罪人たちの舟30
濃い霧が俺たちを包み込む。
大勢の罪人たちを運ぶ七隻の舟は、ある一つの島へと向かって進んでいる。
その内の一つの舟、強欲に駆られた罪人たちが乗る舟の船頭を務めるのは俺、坂崎幸二。
「‥俺、どうなるのかな」
ポツリと怯えながら呟く一人の罪人に目をやれば、フッと小さく笑う。
「安心しろよ。お前らにとって最高の時間になる三日間だからさ」
しまった。つい癖でまた変な事言っちゃった。しかも、かなり嫌味っぽく言ってしまった為、この舟の空気だけがピリッと張り詰めた状態になっちまった。アイツらがこの場に居たら、絶対に怒ってくるだろう今の発言。やらかしちまったな‥
「あー‥」と誰にも聞こえないくらいの声でうなだれば、もう一度顔を上げて「大丈夫」と全員に向きなおって励ましてみる。
「自分の犯した罪を償える場所だから、さ‥。悪いと思っているようなら、ちゃんと‥その‥えっと‥」
上手く言葉が出て来ない!!
只でさえ罪人なんて死ぬ程嫌いなのに、コイツらを理解するとか難題すぎる‥!
当たり前だが、頭が「?」状態の罪人たちは俺に注目し始めているではないか。うぐっ、と言葉が詰まった時だった。ちょうど良く島に着き、俺たちを出迎えてくれた二人の男が偉そうに仁王立ちしていやがる。
「罪人の気持ちを理解するには罪人にしか分からなぁい」
「今のアンタには罪人を憎む気持ちしかない。どんなに頑張ったって次の言葉なんて出て来ねぇよ。‥俺たちも理解出来てない癖にな!」
「ぐっ‥」
また言葉に詰まる。コイツら、全部見透かしてやがる。
しかし終わってしまったことは後戻り出来ない。罪人たちを島へ上がらせる手伝いをして貰ってる中、そんな会話が飛び交うのは日常になりつつある。他の新しく入ってきた船頭仲間もそれを聞いては顔を訝しんでいるが、言ってる事は分からなくもないようだ。
「‥俺は、きっとお前らを理解するのにも時間が掛かる。この先何年も掛かるかも知れない。だけど、憎むだけじゃダメだって教えてくれたのはお前らだ。少しでもいいから‥お前らを‥罪人を全て受け入れるような奴になりたい」
罪人たちを並び終わらせたあと、俺は二人の前に立って今の本心を告げてみせた。すると二人は怪しく笑い、「お前にそれが出来る?」と尋ねてくる。
「あぁ、やってみせる」
「期待してるぜ」
「俺たちはそれを待ってるからねぇ、船頭さーん」
二十四番‥七十二番。
なんだか二人のセリフに初めて胸がグッと熱くなった気がした。もしかしら、今ならコイツらのことさえも好きになれんじゃ?
いや、そんなまさかな。
「あ、それとさ‥。その‥なんていうか‥お前らを‥好きになれる、かな?」
「知らん」
「俺たちアンタきらぁい」
「‥っ。」
‥一瞬でもコイツらと仲良くなれると考えた俺がバカだった。
だけど二人は俺を見下ろしては、ニッと歯を見せて笑ってくれた。その姿がほんの一瞬、格好良く見えてしまったなんてことは口が裂けてでも言えない。
「でも、俺たちはアンタに付き従うよ」
「どんなに嫌いでもぉ、アンタだけは色んな意味で特別だから」
「さ‥くらい、たかみ‥ざわ。だっけ‥?」
「!」
確かこんな名前だったよな‥?
なんかでも名前で呼ぶと気持ち悪りぃわコレ。
「‥初めて名前で呼んだな」
「でも、なんかゾワっとする。やっぱ番号で呼ぼ」
「あぁッ!?んだよぉ、せっかく呼んでくれたんなら名前でいいじゃねーかぁ!」
「嫌だね!もう二度と呼ぶもんかっ」
「はー?そっちが先に呼んでおいてなんなんだよ!」
「でももうムリなもんはムリッ!!」
つーかそんな口喧嘩みたいなことばっかやってねーで、早く行かなくちゃ‥!
「おら行くぞ!」と合図をかけ、俺は二人と視線を交わすと罪人たちの後ろを歩き出した。
人生何が起きるのかなんて分からない。分からないからこそ楽しい時もあるし、悲しい時もある。
だけど俺はその分からない人生を‥半分になってしまった人生だけれど、コイツらと共に生きようと思う。いつか罪人を心から理解する日が来るまで。
「これからもよろしく頼むぞ、二十四番、七十二番っ!」
「あぁ、任せろ」
「こちらこそよろしくね~船頭さぁん」
命尽きるその時まで、俺はこの二人を理解してみせる。必ず。
終
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