Rtf7
「社長、本当にこれで良かったのですか?まだゲーム開始から一時間も経っていませんよ?」
「なぁに、いつも同じ事の繰り返しで少し飽きていた所なんだ。だったら‥あの左手の言う企みとやらを見せて貰おうじゃないか」
「貴方って人は‥」
冷めた目で俺を見てくる棚瀬に「だーいじょうぶだから」と付け加えてみせるも、相変わらず俺を蔑んだかのような表情。ほんっとお前って俺に向かってそんな顔ばっかするよな。
だけど俺の事をここまで面倒見てくれて心配してくれる奴は今じゃコイツ一人だけだろう。感謝はしているさ。
向けていた顔の方向をモニターへと戻してみせると、ようやく全員があの部屋に集まって来ている。さっきよりかは少なくなっているが‥今回これでも多い方じゃねーか。
さて、左手が今から何をしてくれるかが楽しみで仕方ないよ。ま、せいぜい俺を最後まで楽しませてくれ。
。。。
やっとの事辿り着いた部屋は、もう既に人が沢山待機していた。しかし明らかにさっきよりも人数が減ってしまっている現実。
戻る道のりにも何度か見かけた動く事のない体を避けながらここまで戻ってくるには、結構キツいものがある。だけどこれだけ生き残っていればいい方じゃないのか?
辺りを見渡せば、もうみんなの顔がゲームが始まる前とでは全然違うのが見て取れた。鬼のような形相ってこの事を言うんだな‥
既に目つきが狂ってるような奴とかもいるし、逃げ惑っては真っ青にしているような奴とかも。こんな下らないゲーム如きで人格さえも変えさせてしまうなんて許せない。
というか、こんな状態のみんなを俺は説得出来るのだろうか?聞く耳持たない奴だって出てきそうだな、こりゃ。覚悟はしておいた方が賢明か。
訳も分からないまま再び招集されたみんなの不安がる声は更に高まるばかりだ。俺がなんとか全員を先導しなくては‥。決めたんだから、やるっきゃねぇ。
隣に居る坂崎を見下ろしてみるも、彼はどこか一点を見つめたまま何も言ってくる気配はなさそうだ。本当に邪魔しないでくれるようなこの気遣い、いいのか悪いのかどっちなのだろう。
「なぁ坂崎」
「なんだ」
「みんな‥協力してくれるかな?」
「さぁ。みんな恐怖に蝕まれてるからね。言う事聞いてくれない奴だって大勢いるかも」
「‥だよな」
でも、やってみなきゃ分からないから。
一呼吸置いてから俺はみんなに呼びかけてみせた。
「今から俺の言う事を聞いて欲しい!!」
久々に出した大声が少し掠れてしまった。しかし、みんなは一斉に俺の居る方向に顔を向けてくれたのだけは有難かった。ここでシカトされてちゃ集められた意味がないもんな。
もう一度深く深呼吸を繰り返す。
「みんな、この殺し合いのゲーム‥おかしいと思わないか!?」
そう問いかけてみせるが、誰も何も答えてはくれないので言葉を続ける。
「俺は今までみんなとは別の部屋で散々あの男から酷い目に遭わされてきた!みんなはどうだった!?きっと耐え難い苦痛に心が壊れかけそうになった奴も沢山いるだろう!」
まだ反応をくれない。
そして俺は大声を出し続ける。
「そんな今まで辛い目に遭ってきて、心を支え合ってきた仲間をみんなはどういう風に殺していった!?今ここに居ない者はどんな気持ちで死んでいったと思う!?」
すると、誰かが「じゃあどうすりゃあ良かったんだよ!?」と悲痛すぎる震えた叫び声が耳にこびり付いてきた。
それを機に、ほとんどの奴らが声を揃えて今さっき声を上げた者の言葉に同意している様子だ。
そうだよな‥。俺だってどうすればいいのかずっと悩んできたんだ。
「みんなはあの男に復讐をしたいとは思わないのか!?」
「聞くまでもねぇ事言ってんじゃねぇよ!!」
「なら今ここに居る全員で力を合わせようじゃないかッ!!」
その俺のセリフで一度だけピタッ‥と怒号のような声が消え去ったが、その数秒後には震えた声で「ムリだ‥」と呟くのが聞こえてくる。
「俺たちは今も監視されてるんだろ!?だったら何を考えて全員で案を共有しようが奴にバレているじゃねぇか!」
「それでもいいんだ!」
「えっ‥?」
「みんなはあの男に復讐したいんじゃないのかよ‥?だったら‥だったらその気持ちだけを持てばいい。余計な感情や考えなんて捨てちまえ!!」
「バカ言うな‥!俺たち、こんなにもブレスレット集めたんだぞ!?ここから出られる可能性が高いのに、そんな無謀な賭けなんかに出る訳ないだろ!」
「だったら俺の言う事に賛同する者だけがここに残ってくれ!!‥殺し合いしたい奴はこの部屋から出て殺し合いでもしておけ」
「そんなの勝手すぎる!こちとら殺したくもない仲間殺してきたんだぞ!?もう後には引けない所まで来ちまってるんだよ!」
そうだそうだ、という声があちらこちらから飛び交ってくる。そりゃそうか、こんなふざけた俺の条件なんかより‥自由になれる可能性が高いゲームの方を選ぶよな、普通。
チラリと坂崎の方へと視線を向けるも、彼は俺と目は合わせてはくれないようだ。助けを求めたって仕方ない‥か。俺が坂崎に頼み込んで言い出した事なんだ、自分で何とかしなければならないんじゃねーのかよ?何を弱気になっている。
ギリッと噛み締めた奥歯が地味に痛く感じた。
「死んでしまった人には申し訳ない‥。俺だってコイツと人を殺してしまった」
取り出してみせた青のブレスレットを一瞬だけ見つめる。
「でも、こんなのおかしいとは思わないのかよ‥?人が死んで手にする自由なんて‥この後の人生、どう生きていく?お前たちはどう償う?一生十字架を背負って生きていかなきゃならないんだぞ?」
「じゃあどうしろってんだ!?」
その問いに答えようとすると、隣に居た坂崎が「お前たちに死ぬ覚悟があるならば、この男に協力する事だな」と添えてくれた。
坂崎‥
「ま、このゲームに参加してる奴らなんだから、とっくに死ぬ覚悟が出来てるんだろうけど」
「バカ言え‥。今でも震えが止まらないくらい怯えてるっつーの‥!」
「ならそこで見ておけ。この男がお前たちを解放してくれる所を。この部屋でジッと見ておくんだ」
そんな坂崎のセリフにゴクッと唾を飲み込む音が聞こえてきた気がした。
何も無理強いさせたい訳じゃない。きっとこの中にも勇気が振り絞れない奴だって居るのは分かってる。だから‥だから俺と同じ志を持つ者同士で戦えばいい。
今度は坂崎に代わり、俺が口を開く。
「なにも弱い奴に強制的に参加しろとは言わん。勇気があり、尚且つあの男に一発‥いや、二発三発でもカマしてやりたい奴だけが来てくれ。ただし、自由になる保証はどこにもない」
「メリットがなけりゃ戦う意味が見出せねぇよ‥俺は」
「メリットもクソもあるか。何もしなければこんな暗い場所で奴隷みたいな扱いのまま死んでいくんだぞ?若しくはゲームで死ぬ可能性のが高い。
だけど‥!同じ死ぬ可能性が高いなら、俺はみんなと協力し合って死にたい!もちろん生きてく可能性には賭けたいけど‥。もし、万が一ダメだったとしても俺は仲間同士で殺し合って死ぬんじゃなくて、奴に立ち向かう勇気のまま死んでいきたい」
その後に「でも死ぬ気は更々ないけど」と付け加えておけば、今まで反対してきた人達の顔付きがほんの少しだけ和らいだような気もする。
俺の意思が伝わってくれたらそれでいい。
あとは全員で動き出すだけなんだから。
「きっと今から壮絶な戦いが待ち構えているだろう。だけど!俺は最後の一人になったとしても戦い抜く!そしてあの男に復讐を誓う!!」
喰らいつけ。
来い、来るんだ!
「今まで死んでいった仲間たちの為にも‥っ、このゲームで命を弄ばれ亡くしてしまった者達へのこれが最後の鎮魂歌(レクイエム)にしようじゃないかッ!!
立ち上がれ!!お前たちの底力はそんなもんじゃねぇだろ!?こんな暗い世界に今後一切誰も立ち入れないように、俺たちが今ここで終わらせるしかないんだよッ!!!」
渾身の力で叫び、吠えているせいか声が段々と掠れてきてしまっている。かなり喉に負担はかかっているが、こんなので折れてる訳にはいかないんだよ!
そしてここに居る者達の目がやはり変わり始めているのは気のせいではなかった。それを証明するには相応しい「おぉー!!」という掛け声まで生まれてきた。
もう一息だ‥っ。
「今まで抱いてきたその殺意をあの男へと向けろぉッ!!俺たちの敵はただ一人!奴に復讐するのが俺たちの義務だぁッ!!!」
「オオォオーーーー!!」
野太い声が沢山重なり合わさった時の快感は、これ以上に清々しくて気持ちのいいものはないだろう。
やっと‥やっと生まれた一体感を崩してはならない。
「‥俺たちは人間だ。奴隷なんかじゃない」
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