加勢せんでいい!」
案の定タナセが変な目で私を見ている。
あーーーもう最悪だぁ〜〜…!!
恥ずかしくて顔を赤くしてしまっていたが、そんな私を見てタナセがプハッと吹き出しては「思ってたより明るいお方なんですね…!」なんて軽く笑いながらそんなことを言ってくる。うぐぅ…まぁ…今はだいぶ明るくなったのは否めんから別にいいんだがなー…?
ぷくーっと片方の頬だけ膨らませていれば、突然やって来たセキグチさんに「でもこの天使、この二人が死んだあとはとんでもなく鬱になってたんだけどねぇ〜」なんて軽く笑われながらそんなことを暴露されてしまった。い、言わないで欲しい…。どんどん私の威厳がなくなる…
「鬱だったのですか…?」
「そりゃあもう凄い酷かったよ。自分を殺そうとする勢いみたいだったし、よく発狂してたもんねぇタカミー?」
「よくはしてませんから…」
「だ、大丈夫だったんですか?」
「大丈夫ではなかったな…」
思い出したくもないが、本当のことだから否定はせんが…。でもやっぱり思い出すのだけでもしんどいと言えばばしんどいものだ。
「また機会があったら話すぞ」
「分かりました。また聞きます」
さて、そろそろ食べ終わったので出るとしようか。
サクライとセキグチさんにご馳走様をして、サクライが会計してくれたのだが私とサカザキはそのままお金を払い、タナセに関してはサクライが「今回はこちらの奢りにするから、稼いできたらまた次回からしっかり払ってね」なんて言うからタナセもペコペコ頭下げながら「ありがとうございます…!」と恐縮そうにしている。ま、こういうのも自由だからいいよなぁ。
「今日も美味しかったぞ!ごちそうさま!」
「ごっそーさーん」
「うん!また来て!」
サクライとは分かれ、私たちは店を出るがここでサカザキとタナセは一旦店に戻らなきゃならないとのことだったので二人ともお分かれ。じゃっ、なんて言い合いながら二人が行く背中姿を少しだけ見届けてから私はフゥ…と小さくため息をつく。だけれどこのため息は悪い意味のため息ではないからな?今日がまたこうして穏やかに幸せで過ごせていることへの安堵のため息だから、決して悪い意味ではない。
さて…と。今から何をしよう?今日も入れてあと六日は休みなので、普段やれないことを沢山したいとは思っている。でも他にやりたいことってなんだろう?なんて考えながら取り敢えず町をブラブラしているが、見慣れた小さな町なので特にこれといってやりたいこととか思い浮かばんのだよなぁ〜。
うーん、と考えながら歩いていた時。
なにやら観光客らしき人たちが私の横を通り過ぎ、私の教会へと続く道へと行こうとしている姿を見てしまえば少し思いついたことがある。
「…ここを出て少し他の町や村へと行ってみるのもありか?」
長旅は出来ないけれど、二日か三日程度の旅行ならありかもしれないな?
人間界へ来てからほとんど私は他の地へ赴いたことがなかったから、これを機にどこかちょっとした旅に出るのも面白いかもしれない。頭の中で色々と計画を組み立てつつ、また夜になったらサクライやサカザキとも相談してみよう。まぁ二人からは「一人で行けるのか??」って言われそうな未来しか見えないが。
他の教会やそういった歴史的な建造物など見に行くのもある意味勉強になっていい気がするし、初めて見るもの触れるものが多ければ新鮮で楽しいかもしれない。
「…よし!旅に出てみようっ」
だが、失敗してすぐ帰ってくる羽目にならないように気をつけよう。
·.⟡┈┈┈┈┈︎ ✧┈┈┈┈┈⟡.·
私はとことん智天使を虐めたいみたいですね(´^ω^`)笑
そしてよーーーやくタナセさん出てきました!出て来るまで長かったねぇ!笑
この章の一つ前の「雄偉なる君へ」を書くにあたって、明日の鐘を全て読み返していた時に「あれ?町の住人の中になんでタナセさんがいないんだ?」と気づきまして…
そしてふと思い出したのが、昔の私はそういえばタナセさんは天界側の天使にするつもりだったんだ!というのだけはハッキリ思い出して…、なので今回よーーーやく初めて登場させてあげられました·̩͙꒰ঌ( っ️˘꒳˘)っ*. ゚
昔の私が明日の鐘をどういうストーリーにして、どう書くつもりだったのかを全く思い出せないので新しくお話を考えて書き出しましたが、智天使が落ちてきた理由も未だに書けていなかったので色々と書けるうちに書いていこう精神でもう一気に書き切りました_(:з」∠)_
これから先、智天使たちがどうなってどうやって生きていくのかもまだこの時点では曖昧なままではありますが、この町で生きていくことだけは確定なので、もう天使やら悪魔やらの抗争にも巻き込まれたくはないし放っておいて欲しい気持ちが強いと思うので、私もいい加減智天使を平穏に暮らさせてあげたいとは思ってはいるよ(´•̥ ω •̥` *)?笑(信用出来ない)
これ以上苦しい思いをするのか…それとも平和に過ごせるのか…。取り敢えず今まで謎だった部分は書いたつもりなので、この章はこれでヨシとします𐤔
でも「エデンの君」を聴いたお陰で、なんとなくでしか話が出来上がってなかったものを一気に開花させてくれて有難い笑
これが2026年の3月時点ということだけもmemoしておこう。。…φ( ˙꒳˙ )メモメモ
オマケ·̩͙꒰ঌ(・ࠏ・)໒꒱·̩͙
夜になる前、少し早めにタクローさんのお店へと赴けばサカザキがちゃんとタナセにものを教えているところを目にして「おぉ!」なんて思わず口に出てしまったせいで、サカザキに「あ?」なんて言われながら睨まれた。
カウンター席に座り、タクローさんに「サカザキちゃんと仕事してますねぇ!」なんてわざとらしく声をかけると、タクローさんが「明日くらい嵐がくるんじゃねーか?」とか冗談言われており思わず笑ってしまったではないか。そしたらまたサカザキに睨まれた。
しかしサカザキはタナセに対して食材の名前や料理のやり方作り方、物の名称に食器の洗い方や拭き方、それにテーブル周りの後片付けの仕方など割と丁寧に教えてはタナセに付きっきりでいたのには感心する。だが、多分これだけ今真剣なのは早くタナセに仕事を覚えてもらってあとは自分が早く楽をしたいから今こうして徹底的に丁寧に教え込んでやってるだけなんだろうなという思考だけはどうしても過ぎる。いや、絶対そうに違いない。
今はお酒の名前や作り方などを教えている最中でカウンターにいるが、まだ覚えることが多いのでタナセは必死になってサカザキの言う通りに作業をしている。
「やれそうか?」
「次の注文があればやらせて下さい…!」
「お、いいじゃん積極的ぃ。でもここのみんなは考え方もユルいし割とテキトーでも大丈夫だからあんま気にせんでいいよ」
「そ、そういうもんですか?」
「うん、そういうもんよ」
「しかし天界にいる頃は全ての規律が厳しくて常に気を張って仕事していましたからなんだかこうも適当ですと逆に不安になると言いますか…」
「あー別に平気ヘーキ!あんま頑張りすぎると疲れちゃうからいいってーのぉ。それにここ天界じゃなくて人間界だし」
「それもそうですけど…」
「……、」
「なんでしょうかサカザキさん?」
グラスの中に氷をカランッと入れていたサカザキが急に手を止めてはタナセの方を見やり、いきなり見られたタナセの方も「えっ?」という表情をしてサカザキを見ていたけど…
サカザキは自分のメガネをなぜか外したかと思うとそれをタナセの目にパッとかけるイタズラをしており、イタズラされた本人も「…??」と変な顔してサカザキを未だに見ているのだけはよく分かる。何してるんだアイツら?
「このメガネ、貸してやんよ」
「えっ?」
「アンタも一応人間に擬態してる天使なんだからそれがバレでもしたらダメでしょ?ならそのメガネで軽い変装しとけよ」
「いえしかし…!」
「メガネもう一個あるしいーよ、それ使っても。度が入っててちょっと使いにくいかもしれんからまた後日伊達メガネ買いにいこうか、買ってやるから」
「えっ!そ、そんな別にいいですよ…!貸して頂けるならこのメガネで十分ですっ…!」
「そう?」
「はいっ。なので有難く使わせて頂きますね」
「それならまぁいいんだけどさ」
そう返事していたサカザキはというと、自分のもう一つのメガネを取りに行く為に「ちょっと部屋行ってくる〜」なんてタナセに伝えながら二階へと行ってしまったが、そこにまだ立っていたタナセはというと…。もう一度サカザキが貸してくれたメガネを取り外してはそれを色んな角度から見てはいたが、やがて気が済むとパッともう一度耳にかけてはふにゃっとした照れているような…なんとも嬉しそうな顔をしてはグラスの中に氷を入れる作業を続けていく。昨日まであんな険しい顔付きしておったのが信じられんなぁ。でも天使は天使だから雰囲気が柔らかくても当たり前か。
そんな二人の様子を見ていた私とタクローさんだったが、目の前にいたタクローさんと目が合えばなぜだか互いに軽く吹き出してしまったのだが、まぁタナセには気づかれてないからいいだろう。それに下へ戻ってきたサカザキも私たちのことあんまり見ていないし大丈夫なはずだ。すぐにタナセに付いてはまた教えているし。
でも良かったな、タナセ。すぐ近くにお前のことを思ってくれる人間が傍にいてくれて。それがサカザキならなんら問題ないと私はそう思うぞ、仕事面以外では。
タナセが…これから先どう生きて、どう選択するのかはまだ分からないけれど彼は私を助けてくれたのだから私も人間として生きる今、彼に何かしらの手伝いが出来たらいいななんて思ったりはするぞもちろん。だけど彼はまだ本物の天使なのだから…どうなるかは分からんが、今は楽しくここで暮らしていこう。
「よろしく頼むぞ、タナセっ」
꒰ঌ(っ˘ ᵕ˘)➹
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