罪人たちの舟29
それからまた五日後。二人の様態も良くなり始め、なんとかマトモに動けるようにもなってきたようだ。
しかしそんな二人は置いて、俺は一人家の目の前に広がるいつでも荒れた海を眺めているだけなのに、フゥ‥と何度も同じ溜め息が出てしまう。ここん所最近、ずーっと溜め息ばかりしてるような‥
溜め息ついてたら幸せが逃げる‥か。
そうか、アイツらが言っていたように、俺を幸せにさせない為って訳ね。確かにアイツらが隣に居るだけで、俺に幸せは訪れて来ないだろう。きっと、短い人生、いつまでも苦しみから逃げ出せないよな。
フゥ、とまた小さく溜め息をついてしまう。あーくそっ、こんなんじゃアイツらの思い通りになってるだけじゃねーか。
「うー‥」と唸りながら頭を抱えていると、頭の後ろにコツンと小石のような固い物がぶつかってきたので、不思議に思い振り返ると家の屋根にはいつの間にか二人の男が座っており、こちらを見ながらニヤニヤと怪しく笑っていた。
もう勘弁してくれよ‥
「船頭さぁん、死ぬの怖いー?」
「はぁ?急に何を‥」
後ろ頭を押さえ、おかしな質問をしてくる七十二番を見据えると、奴の隣に居た二十四番が口角を上げながら「はっ」と空笑いしていた。
「船頭さん、アンタまだ俺たちに涙見せた事ないだろ?コイツが言うんだよ、アンタの泣き顔が見てみたいって。誰かに縋るような、そして絶望に満ちた表情をさ!目の前で仲間が殺されて死んでも泣かないアンタを見て思ったらしいよ?」
「‥ゲスめっ。お前らに見せる涙なんてねぇよ!」
「やだなぁ船頭さぁん。俺らはゲスなんかじゃないよ?罪人、でしょ?」
ニコーッと再び怪しく笑う七十二番にイラッときてしまい、ふんっと素っ気ない態度を取り、そのまま海のある方へと顔を向けた。アイツらマジでうぜぇ。
そんな二人をよそに、俺は聖の剣を手に取り、長く美しい剣をザクッと地面に突き刺してみせた。
この聖の剣はあの悪魔たちとは逆の存在‥つまり、“七つの美徳”から出来ているようだ。七つと謳っているが、本当はそれ以上あったりもするらしい。
まぁ、この剣の全ての技を使いこなす前に寿命が来て死んじまいそうだけどな。
そうだな‥美徳の一つである忠義はマモン様に捧げよう。希望、勇気、純愛、慈愛、友情、誠実‥取り敢えずこれだけはクリアさせなければな。それさえ使いこなせれば、あとはなんとでもなる筈だし。
「ねぇ桜井ー」
「ん?」
「俺ってさー、生き返っても良かったのかなー?」
「なんで?」
「だって俺たちさー、死ぬ所かそれ以上にもっとキツい罰があってもおかしいんじゃないかって‥」
「なのになぜアイツが俺らを生かしたかって?そんなの簡単さ。俺たちを隣に置く事で、少しでも罪人の気持ちを理解したいと思ってるからだよ」
「あ、そゆことねー」
「アイツはアイツなりに出した答えだ。わざわざ命の半分を犠牲にしてまでな」
「‥そだねぇ。しゃーないから暫くは船頭さんに付き従っていってみますかー?」
「あぁ、そうだな。暫くは様子見ってことで」
そんな二人の罪人が、俺を優しい眼差しでこちらを見ていたのに対し、俺はそれに気付くことはなかった。
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