天獄 - 2/6

天界へ

 

特別休暇をもらった初日。私はもうすぐ天へと今一度戻る準備をしていた。

朝ご飯も食べた。しっかりと睡眠も取った。体調は万全だ。もしもの時の為に置き手紙も一応自分の家に置いておいた。これは昨日の夜に書き綴っておいたもので、もし戻ってこれたのならすぐ処分すればいい。

…よしっ。大丈夫だ。準備は出来たはずだ。

っと、その前に…

「鐘だけは鳴らしておこうか」

〝明日の鐘〟の前まで行き、この気持ちのよい朝の空気を肌に感じながら私は鐘の紐を引っ張ってみせた。そうすればいつものようにガラーン、カラーン…と聞き慣れたあの音がこの小さな町に響き渡っていく。

気持ちを落ち着かせたいが、やはり今までにないくらい緊張が襲ってきているので鐘を鳴らすこの手は微かに震えている。見て見ぬふりをして騙せない。私はきっと多分、とても恐いのだろう…

…例えどんな結果になろうとも、私は私のままで在りたい。私はここの町の皆に恩義があるのだから、天の者たちがどんなことを言おうとも私はここへ戻ってきてみせる。もう私は自分を否定したりなんてしたくないから。ここにいる皆は私をこんなにも受け入れては励ましてくれた大切な存在なのだから、裏切ったりなどしない。神の名のもとに誓う。

 

「〝明日の鐘〟よ…。もしもここの町の皆に何かあれば、私を呼んでくれ。頼むぞ」

鐘が答えてくれる訳がないが、時々この鐘は私と対話をしてくれるので今はそれを信じよう。

そして鐘の前から去り、教会の中へと入っていき自分の羽根がある場所まで赴けば私は自分の羽根に向かって呟く。

「お前も…。もし私に何かあれば、その力を解放してくれ。私だけじゃなく、もちろん町の皆もだ。私はここの町の皆が居なくなってしまうことになったら…きっと耐えられないと思うからな。だからお前が判断して、お前自身で私や町の皆を守っておくれ。よろしく頼んだぞ」

鐘と同様答える訳がないが、私は自分の羽根だけを数秒見つめてからこの教会から出ようと羽根に背を向けた途端、背中の四つの傷が僅かながらにもトクン…と脈打ち熱が籠り始める。な、なんだ急に?

振り返って自分の羽根を見つめ返すが…何やら感じたことのない気が漂っているのは自分の勘違いか…?いや、そうじゃない。羽根が私に対して何かを訴えている?

 

「……嫉妬しているのか?」

そう尋ねてみせても答えなど返ってくるはずがない。

「大丈夫だ。ベリアルの羽根は一時的に借りるだけで、お前を見捨てた訳じゃない。お前は天界へとも直接繋がってしまうので今回のことは見逃しておくれ。もしお前を使って天使に戻れたとしても、仲間たちが私をまた見限ったら…それこそ空から落ちて死んでしまう。だから耐えておくれ。私だって不本意だが、今は奴の力を借りるしか出来ないただの人間なのだから…。分かっておくれ」

そう優しく語りかけてやると、段々と背中の傷の痛みは引いていく。やはりいい気分ではなかったということか…。それもそうだよな、他の者の羽根を使うのだから浮気したと思われてたらこっちもたまったもんじゃないからな。

なんとか理解は示してくれたようなので、今度こそ私はこの教会から出て行く。そして向かうは噴水の広場。そこには今日、皆が私を送り出す為に集まってきてくれるそうだ。なので早く行かねば。

少し急ぎ足で噴水の広場までやってこれば、サクライもサカザキも…それに他の者たちが大勢私のことを出迎えてくれていた。私が来ると同時に「気をつけて」やら「ちゃんと帰ってきてね」なんて言葉を沢山くれる。

…私は愛されている証拠なのだろう。

そしてサクライとサカザキの前までやって来ると、二人はほんの少しだけ険しい表情はしていたが私の瞳を見つめた数秒後には、フッ…と穏やかに微笑んでは「行ってらっしゃい」と告げてくれる。

 

「あぁ。行ってくる」

「どんなことがあっても俺たちはお前の帰りを待ってるから。だから必ずここへ戻ってきてくれ、タカミザワ」

「ありがとうサクライ。必ず戻ってくるさ」

「もし天界の奴らに泣かされたら俺らがちゃーんと慰めてやっからさ!俺の女虐めた奴はこの俺が許さねぇってんだ!」

「み、皆がいる前で変なこと一々言うなッ…!」

サカザキのアホな発言のせいでタクローさんにまた一発殴られていたサカザキだが、タクローさんは夫婦二人揃って私を送り出してくれる。

「タカミザワ」

「は、はい」

「俺がこの前言ったことを忘れるなよ?神やお前の仲間たちがどう言おうが、お前を本当に信じて信頼している方だけを見つめろよ、タカミザワ」

「タクローさん…」

えぇ、分かってます。

「はいっ。私は私自身を信じて突き進みます。ここの町の者たちに顔向け出来ないことはさせません」

「おう、それでいい。堂々として行けよ」

「はい!」

そして私の周りにいた人たちが少し離れてくれたのでベリアルの羽根を取り出し、それを一度ふわりと手から離しては下へわざと落としてみせると…次の瞬間からは大きな眩い光に包まれる私の体。

余りにも強い光だったせいと突然巻き起こった神聖な風がここの広場をほんの数秒だけ覆えば、次に皆が目にするのは…

四翼を持った本物の天使がそこに立っているだけ。

元の姿に戻った私を見やったサクライとサカザキに顔を向けると、二人はうんと大きく頷くのでこちらも言葉も出さずに大きく頷く。

いよいよだ…

 

「タロウ、教会と鐘と私の羽根を頼んだぞ」

「えぇ。きっちり守り通してみせます」

「それと皆、もしベリアルが来ても奴の話しは半分も信じるでないぞ。良いな?」

「あぁ、分かってるさ」

「大丈夫、みんなそこら辺はちょっとずつ慣れてきてるからね」

二人がそう答えてくれたので少しだけ安心した。

…強くなったな、ここの皆も。

だからこそ私が強くなくてはならないッ。逃げてばかりじゃ私の人生は始まらないのだからな!

 

「では…行って参る!!」

四つの翼を大きく広げた瞬間、私は勢いよくこの地上から足を離して空へと一気に飛び立ってみせた。

下から町の人々の声援のような声が聞こえてはきたが、既にあまり聞こえない場所まで来てしまっている。もう後には引けない。この道を選んでしまったからには私はひたすら真実を知る為に突き進むだけだ。

何も情報を持って帰れないことだけはさせないッ。必ず何か一つでも持って帰る。そうでないと納得がいかんのだよこちらだって!

 

「くっ…。天はやはり遠いな…」

昇ってものぼっても辿り着きやしない。

あの時、よく私はこんな所から落ちて無事だったなと今更になって思う。

グングンと空の彼方へと飛び続け、どれほどの時間が経ったかは分からないけれど…天の光が微かに感じられるのでもうそろそろなのだろう。

「…!見えた」

雲の上のそのもう少し先にある場所。

広すぎるほどのこの天上界という場所は、紛れもなく私が生まれ育った場所に間違いない。

眩いほどの美しくて神々しい光を解き放ち、そして温かさと柔らかさに包まれたこの場所は正に天国。

目の前に広がるこの場所までようやく辿り着くと、今一度バサッと翼を広げながら空中で留まってはその場所をジッと見据える。きっと誰も私が戻ってくるだなんて思ってもいないから相当驚くに違いない。

今はまだ天使たちも活動的ではない時間帯なのか、遠目から伺う限りじゃそこまで人数もいないように見える。なのですぐに天界へと足を踏み入れる為にそっと降り立とうとしたその時だった。

 

「そこで何をしている」

「っ!?」

いきなり声をかけられビビってしまい、慌てて振り返るとそこにいたのは…

「…四翼の持ち主だと?」

「あ、あぁ…!私だ、何年か前に地上へと落とされた智天使だ…!」

「…!?」

相手はとてつもなく驚いた表情はしていたものの、すぐに表情は一気に暗くなり私を睨みつけるかのような勢いで「何をしにここまで来たのです?」と威嚇されまくってしまっている。やはり私の評判はあまり良くはないようで…

「何って…、ただ真実を知りに来ただけだが…」

「貴様のような堕天使が天上界へ来ていい理由になんてないだろう。さっさと去ね」

「なっ…!門前払いだと言うのかっ?」

「当然だ。貴様のような奴がこの地に踏み入れていいはずがないからだ」

「…酷い言葉だなぁ、能天使よ。お前とは何度か顔を合わせたことがあるだろう?」

「覚えてなどいません。帰りなさい。ここから早く立ち去れ」

「まったく…、聞く耳すら持たんときたか」

今目の前にいるこの天使は能天使と言われる中級天使。常に悪魔たちとの戦闘で最前線へと送られ、いつも死や誘惑との隣り合わせの天使。言わば天界の中の特攻隊みたいなものだ。

コイツは…見た目は黒い髪と、サクライと同じように口周りに髭があるのだけが特徴といったところか。サクライと違って顎髭はないようだが。そして私はコイツと何度か顔を合わせているのを覚えている。特にこれといって会話などしたことなどなかったが、まぁいつも天上会議の場に能天使のリーダーの近くに控えている奴だったのでそれで覚えているのだろう。

腰に携えていた剣を引き抜き私の首の横まで剣を持ってくる相手だが、その目は獲物を仕留める冷酷な目をしていた。…今ここでコイツと戦ったら色んな意味で逆に危ういか。私はこのまま天界の中心へと行かなければならないので、こんなところで争ってる場合ではないのだからな。

 

「…争うつもりはない。そして用が終われば私は地上へと帰る。だから行かせてくれ」

「…?天使に戻りたいと交渉しに来たのではないのか?」

「あぁ。私はただ真実を知りに来ただけだ。頼む、だから行かせてくれ…!本当にそれだけなのだ」

「……。」

すると相手は剣を鞘に戻してから「では着いて参れ」と申すので、すぐに飛び去って行く相手を私は慌ててその背中を追いかける為にこの男と一緒に飛び立ってみせた。

えっと…、信じてもらえたってことでいいのかこれは…?

まぁいい。今は取り敢えず中心へと進めるならそれでいいので、取り敢えずこのままコイツに従っておこう。

そして暫く飛び続けていくと、よーく見慣れた場所までやって来る。

そう、私が元いた場所だ。この大きな建造物には天使たちがよく出入りする…というより、仕事をしなければならぬのだから当然ここの建物へと自然と全員集まって来るしかないので、ほとんどの天使たちが集うような所。そんな場所へ行けば当然すれ違う天使たちが私を見て驚いたような顔をしているのには気づいているが、向こうから何か言ってくることもなさそうなので私も黙っていよう。

しかし刺さるかのような視線だけはやはり慣れんな。

暫くこの能天使の後を着いて行くと、そこは天使長たちが会議する部屋であった。かつては私もよくここで仕事したもんだ。

そしていざめの前までやって来ると思うこの「あぁ…やはり億劫だなぁ」という感情は一体なんなんだろう。あれだけ真相を知りたくて自らここへ来たはいいが、そりゃああれだけかつて断罪されてしまったのだから来たくはないさ。

この能天使が地に降り立ち先に部屋のドアノブへと手をかけてから中へ入ろうとすると同時に「失礼致します」と一言声をかけてからドアを開けて、そしてそのままその能天使は中へと吸い込まれていく。なので一応私もその後ろを着いていこうか…

中は円状の造りとなっていて、多くの天使たちがここへ集う場所である為か部屋の大きさは相当広い。今から私が立つ場所には人が一人乗れるくらいの台が真ん中に置かれてあり、その台をグルっと全体を囲い込むかのような形で二階から上にまで席は続いている…まぁ早く言えば大規模な円卓会議室みたいな場所だ。台が置いてある一階にだけは座る場所はなく、全員翼を持って飛べるので見渡しがいいように上から見物出来るような造りになっているだけだ。

あぁぁ…最悪だ。手の平の汗がとんでもないことになっている。逃げられるもんなら逃げ出したいが、あの日…私を散々糾弾した奴らに何か一言でも言い残してやりたいから勇気を振り絞りまくって私もこの能天使の後へと続いてみせた。

するとそこに居るのは…

 

「なんだ、能天使の副長よ」

いきなり熾天使がお出ましとはな…。しかも周りを見渡すも、ここには上級天使たちしかおらんようだ。中級と下級天使たちは呼ばれていないから集まっていないのか、それとも全員出払っているのかは知らんが力の強い天使ばかりがここに集っているのだけは確かだ。

「はい。智天使様がおいでです」

「ん?智天使たちならここに三人とも……」

と、熾天使のうちの一人がそう告げた途端。私はドア付近の影になっている場所に居たのでまだ顔をコイツらに見せてはいなかったのだが、影のある場所から明かりの灯す方へと堂々と出て行ってみせると…当然のようにここにいる全員が驚愕した顔をして私だけを一斉に見つめているではないか。

「なっ…」

「なぜお前がここに…!?」

「有り得ぬ…!お前は人間になったはずじゃ…!?」

「……。」

仲間の三人の智天使たちの表情と言えば、とんでもなく腰を抜かしてそうなおかしなツラをしている。そして熾天使や座天使たちも当然のように言葉を失っているかの様子が見て取れる。

だから私は真ん中に置かれてある台へと上り、上から見下してくるコイツらへと睨みを効かせては全員残らずこの目で捉えてみせよう。もう…あの日の時のようにはさせんぞ。

 

「お久しぶりですね、皆様。戻って参りましたよ、天界まで。まぁ一時的にですけど」

「……。」

「何か言ってはどうです?」

「…なぜお前がここまで戻ってきた?有り得ぬ」

「だが私はここまで戻ってきた。なぜだか分かりますか?」

「……。」

相手が誰も何も言葉を発さないのでこちらから言うしかないか。

「貴方がたは私を断罪しました。しかし私は本当に何もやっていないということだけを伝えに来ただけです。そして真実を教えて欲しい。大方私を智天使という地位から失墜させたい何者かの仕業ではないのかと踏んでいましたが…一体どうなのでしょう?この中に裏切り者がいると?それとも次期智天使たちの候補者の中からなのか、それともそこにいる他の智天使たちの中の誰かなのか…或いは三人ともなのか」

「……、」

一瞬空気だけがザワついた気がしたが、本当に真実を話してくれる可能性なんてあるのだろうか?

だがやるしかない。逃げるな私。なんの為にこんな嫌な場所まで来たと思っている?

「あれから誰か犯人探しをしてくれた者はいないのか…?私がなぜエデンの園で無意味に果実を盗んだことになっているのかは謎のままなのか?あの時私は一人でいたからアリバイは証明出来ないのは分かってはいるが…、それほどにまで私を貶めたくて憎いと思ってる奴がいるということだけはもう分かった。私は人間として生きるつもりなのでもうその者に智天使の座を譲っても構わんのだが、ただ…ただ最後に本当のことだけを教えて欲しいだけだ」

「……。」

「なぜ私は堕天させられた?罪など一つも犯していないというのに……なぜだ??」

そう私が上を見上げて熾天使たちを見つめると、私の傍で一歩下がって控えている能天使以外の者たちは互いの目と目を合わせては何かを視線だけで話し合っているのだけは分かる。…なんだ?

すると熾天使長が「お前、まだ気づいていないのか?」と問う。

 

「え…?」

「お前がなぜ堕とされたのかを…まだ分からんというのか?相も変わらず鈍い奴め」

「何がだ…?」

「完全なる天使とは言えない人間になってしまった今のお前にもう話してやることはない」

「はァッ…!?そんなの許される訳ないじゃないですか!!教えて下さい…!でなければ今ここで私が暴れても構いませんよね?あの日私は何も出来なかった…抵抗すらままならなかったですし言葉すらも貴方がたはまともに聞いてくれなかったじゃないですか…。大勢の前で糾弾させられたこの惨めな屈辱を…今ここで憂さ晴らししても良いと言うのでしょうか?」

「本当にやれるのか?」

「えぇ…。私はやります。しかし真実を教えてもらえるならばそれは別ですが」

「この私たちを脅そうと言うのか…」

「私は今はもう神に仕える身ではないのでな。ただの人間風情ですから構いませんよね?」

「……。」

ここにいる全員からの恐ろしいほどまでの視線に耐え抜くにはこちらも強い心を持ち併せていなければ怯んでしまう。なので私も力強く睨み返してみせようか。だがやはり皆上級天使とだけあって私一人だけだと手も足も出ない可能性のが高いので、やはり今ここでやり合うのは得策ではないのくらい分かってるさ。

そして熾天使長が続けて話しをしていく。

 

「お前はここの者の中の誰かが裏切ったと…そう言っておるという意味だな?」

「或いはここにいる以外の者たちも有り得るとすら思っております」

「それは誰だ?」

「えっ?いや、そこまではまだ…」

見当もつかんから真実を知りたくてここまで来たというのに…さっきからなんなんだ?何をそんなにもったいぶることがある?

……まさかソイツを庇っている?

それだとしたらここまで話しをもったいぶるこの態度も頷けるわ。きっとソイツの正体を知っていてわざとこんな質問をしてきているのだろう。そうとなれば…さてどうする?向こうが真実を知っているのならこのまま隠し通されたら本当にお終いだぞ。

「誰が…」

流石に私より上の熾天使は有り得ない…。あるとすればやはり私と同じ智天使の三人か、若しくは智天使候補として育てられている者たちの中か…?他の階級の天使たちの可能性もなくはない…が、私より下の座天使という可能性ももちろん大いにある。流石に下級天使たちからは恨みを買うほどのことを私はそもそもしていないしそこまで繋がりはないので可能性としては薄い…はず。

だが中級天使たちなら有り得なくはないだろう。今私の傍にいる能天使も最前線で悪魔と戦う者たちなのだから、もし能天使が悪魔にでも唆されて私を堕天するよう仕向けたのだとすれば……ベリアルが言っているように、私が欲しいが為に悪魔と手を取り画策していたとか?

…どれだ?どれが正しい?本当の答えはどれだ?

 

「…お前は、ベリアルと出会っているのか?」

「は?」

軽く後ろを振り返り私の傍で手は背中で組みながら綺麗な姿勢でその場に立っていた能天使へと恐る恐る質問をぶつけてみせる。

「お前たちは…悪魔に唆されたりしていないか?」

「なにを仰いますか。バカバカしい」

冷え切った氷のような目で私をすうっ…と睨みつけてくる能天使。コイツ…中々の目力をしておるわい。

「お前でなくても…お前の近くにいる奴…いや、天使の軍団の中に一人でも悪魔と手を取り合った者たちがいれば私を欲しがっているルシファーやベリアルたちの言っていることに説明がつくかと思って…」

「…我ら天使軍の中に裏切り者がいると、貴方はそう仰りたいんですね?」

「違うか…?」

「生憎ですが、私は自分の仕事で手一杯なんです。悪魔たちに耳を貸すほど暇ではありません」

「そうか…」

「しかし智天使様がそう仰るのであれば、どうぞ我ら天使軍の者たちを調査してみて下さい。我々の中に裏切り者がいないのだと証明出来るならそれで結構ですから。…例え私たちが疑われていようとも、私たちは貴方のそのこちらに向ける猜疑心の目から顔を…逸らしてあげますので。好きなだけ調べてみて下さい」

「……。」

自分たちに疑いの目をかけられていることに相当腹が立っているのか、私を今にも殺しにかかってきそうな勢いの目をしておるなコイツ…。これ以上あまり言わない方がいいのか…?

だが一度疑ってしまうと疑問が次から次へと浮かんできてしまう。申し訳ないと思いつつも、やはり次の言葉が口から出ていく。

「お前たち能天使はベリアルとよく戦ったりするか…?」

「いえ、最近は奴は余り表に姿を見せません」

アイツは最近余り表に出てこないだと?私にはあんなに会いに来るというのに…

「だとしたら誰が……」

と、私が口にしかけた時。

 

「もう愚かしい推理はやめよ」

「…っ」

そう熾天使長に咎められたような気がしたので声がしたそちらへと顔を向き直し、他の者たちがいる方を見上げると熾天使長が言葉を続ける。

「お前を裏切ったのは悪魔に唆された能天使たちでもなんでもないわ」

「では一体誰が…」

「我らここに座る者たち全員よ」

「……?」

 

え……?

熾天使は今なんて言った……?

 

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