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「はぁ‥はぁ‥!」
傷付きながらも引き摺るように体を動かす者がいた。
その背中には大きな翼を持っており、真っ白な羽根は傷付いた体からの血によって所々赤く染まってしまっているようにも見える。
そしてよくよく見てみると通常の翼よりかは少し歪んでおり、その大きな翼で大空へ羽ばたこうにもその者は翼に怪我を負っているせいで飛べなかったのだ。
「み、‥みず‥!」
目の前に現れた小さな泉に手を差し伸べたその時だった。
あと一歩というところで意識を完全に失い、そのまま頭がぐらりと回ってから勢いよく水の中へバシャンと体事突っ込んでしまったではないか。
それからその者はピクリとも動かなくなってしまったようだ。
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「‥‥ぅ」
「あ、起きた?」
ここは何処だ‥?
あれから全く記憶が残っていない。
ぼんやりとした視界が段々とハッキリと天井を映し出していき、先程声がした方へと顔を向けてみせると…その知らない男が何かを持って私の元へと運んできるのが映し出される。
そして男はこちらに向かってふんわりと微笑みかけると、ベッドに横たわっていた私をゆっくりお起こしてくれて、なぜか膝の上に持ってきたトレイをいきなりドンッと乗せてくる。
「??…?」
状況が全く掴めていない私は、ベッドの隣に椅子を持ってきてそこに座り出した男をきょとんとした表情で見つめるしか出来ないでいた。
「ん?どうしたんだよ。早く食えよ?」
「‥にん、げん?」
今の今まで夢だと思っていた。
だけどこれは現実だ。
あぁやっぱり私は……
「‥‥なぁ、早く食えって」
「え?あ‥すまん」
ボーッとしていた私を急かすこの男。何故この男は私を見ても驚かないのか。
明らかに自分と違う物を持っているというのに何故警戒をしない?
そんな事を考えているとまた急かされるので私は膝の上に乗っている粥のようなものを一口ぱくりと口内に運ぶ。すると口の中にふわりと甘い感覚が広まって、噛めば噛む程美味しさが舌に伝わってくる。
「すごい‥」
「だろぉ!?やっぱ俺って天才じゃーん!試作品食ってくれてありがとな!」
パアッと表情を明るくして私の手を握ってくるこの男に驚き、思わずビクッと体を震わせてしまった。
「あ、ごめん。馴れ馴れしいよな。俺、サクライって言うんだ!よろしく」
握っていた手を縦にぶんぶんと振ってくる男……サクライはなぜかとても満足そうにしている。そんなにこの料理が褒められたことが嬉しかったのだろうか?
というより、私も挨拶をした方がいいのか‥?
「えと‥‥」
恐る恐る声を出し、私は自分の名前を告げてみせる。
「私は‥タカミザワ。なぁ、どうしてお前は私を見ても驚かない?サクライ‥は、人間なのであろう?」
さっきから疑問に思っていた事を質問をしてみせると、サクライは「なーんだ」と柔らかい表情で呟きながら私の翼に優しく触れてきた。
自分の背中を見ると、折れていた翼は包帯で巻かれ、血が付いていたのに全て綺麗に拭き落とされていた。きっとサクライがやってくれた事なのだろう。コイツは命の恩人かもしれない。
「始めはそりゃ驚いたよ?森の泉の中でぶっ倒れてるお前を見て“嘘だ‥”って思ったんだもん。でも水中で眠ってるタカミザワを見てたら美しかったよ。髪長いから女かと思ってたら胸ないし、案外ガッチリしてるしちょっと残念かなー?とは思っちゃってごめんな?天使って女のイメージが強いからさ〜、お前見た時まさかの男かよ!って感じだった!だけど嬉しかったよ。これって絶対運命だよね?俺どうしよう、お前に会えて本当に嬉しいんだ!」
「そう‥か‥」
目を潤ますサクライだが、これは感極まって見せる涙だろう。というよりそんなに私と出逢えた事が嬉しいのか?サクライには悪いが、私は早く帰りたい。
そう思った瞬間、サクライとは対照的に私の顔は曇っていくばかりだった。そんな私に気付いたのか、再び申し訳なさそうに「ごめん‥!」と謝ってくる。
しかし、未だに握っている手をグッと握り締めてくるサクライは強気な表情を見せていた。コロコロと顔の変化する忙しい奴だなぁ。
「安心しろ。絶対お前を飛べるようにしてやるよ!だから‥」
「戻れない‥」
「え?」
私のその一言でまたサクライは表情を変えてくる。
「私は天界から追放されたから‥戻れない。堕天したと思ったのに私はまだ天使のままだ。こんな姿なら人間でも悪魔でも良かった‥もう、天使は嫌だ…!惨めすぎるぞこんな姿…!!」
「タカミザワ‥」
「なぁ、なぜ人間になれない?なぜ悪魔にすらなれないっ?天に戻れないならこんな翼……いらないぞ…!?」
どうしていいのか分からず、途端に感情が昂り、ついサクライに八つ当たりしてしまった。私は最低だな‥。自分の意志でないにしろ、こんな事になってしまったのは‥‥
いや……。私は悪くない。絶対に悪くない。何故こうなったのだ?
しかし落ち込んでいる私に対し、サクライは突拍子もないことを言い出してきた。
「そんな気を落とすなよ。天界に戻れないならここで暮らせば?」
「へ‥、?」
「俺、お前みたいな奴‥神話とかモンスターとか妖精とか‥そういう類のものが大好きなんだよ!だからさ、さっきも言ったけど運命なんじゃないかなって。な?いいじゃん」
「え、えっとぉ…」
「なっ??」
サクライの強い推しに負け、私はなんとなく「う、うん‥」と頷いてしまった。
訳が分からなかったが、ここに辿り着いてしまったものはしょうがない。私にだってもうこれ以上どうにも出来ないのだから。
ま‥人間と暮らすというのも一つの手なのかもしれぬしな。
様子見として人間と少しの間、暮らしてみよう。
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