風の詩の旅人 番外編 - 13/15

旅人さん

 

 

「なーなー、桜井って恋しないのかー?」

 

久しぶりに立ち寄った町の酒場で飲んでいると、テーブルにちょこんと座ってた天使がいきなりそんなセリフをポツッと聞いてくる。

 

コクッと喉を鳴らしながらグラスに入ってた酒を半分くらいまで減らしていき、その天使が聞いてきた質問に頭を働かせないようにボーッとしながら考えていた。

天使も悪魔も今はテーブルの上で、俺が頼んだおつまみのサラミを小さな口で一生懸命に頬張って食っている所。悪魔が俺の方へ顔を向けながら「旅してるんだから女作ってる暇なんてねーよな」と見下してくる言い方。

 

 

あぁそうだよ、まさにソレだよ。

立ち寄る町で可愛い娘を見かけるのは多々あるし、俺好みの娘が居たら声くらいは掛けたりするけど‥‥それでお終いだしな。こっから先の関係に発展していくつもりもないので、特にこれといった感情は持ち合わせないようにしている。

うん、でもカップルやら夫婦やら見ていると幸せそうだなー‥なんて考えちゃう時もあるけどね。

 

「俺は旅人だぜ?悪魔が言った通り、町から町へと渡り歩いてどこまでも進んでいく人間さ。‥もしこんな俺に彼女が出来たとしても、俺は彼女の傍にすら居てやれない」

「だったら旅を終えた時に彼女作ればいいのに‥」

「それもそうだけど‥俺は今のところ旅を終わらせるつもりはないな。この身が朽ち果てる時まで俺は歩き続けたい」

「桜井のくせに格好いいこと言いやがって」

「‥ったく、しょーがねぇなー。そう言うなら最後の最期までお前に付き合ってやるよ」

「ありがとう」

 

素直に礼を述べると、天使が照れ臭そうに「うるせー!」と反抗してくる。

 

口は悪いけど、俺の心配をしてくれるこのフタリが居る限り俺はどこまでも進める気がする。本当にそう思う。

サラミに飽きたのか、次はチーズを頬張ってた悪魔も無言でもくもくと食べているだけになってしまっていた。なんだかんだでコイツら可愛いんだよな。

自分自身の感情でもあるから可愛いのは当たり前‥か。いかに自分が好きなのかを確かめられるよ、全く。

 

「ごちそうさまでしたー」

 

お店を出ると同時に目に飛び込んでくるのは空を覆い尽くす数多の星達。

天の川みたいっていえば早いのかな。

幻想的な場所は好きだし、自らこういう地に赴く時もある。というより、天使と悪魔が道案内してくれる場所のほとんどが幻想的で、心安らぐ場所だ。しかもその地にちゃんと人が住んでたりもするし、意外と生活感溢れてる場所だってある。

 

だけどこういう特別な地だからこそ、何かしらの理由があったりするみたいだ。“風の詩”の大地にも一応町はあるみたいなんだが、決してその場所が自分にいいとは限らないし、何が起きるのかも分からない。

それでもそこに住み着いてる人達は過去や今に何かを背負ってしまっている者の集いだから、人の傷みがよく分かる人達ばかりなのかもな。

 

風が少しだけそよそよと通り過ぎる。そのせいでマントが軽くなびいているが、これは進めという合図なのだろうか。

 

 

「‥先に進もうかな」

「ここの宿に泊まらないのか?」

「また野宿?」

「‥うん。歩ける所まで歩こうかなって」

「もう夜も遅いから今日はここで体休めろ。明日出発した方がいいって」

「そうかな?」

「そうだぞ。‥でもそんなに歩きたいなら、すぐそこにある泉へ行ってみろ。そこの泉は綺麗だぞ。桜井も気に入る筈だ」

「どんな泉?」

「空を映したかのような水鏡みたいな泉さ」

「へー、」

 

頭の上に乗ってるフタリの話を聞きながら、俺の足はその泉がある方向へと歩き出していた。

‥そうだな、少しは休んだ方がいいよな。

 

疲れてるのは俺だけじゃない。このフタリも‥今は見えない二人も、きっと疲れているんだ。さっきは何もそんな発言してこなかった天使と悪魔だけれど、“高見沢”と“坂崎”の心配もしっかりしてくれていたのだろう。

なら、その泉を見に行ったら少しだけでも二人に出てきてもらって本音を聞き出そうかな。

 

 

旅人さん、二才おめでとう

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