切ないね
結局マモン様に二十四番の報告はしていないまま戻ってきてしまった。まぁ、あのお方なら全てお見通しだろうから何も言わないでも「分かっておる」の一言で終えて、また人間同士の醜い争いか何かを楽しみにしているんじゃないのか。
‥なんてマモン様の前では口が裂けてでも絶対に言えないので、大人しくしているしかなかった。
施設の方へ戻った後、仲間が数人罪人たちに話し掛けているが誰も相手にされてはいない。しかし当然のごとく二十四番と七十二番だけは普通に罪人たちと会話をしては楽しそうだ。
コイツらの持つこういう力は本当に尊敬するさ。
二十四番はさっき立っていた牢の前にはおらず、別の牢の前で気軽そうに話しをしていた。‥俺がさっき二十四番が立っていた牢に行くとアイツはどんな反応をする?
悪戯心ではないが、それに近いものを胸に飼いながら俺はそこの牢までやって来た。
一人は三十代くらいの男。そしてもう一人中に居るのが、見た目まだまだ子供だろと言いたい容姿をした少年じゃないか。‥たまにこんな歳の子がここへ来たりするよな。
するとこの少年がいきなり「こんにちは」などと呑気な挨拶をしてくれた。
「こ、こんにちは‥。君、まだ若く見えるけど」
「うん。まだ十五年しか生きてないよ」
「そっか‥。君はどうしてこの島まで連れて来られたかは理解してる?」
「うん、自覚してるよ。悪い事をいーっぱいやってきたからでしょ?世間の皆様にはお知らせされないようなクズ人間の集まりの内の一人という事くらいは」
「へぇ‥。中々物分かりがいいね。大の大人が喚いて死にたくないってほざいてるけど君は違う」
「そうかな?‥だって俺、もう死んでもいいって思ってるし‥」
な‥
この子‥まさか、この島まで死にに来たんじゃ‥
チラッとズラした目線の先には二十四番。今の言葉、聞こえてたのだろうか?
「死にたいん‥だね‥」
「うん‥。俺の生き甲斐は尊敬する大好きな兄ちゃんに認めて貰う事だったんだ。でも今は居ないよ。捕まっちゃった」
「だから生きてても仕方ないと?」
「そうそう。自分ではここまで頑張って生きてきた方だけどね」
「‥‥。」
なんて綺麗な目をしているんだ。
けど、いいのか?
お前の大好きな兄ちゃんはすぐそこに居るじゃねぇか。あと五年の命ではあるが、まだ生きている。
二十四番だって‥この子が先に死ぬと分かってて何もせず見捨てるとは思えない。
血は繋がっていないが大事な大事な子供なんだもんな‥
「‥‥。」
...
「っあ~‥!今日一日終わりぃ!」
家に帰り、俺は自分のベッドにダイブしては疲れ切った体に休息を与えてあげる。あ~‥疲れたぁ。
「‥‥。」
そして桜井は無言のまま部屋着に着替え、サッサと台所に立っては晩飯を作る用意に取り掛かってしまっていた。食事は桜井に任せっきりなので、基本俺が洗い物担当だ。
いつもは何かと下らないトークをしながら作っている癖に、今日に限ってだんまり。そんなんじゃあ人を騙すプロとして失格ですよ、桜井さん。分かりやすすぎる。
わざとらしく大きく溜め息をついてみせ、ダラけていた体を起こしながら俺も着替えてしまう。
ストレートに話し掛けてみっか‥
「桜井、お前アレ育ててたガキが来ただろぉ?」
「‥なんで」
おわっ、結構鋭い目で見られた。
「船頭と話してただろ、ソイツ?」
「‥あぁ」
「会話‥聞こえてたのか」
「あぁ、‥」
小さく震えてしまいそうな弱々しい声だった。
そりゃあ辛い‥か。あんなほぼ目の前で大事に育ててきたガキがハッキリと「死にに来た」なんてほざいていたら。親の気持ちになると、かなりキツいんだろうねぇ。
包丁で野菜を切る音がいつもとは違い、歯切れの悪さがよく目立つ。
「ここに連れて来られたのはお前のせいなんかじゃない」
「‥けど、こっちの道に引きずり込んでしまったのは俺自身だ‥っ」
「そのお陰でお前が育てたガキたちは今を生きている。どうせ見捨てられて死ぬだけだった奴らに命を与えたのはお前だ、誇りを持て」
「‥ありがとな。口調が元に戻ってるって事は本気でそう思ってくれてる証、か」
「あっ‥いや、まぁ‥」
この癖は直らないのだろうか‥ねぇ。
「だけど‥またこの島に俺が育ててきた子供たちが来たら‥‥俺は耐えられない。自分でやってきた事なのに‥俺が生きていて、なんで子供が先に死ぬんだよ‥!」
「‥それが俺らに与えられた罪と罰だからな」
「っ‥。そうだったな‥。忘れかけてたよ。俺ら二人には救いなんてもんはないって事をよ」
鳴らなくなった包丁の刻む音。一瞬だけ静寂に包まれたが、それを素早く破ったのは俺の方だった。
「‥‥。悪いが桜井、今回ばかりは協力出来ねぇ。もうこれ以上船頭を裏切るような真似はしたくない」
「分かってる‥」
「俺とお前は死ぬ時まで同じだ。‥ガキより先に死のうなんて考え、捨てろよ」
「‥‥。」
なぁ、
返事くらいしてくれよ、桜井‥
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