マモン様を前にして胸元の切れた服をかき合わせて顔を伏せる。
冷ややかに研ぎ澄まされた悪魔の気配にただただ小さくなっているしかない。
『役に立たないお前はいらない』
美しく微笑まれたマモン様が腕を一降りすると一筋の光がオレに向かってくる。
『無事で良かった…』
オレを庇った桜井が微笑んでいる。
抱きとめたオレごと辺りを鮮やかな赤に染め上げていく。
『俺は幸桜を……』
桜井は最後まで言うことなく目を閉じた。
「……っ!」
何かを叫ぼうとして今日も目が覚めた。
見慣れた天井に今のも夢だったのかとホッとした。
今日は桜井や72番と出会ったときの事だった。
もうどのくらい前になるのだろう?10年近くになる?
あの時オレは死にかけた。
罪人たちは反乱を起こすし、桜井のおかげでマモン様との約束を破ることになってしまうし。
それなのにマモン様のお情けでいまだにこの島で罪人たちと生きている。
あれから結構な月日が経っているのにいまさら夢に見るなんて。
例え夢でも桜井が死にそうになったあの日を何度も見るのは何となくイヤだ。
桜井が倒れてしまうのを見る度に胸が苦しくなる。
あの時の思いを繰り返したくない。
……だからといって他の夢でも困るが。
最近のオレはなぜかよく夢を見る。 寿命が近づいてきたせいであまりの体調が良くないから眠りが浅くなっているのかもしれない。
今日のように過去の事だったり、その……なんだ。
……桜井がそう、やたら近くにいる夢だ。
別にどうってことない夢なんだ!
ただ、ちょっと……
あぁ!!もう‼
夢の話なんていいんだ。
ただ、そんな夢を見た後は顔が熱くなったり、胸がギューっと苦しくなったり。体調が悪い時みたいな感じじゃないんだけど。
桜井の顔を見れなくて……どうしたら良いのか分からなくなってしまう。
コン、コンッ
いつもの朝と同じようにドアがノックされた。
「幸桜、時間だぞ?」
毎朝同じ時間に桜井が声をかけてくれる。
以前はオレが起きるまで朝食を作ってくれたりしながら待っててくれていたんだが。
「具合悪いのか?」
返事をしないでいたら遠慮がちにドアを開けて桜井が顔を出した。
何度か調子が悪くてベッドから起きられなかった時があった。その時からこうやって心配して毎朝声をかけてくれるようになった。
「いや、大丈夫」
今日はあんな夢を見た後だから桜井の顔を見てちょっと安心した。
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