幸桜に突き飛ばされた。
恥ずかしがって軽く『離れろ』って言われる時はあったけどこんなにも強く拒否されたのは初めてだった。
漸く見つけたと思った居場所は俺の勘違いだったらしい。
突き飛ばされた格好のまま床に座り込んで幸桜を見上げれば冷たく見下ろしている視線を受け止める羽目になる。
……俺の事を拒否し続けたあの人もよくこんな目をしてたっけ。
『ママ……どこいくの?』
『ママなんて呼ばないでよ‼どこだって良いじゃない。…ちょっと!付いて来ないで‼』
出掛けようとしている母親に一緒に連れてってと手を伸ばし捕まえかければその手は必ず振り払われた。体に母親の手が当たれば小さかった俺はよろめき近くにあった家具に当たる。
血を流しながら泣いていようがあの人が振り返る事は1度もなかった。
『あの人が家に来るんだからあんたは出ていってよ』
あの人はよく彼氏を連れてきていた。
俺をひとりで育てていく上で男に頼るのは悪いことではないと今なら思える。
でも、彼氏が来る日はソイツが帰るまで外に居なくてはならなかった。
『やだよ‼今日は雪だよ。こんな日に…』
そう、あの時は珍しく雪が積もっていた。
『そう。それじゃ…』
行かなくて良いよと言ってくれると思って一瞬喜んだ。
『そこに入ってな。音をたてるんじゃないよ!』
荷物と一緒に押し入れに押し込まれた。
『出して!!お願いっ!!!』
押し込まれた時にあちこちぶつけて痛かったが開けようと必死に中でもがいていれば外からバンッと叩かれて動きを止めるしかない。
『全く面倒ね。あんたさえいなければあの人とすぐにでもやり直せるのに』
俺は全てが終わるまで目を瞑り耳を塞ぐことしかできなかった。
あの人にとって俺は厄介な荷物だった。
あの時と同じ。今も欲しいものは手を伸ばしても捕まえることはできないようだ。
いつだって多くを望んでいたわけじゃない。ちょっとだけでもこの手で触れることができれば満足できるのに。
届くと勘違いをして手を伸ばせば届かない所へと逃げて行ってしまう。
あの人が世界の全てだった小さな俺は追い縋る事しかできなかった。
でも、今は違う。
「必要ないならここにいる意味はない。いつでもこの命、還すから」
大事な人が離れろと言うのなら俺は幸せを祈って側を離れられる。
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