Roar to freedom(自由への咆哮) - 25/28

Rtf23

 

「ハァ‥、ハァッ!」

「ヤバいな、ずっと地下に居たから光が強すぎて目が開けられない」

「なぁ‥!めっっちゃ眩しい!」

 

というよりクラクラしてくる。

だけど待ちに待った外だ。

 

坂崎の手を掴みながら階段を上がり切って、扉から出てきたのは良かったけれど‥今までずっと暗い場所で生きてきた為か、外に出た瞬間の太陽の光が強く見えてしまい、暫くの間は路地裏の方に移動して坂崎と二人で休んでいた。

いつの間にか他のみんなは散り散りになってしまい、もう誰がどこに居るのかなんて分からなくなっていた。

目がやっと外に慣れてきた頃、坂崎に向かって「ケガどうするんだ?」と問うてみるも、坂崎は「お金ないから放置」といってくる。お、おいそれ大丈夫なのか?

 

「これくらいなら平気さ。ちょっと痛いけど」

「なぁ、これからどーするよ?外に出れたのはいいが、金がなぁ‥」

「ちょっとだけだけど‥いる?」

 

坂崎がポケットから取り出したのは、まさかの万札が二枚。

えっ?お前それどこから‥?

疑問に思った俺を察したのか、坂崎はフッ‥と笑ったかと思えば「桜井が持ってたのをくすねて来た」とペラッと喋る。お、お前‥

 

「坂崎がこんなにもクズだとは思ってもなかった」

「そう?でも俺、自分の為なら何でもやっちまうからなぁ」

「知ってる」

 

まさかアイツの事を刺すなんて‥。さっき地下に戻って来た時に、それが一番驚きだったしな。

俺が奴を殺していく筈だったのに‥な。別にいいんだけどさ。

でもアイツ‥‥

 

いや、もういい。あんな奴の事なんてもう考えるな。俺はアイツから解放されたんじゃないか。

‥本当に俺、自由なんだ。

 

「これ。一万お前にやる」

「あ、ありがとう‥」

「俺今から服買ってくるわ。こんなボロい格好で街中歩けないし」

「じゃあ俺も‥!」

「帰るお金あるの?」

「見た所、ここら辺から実家までそう遠くはないっぽいからな。お前は?」

「実は俺もここからそんな遠くないんだ」

「そうか。なら良かったな」

 

そろそろ光に慣れてきた頃を見計らい、俺と坂崎は近くの安い服が売っている店へと入り、そこで適当に服を買ってから出てきた。

服‥、こんないい服着れたのいつぶりだろう‥!

一応地下に閉じ込められていた時も、それなりの着替えもあったはいいけど、なんせ服がボロボロでさ‥。これ着替える意味あんのか?とは思ってたが。

 

「なぁ坂崎、ご飯食いにいこーぜ!なぁなぁ!」

「お前ガキかよ。こんな所で目輝かしてはしゃぐな、恥ずかしい」

「だって~~‥!今まで質素すぎる食いもんだったしぃ、腹いっぱい食べられなかったしぃ!俺こう見えてもかなーーり食べる方なんだぜ?」

「へー」

「冷てぇなオイ!」

 

なんやかんやで時はあっという間に過ぎ、俺と坂崎はお互いの連絡先を交換し終えてから暫くはサヨウナラという感じでこの日を終えた。

あんなに長く苦しんだ時間が嘘のようだった。だけど坂崎の方が圧倒的に長い時間、自由を奪われてたんだしな‥

 

ご飯食べてる時に「俺の知らない間に世の中進みまくってるなー‥」なんて呟いてたし。そうだよなぁ、五年って短いように聞こえてかなり長いだろうから。

 

久々に乗った電車はなんだかちょっぴり緊張してしまっていた。

 

‥突然なんの連絡もつかなかった俺に家族はどんな反応をするんだろうな、なんて考えては外の世界を丸一日充実したのはこれから先一生忘れない思い出になるんだろう。

 

。。。

 

「社長」

棚瀬に呼ばれるも、俺は窓の外をぼんやり眺めているだけになりつつあったので、流石に最近呆れられてる様子だった。

入院してから一週間が過ぎ、特にこれといってやる事もなく、ただただ無駄に時間が流れていくだけのような気もした。楽しみが何もなく、テレビや雑誌や本やら漫画やらゲームやら‥退屈しのぎの為に社員たちから預かった物が溢れかえっているが、ほとんど何も手を付けていなかった。

毎日ただひたすらボーッとしているだけの生活。

 

こんな生活でも俺にとっては何も考えなくていいから凄く癒された一週間でもあったがな。世話は大体が棚瀬に任せっきりだし、というよりコイツが全てやってくれるもんでね。ある意味ナースより手際が良かった。

 

だけど‥本当に心が軽くなった。

相も変わらず窓の外を眺めていると、また棚瀬が「社長!」と少しだけ強く俺を呼びつけるので、ようやくそこで「なんだよ」とだけ返す。

 

「調子はいかがですか?」

「‥いつもと同じ」

「傷の痛みはどうでしょう?」

「‥いつもと一緒」

「社長‥」

 

こんな風に変わってしまった俺が気に喰わないのか、棚瀬の盛大な溜め息を毎日聞かされている気がする。そして今もまさに「はぁ‥」と俺に分かりやすく溜め息をついてみせた。

多分、こんな俺の姿がコイツは嫌いなんだと思う。

 

だけど‥なんかもう、アイツが夢に出てきてから‥全てがどうでもよくなっちまってるんだからよ。しょうがねぇだろ。

あんな眩しい笑顔を見せつけられたら‥真っ当な人間に戻る方法しか、これからの生き方が見つけられないから。今更遅いって言われるだろうけど、アイツが‥あんな優しい言葉をかけてくれたから‥さ。

 

「なぁ棚瀬‥」

「また甘いものですか?今度はなんですか」

「いや‥そうじゃない」

「はい?」と適当になりつつある返事が返ってきても何とも感じなくなっている。俺、昔の自分に戻れてるのかな‥

 

「俺‥‥、このまま会社辞めようかな‥って」

 

そうポツリと呟いた途端‥棚瀬の目の色が瞬く間に変わったのが理解出来るくらいのものだった。

そして「は?」と出てきた棚瀬の一言に、胸がズクッ‥と何かに掴まれたかのような感覚と、嫌な汗が滲み出てきたような‥

 

な‥んだ?

すると棚瀬が俺が居るベッドへ近付き、クイと顎を掴まれるかと思えば、彼の冷え切った表情に、この俺が思わずゾッとしてしまうほどだった。

 

「何を仰っているのですか社長?貴方はここから離れられると思っているのですか?‥貴方、あの人から会社の権限も自由も奪っておいて、今更逃げるのですか?」

「それは‥」

「貴方がここから離れたくても私共社員がそれを許しはしません。‥もし、ここから居なくなるのであれば、それなりの覚悟は出来ていますよね」

「覚悟‥」

「坂崎社長は失踪という事になっていましたが、それは全くの嘘ですもの。社員にそれがバレてもいいのですか?世の中に、そして貴方が今まで信頼を築いてきたお偉いさん方からの信用も失う覚悟は出来ておられるのですね?」

「‥‥いや」

「それだけの覚悟があるのであれば私は引き止めませんよ。貴方の人生ですから貴方の自由です」

 

その後俺にニコッと向けて見せたその笑顔が、今まで見てきた笑顔の中で一番恐ろしかった。

 

あぁ、そうか‥

俺は‥この五年間で、とんでもない化け物を育ててきてしまったようだ。

 

ドクン‥と騒ぐ心臓。

そうだ‥。俺にはもう、後戻りは出来ない所まで来てしまっている。今まで信頼を得てきた奴らからの信用も失うのだってめちゃくちゃ怖い。俺がどれだけの経験を培ってきて、あそこまで信頼を得て‥この五年間でこの会社を大きくしたかと思ってるんだ。

 

忘れるな‥

俺にはもうあの頃の自分なんかいやしない事なんて。

あの日‥坂崎と二人きりの社長室で俺は一度坂崎に殺された。そして新しい俺が生まれてきたんじゃねぇか。

 

「‥いいですねぇ社長、私はその目が好きなんですよ」

 

やっと顎から離れていった棚瀬の手。そして上から降ってくるそんなセリフ。

優しさなんてこの俺様なんかに必要ないじゃねぇか。

今まで仕出かしてきた悪事を‥俺は許して貰えるだなんて、そんな甘ったるい考えを持っていて恥ずかしくはないのか?

 

なぁ‥桜井賢よ。

俺は例えどんな無残な死に方をしても、アイツの元へと逝けないのだなんて分かっていただろうが。

 

 

ー‥あなたがどんな風になっても‥自分を忘れてしまった時でも、私はあなたの事を永遠に想い続けていくね‥ー

 

 

ごめんな‥。俺、やっぱり‥お前を失った時点で正気じゃいられなかったのかも。

お前のそんな言葉を信じてみよう。どんな冷酷な人間だと言われようが、俺はお前を想う気持ちはいつだって偽りなんかじゃないから‥

だから‥こんな俺を許してくれ。

 

「棚瀬」

「はい?」

「あの二人を見つけ出せ。‥そして、俺様のところへ連れて来い」

 

そう命令を下すと、棚瀬が嬉しそうにしながら「社長がそう仰るのであれば‥」と囁く。

 

あぁ、そうだ。

もう‥俺は迷わない。

 

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