旅人さん
辺りはすっかり暗くなり、俺を照らす光は月と星と‥‥
この無数の綺麗な魂達。
リンと強く、大きく、まるで自分が生きているかのように主張してくる淡くて儚い光達。こんなにも美しいのに口では言ってはいけない気がする。
頭の上に乗っている天使が俺の名前を呼び、「ん?」とそれに答えてみせた。
「何故またここへ来ようと思ったのだ?」
「いや‥何となく。元々この地を目指す為に歩いてたけど、いつの間にか“風の詩”に行ってしまっていたからね‥」
「なら次はアルカディアにでも行くのか?」
「‥うん、また行こうかな」
愛や夢が死なない場所。
エルドラド。
今、俺が居るこの場所こそがそうだ。
傷が癒えない者の為につくられた理想郷。この場所に居ればきっと自分がまた傷つく事は二度とないだろう。しかし、それに甘えてばかりいると何かが狂い始めてしまい、最後は自らが犯した過ちに耐えきれなくて命を落とす者も少なくはないと聞いた。
この先には街も存在するし、多くの人々が住んでいる。しかし、いつまでも住んでいてはいけない。立ち直るまでの間だけ‥だ。
それを破ればこうして命はもって逝かれる。
分かる。いつまでも居心地のいい空間に居たい気持ちはよく分かる。そこは確かに傷ついた者達には理想郷かもしれない。だけど、傷の癒えた者達にとっては偽りの理想郷。
「良かったなぁ桜井」
「何が?」
そう言ってきたのは悪魔。
「お前がここで旅を終えていたらお前はきっとここで死んでいたんだろ?“風の詩“の大地へ連れてって良かったよホント」
「そうだね。俺は理想郷目指して死ぬ為に旅をしてたもんな‥」
「死ななくて良かったな」
「‥うん。今は一人じゃないからそう思える」
けど‥、二人が俺の隣にいつまでも居てくれないのくらい分かってる。
アイツらはこの世の者ではないから。
俺はまだ生きている。だけどアイツらはこんなにも近くに居るのに、一番遠い所に居るっていうのも事実。
夢は消えない‥?
そんなの嘘だ。俺の夢は二人と一緒にミュージシャンになる事だったのに。それが見事全て打ち砕かれたんだからよ。もう二度とその夢が叶う事はない。知っている。俺が一番よく知っている。
「いつか“高見沢”と“坂崎”の魂がこんな風にして夜空へと昇っていくのかと思うと恐い。温かくて美しいけれど、こんなにも哀しいのなんて嫌だ」
「桜井‥」
「‥‥、しょうがないだろ。この世はそんな簡単に出来ちゃいないんだからよ。お前の思ってるよりずっとずっと残酷なんだから」
天使の言葉は最もだ。
俺はまだまだ世界のほんの一部しか見てきてない。だから旅をして回ってる。
この世の果てがどれだけ残酷だろうが俺はそれを見つめて受け止める。
綺麗事では終わらないのがこの世界なんだから‥
(例え俺らがお前の隣に居られなくなっても‥)
(お前を見捨てる事だけは絶対にしないから)
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