罪人続編 番外編弐 - 10/32

つーみびとたーちの

 

「坂崎」と名前を呼ばれ、用事も済んだし立ち上がろうとしたが俺の体は条件反射のように再び跪いてしまっていた。

慌てて「はいっ」と返事をするも、マモン様は俺を見やりながら少しばかり間をあけてから言葉を紡げる。

 

「あの愚か者たちを本土に帰す件だが‥」

 

ドキッと大きく鳴る心臓。まさかこの話題をマモン様の方から振ってくるなんて思ってもみなかったせいで、目を少しだけ見開かせては主の方へと顔を見上げる。

長い間交渉していたが、中々相手にもされずに流され続けてきたこの話なのに‥

マモン様の次の言葉を待ちながらジッと見つめていると、主である方は無表情なままで「あの二人をここへ連れて来い」と命令を下す。えっ?と声に出そうになるのを抑え、そのセリフに肯定の言葉を返す。

 

「はっ。すぐ連れて参ります」

「十分以内に戻って来い」

 

...

 

「つー訳だからさっさと動け!マモン様の所へ今すぐ行くぞ」

「マモンの所にぃ?」

「何で俺らがわざわざ出向く必要があるんだよ」

悪魔たちに一番反抗的な奴らなので、中々言う事を聞いてくれないのは分かってる。分かってるつもりなんだが腹が立つ。

家の屋根に居たので無理やり二人を引っ張り出しながら、降りた所で二人の背中を棍棒でグイと押し付けると渋々走り出す姿。十分以内に戻らなければ話し相手すらしてくれなくなってしまうので、俺たち三人は急いで悪魔たちが集結する館へと全速力で走った。

二分くらい走り続けていれば、あっという間に着く館。大きすぎる扉をこじ開けて中へ入れば再びマモン様の部屋まで走り始める。広すぎるからマモン様の部屋まで辿り着くのが一苦労なんだよ。

後ろから聞こえてくる二人の足音と俺の足音が静かすぎる廊下に響いている。

 

「‥っハァ、ハァ‥!やっと着いた‥」

「ったく、憎たらしい程広いな‥ここはよぉ‥」

「口を慎め。マモン様の怒りを買ったら二度とこの話はなくなると思えよ?」

 

ギイィ、と音を立てながらこれまたデカい扉を開け放つと、そこの部屋に集まっていたのはマモン様だけではなく、他の悪魔たちも全員揃ってるではないか。

七人全員が揃うと身の毛もよだつ程のオーラを漂わせ、ゾクゾクとする背中の寒気が暫く取れる事はない。

瞬く間に腰が引けてしまう俺に対し、二人は物怖じせずにゲスい顔を浮かべながら堂々と部屋の中へと足を踏み入れていってしまう。その背中を追うように俺もそちらへと歩み寄ってみる。

 

‥凄い“気”だ。部屋中に充満しきっている。

ある一定の場所で二人はピタッと足を止めると、俺はその隣まで歩いてくるだけ。顔を向けた方向には七つの大罪たち。

真ん中にはマモン様がおられ、俺たち三人をその鋭い瞳で捉えると静かに声を発していく。

 

「貴様ら愚か者が何故呼ばれたか坂崎には聞いたな?」

「あぁ」と短く答えるだけの二十四番。七十ニ番は何も言わない。

「外の世界へ出たいか?」

その問いに「あったりめーだ」と答えたのが七十ニ番だった。今度は二十四番が口を閉じたまま。

「貴様らは罪人でありながらこの島から出られるとでも思っているのか?」

「なら何だよ。わざわざそれ言う為だけに俺らをここまで呼んだのか?そりゃねーぜ、マモン様よぉ」

 

七十ニ番がマモン様って呼ぶあたりバカにしやがってるのがよく分かる。機嫌損ねたらお終いだぜ?

「貴様らは国に捨てられた人間。ここで死ぬ筈だった存在」

「だが俺と高見沢はこの船頭の命に繋ぎ止められた。望んでここに居る訳じゃねーよ」

「知っておるさ‥。哀れで醜くて、おぞましいお前たちがこの島で罪人を裁く手伝いをしている姿、本当に無様なものだからな」

チッ、と二十四番の舌打ちする音が隣から聞こえた。俺はこのまま黙っておいた方がいいんだろうか‥

周りに居る悪魔たちも見下すように嘲笑っている。それに耐え続ける隣に立つ二人。

 

「だから何だよ‥。俺らをこんな風にした船頭の事をもっと恨んで欲しいのかテメェは?あ?」

「恨むがいい。その力こそ我らの力の糧となるのだからな」

「ふざけんじゃねーよぉ‥。何で俺らがお前ら悪魔なんかの為に‥!」

「おい!いい加減本題に行こうぜ。おめーらマジで帰れなくなるぞっ‥?」

「‥けっ」

「鬱陶しい野郎だなぁ」

嫌味を言われながらも俺はそれをスルーして、マモン様に「二人は帰れるのですか‥?」と恐る恐る尋ねてみた。それを知る為にここへ来たのに、喧嘩して終わりになりそうな予感がしたのでそうそうと止めに入って正解だったな。

そして僅かに微笑みながらも、その怪しい雰囲気を損なわずにおられるマモン様の口が開くと同時に、隣に居た二人の顔の表情が一変する事になった。

 

「‥今、なんて?」

「帰してやっても良いと言っておるだろ?だが一日だけだ。その約束を守れなければ貴様らはこの島が朽ちるその時まで永遠と働かせ続けるぞ」

「そんなもん御免だな」

「ぜってーヤダわ。あり得ねー」

「ならば一日で戻って来い。いいか、貴様らはもうこの世に居ないという事になってるのだからな?国に殺され、哀れに死んで逝った罪人という風に。

分かってると思うが我らの事は他言するな。そして必要以上に人間と関わるな。正体をバラすな」

「だったら‥!」

 

そのセリフにすぐ様反応したのは二十四番の方だった。体を少し前に出しながら、必死な表情で「誰にも会っちゃいけねぇのかッ‥!?」と悲壮な声で訴えていた。

お前‥‥

そんな彼の横では七十ニ番は何も言わず、ただ黙っているだけだったが目線を床に落としながら何かを考えてる様子だ。

 

「俺にはマトモな家族はもう居ねぇ‥!だったら‥せめて、せめてあの子たちだけにでも会わせてくれたって‥!」

「‥それは貴様の判断に任せる」

「えっ‥?」

戸惑う表情の二十四番。

コイツがここまで必死になって育てた子供たちって‥

 

「会いたければ会いに行け。だがな、全ては貴様の責任になるぞ」

「‥‥分かってる」

「チャンスは確かにこの一度だけだ。しかしこの一度きりだ。この一度きりをどう活かすのかは貴様ら次第。幸福を味わうのも‥不幸を味わうのも貴様らの運と行動だ」

 

いきなりガチャン、という鉄の音が聞こえたかと思えば、二人の左手首に嵌められてあった腕輪が解除されて、下にゴトッと落ちていった音だった。

この腕輪が外れる‥という意味は、この島から出られるという事。

 

ほんの一瞬だったけれど、外れた時‥七十ニ番の瞳の奥が僅かに揺らいだような気もした。コイツも‥妹さんに会いたいんだろう‥な。

長年嵌められてあった左手首をもう片方の手でさする二十四番は、唇を噛み締めながらどこか震えてるようにも見えるのは俺の錯覚だろうか。

 

「坂崎」

「‥はっ」

名前を呼ばれ、すぐさま跪く俺にマモン様が一言 言い放った。

 

「この愚か者たちを任せたぞ」

「‥言われなくとも」

えぇ、言われなくても‥俺がコイツらに着いてます。必ず‥‥

必ずまたここへ戻すようにします。

 

 

ちょっと動き出すよ

 

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