Roar to freedom(自由への咆哮) - 27/28

Roar to freedom25

 

「ん?あぁ、いいぜ。‥えーっと、今日?おん、分かった。昼の二時からでいいのか?‥おう、おぅ。りょーかーい」

 

先ほど坂崎から電話が掛かってきて、昨日の夜に「空いてる日ないか?」ってラインしたのを自分自身すっかり忘れていて、なんで坂崎から電話?とは思っていたが。

 

あれから自由になった俺は実家に入り浸り、とりあえず仕事を何もしないのは流石にアレだったので、バイトで何とか稼いでる程度。普通に考えればこんな俺が今頃から就職出来るとは思えないしさ‥

今まで何も連絡がなかったのは怒られたが、他の事に関しては意外とアッサリとしていて、なんだか少し寂しかったが‥まぁいいや。あの地下に連れて来られるまで一人暮らしだったから仕方のない事だろうけど。

今まであった出来事を話そうかと思ったりもしたが、結局はここの警察に相手すらして貰えないのを分かっていたので黙っている方を選んで正解だったのか‥

 

というより今日の昼か。急だけどまぁいいか。あとちょっとしたら準備して出掛けよう。

 

外に出かける用の服に着替え、今日は何時に帰ろうかなーなんて考えながら昼のワイドショーを観ていた。そうこうしてる内にあっという間に時間が迫って来ていたので、そのまま家から出て坂崎に指定された場所まで来てみた。

なんだかどデカイ俺が入った事のないようなビルまで来いと言われ、入っていいのかどうか立ち往生していると、中から坂崎が「よぉ、こっちだ高見沢」と声をかけてくれる。

 

そこでようやくホッとした俺は、どれだけ臆病者なのだろう‥

しかし気を取り直して坂崎に向かって「よ!」と一言返し、右手を軽くあげた。

 

「急に悪りぃな、高見沢」

「あぁいいよ、今日は俺も暇だったし」

「なら良かった」

「ていうかなんだよお前このスーツ。俺だけこんな私服って‥すっげー居辛いんですけど」

「だーいじょうぶ、すぐ終わるから」

「え、坂崎お前就職したのか?」

「ううん、違うよ。‥‥いいか高見沢、俺の話しをよく聞け」

「?」

 

ビルの中に入って行くと、坂崎が途端に声のトーンを一つ低くして真剣な表情で話し出す。なので流石におちゃらけるつもりもなく、俺は坂崎の次の言葉を待っていた。

な、なんだろ?

 

「高見沢、落ち着いて聞けよ‥」

「お、う‥」

「‥今から桜井に会いに行く」

「はっ‥!?」

 

今なんと‥?

驚きを隠し切れない俺は思わずデカい声が出てきてしまったせいで、坂崎にお叱りを受けた。

いや‥だって、‥お前何言ってんだよ‥?

 

「俺は嫌だからな!?あんな奴なんかと会うつもりは更々ない!」

「そんな事くらい分かってる。‥でも
、今一度会って欲しい。決着をつけよう」

「つーかアイツ、お前に刺されたんじゃ‥」

「俺は一番重要な所で手を抜いてしまったらしいな。殺し損ねたよ」

淡々とした口調で話してくる坂崎がエレベーターに乗り込むので、俺も続いて乗り込む。

 

「お前、アイツと会ったのか‥?」

「あぁ、会ってきた。家でくつろいでたら棚瀬たちに迎えに来られて強制的に連行されたよ」

「だ、大丈夫だったのかよ‥?またアイツ、俺たちを奴隷にしようとしてるんじゃ‥」

「そう思っていたが、どうやら違ったみたいだ」

 

坂崎と二人きりのエレベーター内で、そんな話しを続けていると一気に最上階まで来てしまった。ドアが開くと、そこに広がる窓からの景色は‥そりゃあ、まぁ最高‥だわな。

綺麗で清潔感もある広い廊下を行く坂崎の背中をまたもや追いかければ、俺の心臓は嫌な音を立てて騒ぐばかり。

決着‥?決着って、どうするんだ?

 

そう考えている間にも坂崎は、なんの躊躇もなくある一室のドアを開けては中に入ってしまった。俺はここに入ってもいいのか‥?入ってどうされるんだ?

グルグル回る疑問を振り落としつつ、今は一人だけじゃなく頼りになる坂崎だって居るんだ。怖くない。

 

そして俺はその部屋へとゆっくりと一歩ずつ踏み出して行った。

 

「‥‥、」

「高見沢、こっち」

 

坂崎に手招きされ、テーブルを挟んだ向かい合わせになっている、いかにも高級そうなソファーへ座っとけと言われれば、座るしかない。

‥どうやら今は俺と坂崎だけのようだ。

 

キョロキョロ見渡す限り、物凄く豪華な部屋だった。まるで、ドラマとかのセットで使われているかのような、そんな部屋。ここがいわゆる社長室って事か。

顔をあっちこっちに動かして、挙動不審になっている俺に坂崎は「いいか、桜井が来る前に策を練るぞ」と小声で伝えてくる。

 

「アイツを殺すのか‥?」

「高見沢はそうしたいのか?」

「だって‥アイツが生きているとなると、これからまた多くの犠牲者が出てしまうだろ。もうあんな悲劇を繰り返したくなんかない」

「なら、今度は高見沢が終わらせるか?」

「俺が?」

「殺したかったんだろ?まぁ、この前殺せなかったのには俺的にもガッカリだったけど」

「だからそれは‥!俺は、アイツや坂崎みたいに堕ちたくなかったからで‥」

「そんなの言い訳」

 

坂崎にバッサリ吐き捨てられてしまえば、ぐっ‥と言葉をつまらすだけ。

そうは言ってもさ‥俺だって、人なんか殺したくなんかねーよ。そんな人を殺して快楽を得るような殺人者じゃあるまいし、第一俺は被害者だ。

しかし、坂崎の蔑んだ表情から一転、彼は澄ました顔で「なぁ高見沢」と俺を呼ぶ。

 

「ん?」

「‥お前さ、‥‥人って信じられるか?」

「いきなり何だよ‥それ」

「どう?」

 

真剣すぎる坂崎を見てしまえば、この質問にはぐらかす勇気なんて俺にはない。

なので仕方なく答えてみせる。

 

「えっと‥、まぁ。確かに疑い深くはなる出来事があったからさ、簡単に人を信じてもいいのか?って思うよ。けど、‥やっぱり俺は人を信じたいんだ。どんな事があっても、必ずその先にいい事があるって思い込みたいから」

「‥信じられる、のか」

「あぁ。それに俺は坂崎を信頼しているさ」

「信頼‥ねぇ。‥‥そんな言葉、軽々しく使わない方が身の為だよ」

「どういう‥」

 

意味だ?と、彼に聞こうとしたのだが、坂崎は「‥だってさ〜、桜井」と何故かアイツの名前をいきなり出してくる。

一瞬、は?となってしまった俺に対し、坂崎は心底下らなそうな態度を取ったかと思いきや、突然彼の目の色が真っ黒になったような気がした‥のは、見間違いじゃない。

 

おい‥‥、坂崎‥お前‥

 

 

「だからお前はまた俺様に騙されるんだよ」

 

この声..

 

「‥‥な、」

‥なんで?

どうして奴が‥‥ここに居る?

 

そこにあったデスクの黒くて高級そうな椅子に座っていたのは、紛れもなくあの男だった。

 

‥もしかして、コイツは始めからこの部屋に居た?

確か椅子は俺たちが入って来た時‥。そうだ、逆向きになっていた。しかもこの椅子、座ってしまえば頭まで隠れてしまうようなかなりデカい椅子。

 

じゃあ‥、という事は‥

この男は、俺たちがここに来るのを息を潜めて待っていた?

 

なんで、どうして?

 

愕然としている俺を見た坂崎は、ソファーから立ち上がったかと思えば‥そのまま奴の隣まで行ってしまい、そんな豪華な椅子に軽くもたれかかっては俺に向かって「悪りぃな、高見沢」と謝ってくる。

いや‥。謝る必要は何?

 

目を丸くさせ、みるみるうちに硬直していく全身と噴き出てくる冷たい汗。

 

やだ‥。やめてくれ、

違う、こんなはずじゃない‥!!

 

「さか‥ざき?」

「いやーさぁ、桜井にお前をここに連れて来いって言われちゃったもんでねぇ、だから高見沢を呼んでやったんだよ」

「‥なんの、為にだよ?」

「え?そりゃあ‥」

 

ニタッと笑う赤く、不気味な口許。

そこから発せられたセリフに、俺の頭に衝撃が走った。

 

 

「お前をもう一度奴隷にする為」

 

‥‥なんで?

なんで‥俺が、また奴隷なんかに‥‥

 

あまりの突然すぎる坂崎の言葉で、微動だにする事も出来ず、ただ二人を視界に入れてぼうっとしているだけ。

何が起きた?というより坂崎は何を言ってるんだ?そんなの冗談か何かだよな?なぁ、なぁッ‥?

 

‥この男にもう一度、復讐するんじゃないのかよ?

頭ではセリフが浮かんでくるものの、それが口から出てくる事は一切なかった。

 

「ゴメンねぇ高見沢。俺桜井にさ、“高見沢連れて来たら俺だけは奴隷になる事を見逃す”って言われちゃってねぇ。‥だから思わず自分可愛さにお前を売っちゃった」

「‥‥え?」

「これからはまた桜井と元の友達に戻るよ。ねぇ、心の友よ?」

 

そんな坂崎のふざけてるようなセリフ同然の言葉に対し、奴は坂崎をチラッと見た後に俺へと視線を戻しながら「そうだな、真の友よ」と、坂崎にも負けず劣らずの不気味な表情をこっちに魅せてきやがった。

 

一体‥何がどうなってる?

なんで坂崎はあんな奴なんかを心の友だなんて言える?どうして奴は、坂崎の事を真の友だなんて口に出来る?

 

「‥‥なんで」

「ま、俺は坂崎を試してみたんだ」

「試す‥?」

「そう。コイツがどれだけ自分が大事で、どれだけ他人を地獄に陥れる事が出来るかのな」

「‥‥は?」

 

次に再び坂崎が喋り出す。

 

「なんかさぁ、俺桜井に相当気に入られちゃったみたいでね。コイツの嫁を殺しておきながら、まさか桜井までもを殺してしまおう‥だなんて狂った思考が最高だったらしくてさ、だから俺がどれだけ冷徹な人間かを見定める最後のチャンスだったんだよ」

「どういう‥事だ?」

「まぁ、簡単に言えば俺が高見沢を裏切って、桜井側に寝返る所をコイツ自身の目で確かめたかったんだとよ」

「そんな事をして、なんの意味になる?」

「ここの会社に戻って来ないかー?って言われたの。‥副社長でいいなら、って条件らしいけど」

「‥‥、」

 

待ってよ‥

それじゃあ俺は‥、お前がここの副社長になる為の材料として連れて来られただけという意味か?

 

はぁ‥?ちょっと待て、ふざけるな。

なんでそうなるんだよっ?
お前ら二人、いがみ合ってたんじゃねーかよ?殺したい程の間柄じゃなかったのかよ?殺し殺されかけた関係じゃないのかよオイ?

 

「違う‥。こんなの嘘だッ‥!」

「嘘じゃないよ、高見沢。‥お前は俺を助けてくれようとしたのに、俺はこんな簡単にお前を裏切っちゃって悪いね」

「‥っ!?」

 

立ち上がりかけた体を前のめりにさせて、二人が居る方向へと近寄ろうとしたその時。

 

後ろから「いけませんよ、このお方たちを殺したら?」という聞き慣れた声が背中を突き刺してきた。

 

‥とほぼ同時に、ドアから一斉に入って来た黒スーツたちによって一斉に捕らえられてしまえば、頭の中に残るのは“絶望”という二文字だけ。

急激に重たくなった体全体を思い切り振るいあげ、叫び声を喚きながら全力の抵抗を示す‥が、屈強な男たちに大勢押し潰されるようなもの同然の扱いを受けてしまえば、逃げ場はほとんど失くしたようなもの。

どんなに暴れても泣き叫んでも、俺を助けに来る者は誰一人としていやしない。

 

「坂崎‥お前ぇえッ!!ふざっけんなよテメェ!!」

「‥だから人を信じるなと言った」

「お前‥っ、ソイツと会っても奴隷にはされないって言ってたじゃねぇかよッ!!」

「誰が、とは言ってない」

「はぁッ‥!?なんだよソレッ!!そんなのがいい訳‥」

と、俺が言いかけてる途中にも関わらず、急にあの男が「通用する世の中だから腐ってるんだよなぁ‥」と呟いた。

 

「‥テメェ、!」

「気付いたんだ。俺には坂崎が必要だって事に」

「あんだけ坂崎の事を怨んでいたのにか!?今更友達ヅラかよッ‥?」

「いや、昔からコイツとは友人だが?」

「‥っ、」

「ま、左手如きには分からねーよなぁ。堕ちた者同士にしか分かり合えない事だってあるんだよ。‥そんな輝いた瞳を持っている今のお前には、な」

「分かりたくないッ!!そんなもの分からなくてもいいッ!!!」

「ダメ。これからお前は俺たちの奴隷兼、実験台となって貰おうじゃないか」

「実験台っ?」

「あぁ、そうだ。‥‥お前がいつになったらこっち側に堕ちるのかの、な」

「‥‥バカげてる!」

「だがそれが現実になろうとしている」

 

よせ‥‥

やめてくれ!!

 

「さぁ、俺の左手よ‥」

 

嫌だ‥ッ、

もうこんなの嫌なんだよッ!!

 

 

「お前は今日から俺たちの奴隷だ」

 

 

「‥ッ、‥ぁあっ‥!」

「‥‥連れてけ」

「やだッ‥!!もうこんなのやめてくれぇッ!!‥お願いだからっ‥、話しを聞いてくれッ‥」

 

泣き喚く俺を見ながら、嬉しそうに‥そして不気味に笑うアイツらの顔が死ぬほど憎かった。

 

「くそ‥ッ、ちくしょおぉおおおッ!!!」

 

殺してやる‥!!

お前ら二人を‥俺はいつか絶対に殺してやる!!

 

もう迷いの心なんて‥、善の心なんていらねぇ!

人も信用しないッ‥!!

 

黒スーツに引きずられながらも、俺は最後の最後までこの力がなくなるまで抗った。

そして偉そうな態度で俺を見下してくる二人を睨み付けながら俺はこのすさんだ心に固く誓う!!

 

「殺してやるからな‥、テメェら二人‥いつか絶対、俺がこの手でグチャグチャにしてやるからなぁッ!?」

 

そのセリフを最後に俺は、強制的にこの部屋から連れ出されてしまった。

 

そして行き着く先は‥

きっとあの場所だろう。

 

 

 

 

「いやぁ、お二人とも中々いいコンビに戻ってきたのではありませんか?」

「はぁ?どこが」

俺たちに近寄って来た棚瀬がそんなふざけた事を言ってきたが、坂崎の方は「ありがとな棚瀬」なんて勝手に礼を言う始末。

‥言っとくが俺はテメェを許した訳じゃねぇからな?

 

これは会社を今よりもっとデカくしていく為の協定だった。坂崎がいれば、やはり会社を元々は任されて育て上げた奴なのには変わりないので、俺はこの選択をしてみた。

坂崎にされた事はこれから先だって俺は絶対に許しはしない。

 

‥だが、奴のこの天性と言ってもいい程の見事な恐ろしい人格ぶりをどこか気に入ってしまい、そのままコイツを会社へと‥それも副社長の座を復帰させる代わりに、左手を連れて来れたらという条件を出してみた。

すると、こんなにもアッサリと坂崎はあの左手を裏切ったではないか。あんなに必死になって左手はお前を地下から救い出そうとしたのにこのゲスっぷり‥。もう、流石としか言えなかった。

こんな奴を地下に閉じ込めておくのはもったいない、そう感じたのが俺は遅すぎた。コイツにはこれからも色々と頑張って貰わなくちゃな。

 

「坂崎様、やっとここへ戻って来られましたね」

「なぁにがやっとだ。棚瀬、テメェだって俺が桜井にボコられてる所を見て楽しそうにしてたじゃねーか?」

「そうですか?私はとても心配しておりましたよ」

「うっそつけ、この寝返り野郎め」

「貴方に言われたくありません」

 

‥なんてバカな会話をしている二人をシカトし‥たかったが、棚瀬が「社長、本当にこれで良かったのですか?」と尋ねてくる。

 

「あぁ。また坂崎も加わった事だし、これからもっとここをデカくしていかなきゃな」

「元は俺の会社なのに‥」

「文句言ってっとまた地下に閉じ込めるぞ、あ?」

「はいはい、分かってますよ社長。俺を助けて下さり感謝しております」

「‥‥、」

 

ヒラリとお辞儀をしてくる坂崎がなんだか無性に腹が立った。しかし、そこは何も口出しせずに黙っておこうか。コイツもかなり厄介者だしな‥

棚瀬同様、この五年間で俺はもう一人のバケモノを作り上げてしまったらしい。

 

「なぁ、桜井」

そう坂崎が呼んでくるが、俺はデスクの上に置かれてある写真立ての中の人物を見つめながら、坂崎の言葉に耳を傾けてみせる。

 

「‥これからどうすんの、高見沢の奴?」

「どうもこうも、アイツが俺たちと同じ所まで堕ちる所を見ているさ」

「でも、さっきのあの一瞬で高見沢の目がマジになってたけど」

「いや、まだまだだ。アイツの瞳の中にある光を全て奪い取ってみせたその時‥‥」

アイツはこちら側へ来てくれるだろう。

 

「‥‥待ってるぜ、左手よ」

 

またこれからお前は‥俺との戦いだ。

 

 

 

「俺は諦めない‥ッ。どんな事になったとしても‥、俺は諦めないからな‥!!」

 

 

首洗って待ってろ。

 

‥坂崎幸二。

‥桜井賢。

 

f.

送信中です

×

※コメントは最大1000文字、10回まで送信できます

送信中です送信しました!