大事なものに伸ばした手は今も昔も俺には触れられぬものらしい。
悔しくて悲しくて握り込んでみても手の中は空っぽでさらにむなしくなるばかり。
自分が還すと決めれば良いことなのに踏み込む勇気も持てずに幸桜に決断を委ねている俺は本当にずるいと思う。
幸桜は優しいから自分の一言がきっかけで俺が消えれば忘れずにいてくれるだろうという最後のあがき。
消えると決めてもなお覚えていて欲しいと思う。
座り込んで俯いている俺の前に幸桜が立った気配がする。
顔を見るのが怖くてそのまま幸桜の言葉を待った。
「桜井」
思っていたよりも静かな幸桜の声に呼ばれたがやっぱり顔を上げられないでいると小さなため息が聞こえた。
幸桜が膝を着いてためらいがちに手を伸ばしてきた。
ついに最期を言い渡されるのかと身構える俺の握りしめていた手を幸桜は恐る恐ると両手でソッと包み込んでくれた。
幸桜の方から触れてくれた事に驚いてビクッと手を引きかけたが幸桜が自分の方へ引っ張って離してくれなかった。
「桜井、違うんだ。聞いてくれるか?」
何を言われるのかが分からずに怖くて返事を躊躇っていたが幸桜は構わずに話を続けた。
「さっき突き飛ばしたのは……恥ずかしかったんだ。その…桜井に抱きしめられていることが。最近ずっと桜井の事を考えていて……それで…」
言ってるうちに段々と顔が赤くなっていく。
触れるだけだった手にも力が入っている。
「夢の中でまで桜井と一緒に居て。嬉しくて、苦しくて。それで、…今はオレに嫌われたとか居なくなるとか勝手なことばっかり言うって悲しくなって……」
ああ、なんで幸桜が泣きそうになってるんだ。
俺のせいか?
俺が泣かせた?
本当に俺は幸桜を守るって言って泣かせてばっかりだ。
泣かないで欲しいのに。
幸桜には笑顔を見せて欲しいのに。
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