心配ね
バッタリと会ってしまった船頭にどう言い訳するか。こっちを見ている船頭の目は珍しく大きく見開いており、素直に驚いてるといった表情。
船頭のそんな反応を見られるのも中々ないので心の中で若干笑ってしまったが、段々とアイツの顔が険しくなっていくのが読み取れた。
地べたに座っていた船頭が立ち上がると、鬼のような形相に変えながら「帰れ!!」と怒鳴ってくる。その声量の大きさに、二人してほんの少しだけ気圧されてしまっていた。
「何しに来た!?お前がここへ来ていいとは一言も言ってないぞ!?」
「悪かったな、ただコイツに島を案内してただけだよ。そぉ怒るな」
「しかも今の時間は抜け出していい時間じゃねぇぞッ?その子がいくら大切に育ててきた子だろうが、罪人はみんな平等だ!すぐに戻れ!」
「分かったよ、すぐ戻る。そんな大声で怒鳴ると眠ってる仲間たちが起きあがっちまうぞ?」
「っ‥。いいから戻れ。マモン様たちには報告しないでおいてやるから‥ここから今すぐ立ち去れ」
「‥すまんかったな」
素直に言う事を聞こう。クルリと踵を返し、俺たちは来た道をそのまま真っ直ぐ帰って行く。
「‥あの人に俺たちの関係バレてるね」
「何もかもお見通しだな。アイツには敵わねぇ」
なんで俺たちの関係を知っているのかが引っかかってはいたが、大方高見沢から情報を貰ってるのだろう。その部分をつっこもうかと考えたが、口論にならない内に終わらせた方が賢明だ。
どうせバレるものだったんだろーしな。あえて黙っておいて正解か。
僅かに首を後ろに回してみせると、まだこちらを見つめている船頭の力強い目で見張られていた。船頭ならまだしも、高見沢にまで監視されてる状態だしな‥
下手に動けねぇ‥か。
...
アイツ、こんな場所まで来て何がしたかったんだ。
なんだか聞き慣れた声が聞こえると思ったら、まさかの二十四番のお出ましとかさ‥やめてくれよ。お前らがここに来ていい訳がないだろ。
ハァ、とまた溜め息が漏れてきてしまう。もうこんなのは日常だ。嫌な日常だよ全く。
みんなに不快な思いさせちまったかもな‥
「ゴメンな。でも許してやってくれないか?二十四番だって今は辛い目に遭ってるんだ‥」
擁護してる訳じゃない。
ただ、一人の人間として‥親の立場として二十四番の事を考えると何故か胸が痛かった。少しはアイツの気持ちを理解してやれてる証拠なのか。はたまた同情してしまってるだけなのか。
もし‥もしだぞ?アイツがここへ来た理由として、仲間たちへの償いの為に死のうとしていたら‥?
そんなもの俺もここに眠ってる仲間たちだって許さない筈だ。みんなはどれだけ痛い思いをして死んだと思っているんだ‥。お前らのせいで全員この世から消え去ったんだぞッ?
本当に‥なんで俺はみんなを助けてやれなかったんだ‥。俺だけが生き残って‥なんでみんなは‥‥
ギリッと奥歯を噛み締める音と必要以上に固く握ってしまう拳。
脳裏に浮かぶのはやはり隣にいつも立っている大嫌いな二人の存在。
「くそっ‥。俺はどうしたらいい?今の二十四番を正気に戻す方法だって浮かばないのに‥」
罪人たちを理解するなんて夢のまた夢だ。
ここに来れば、かつての仲間たちが知恵を貸してくれるんじゃないかと思ったが‥そうだよな、お前たちを生き返らせず、罪人を生き返らせてしまった俺なんかに協力はしてくれねぇよな‥
命をムダにしてしまってごめんなさい。けど‥五年後、俺が死んだら迎えに来てはくれるか‥?
妹にだって早く会って謝りたい。
「はぁ‥」
溜め息ばっかりだ。不幸にしかならねーぞ、俺ってば。
落ち着かない気持ちのままここから離れ、施設の方へ戻ろうと歩き出してみたが、胸騒ぎしか残らない心でどう仕事する?
歩きながらボヤッと考え込んでいると、道の真ん中で佇んでいる七十二番が、相変わらず荒れた海を眺めてる姿が現れた。
俺が結構近くに来ても相手は気付いてないようで、俺と同じく考え事をしているのだろうか。いつもなら気配を消して近付いてもすぐ後ろをチラ見されては「うぜぇ」とか言ってくるのに。
俺よりも大きい背中がどことなく寂しさを訴えており、黄昏ている彼の後ろに立つと、やっと俺の存在に気付いたようだ。
「‥なんだよ」
「二十四番を信じ切れなくて苦しそうなツラしてんな」
「ほっとけ」
つめてーなぁ‥。ま、優しくされる方がよっぽど気持ち悪いからこの態度のが俺にとっては丁度いいけど。
七十二番の隣にやって来るも、彼の恐ろしい目付きや雰囲気は半減してしまっている風に見えるのは、きっと気のせいじゃないだろう。八年間、一度も喧嘩すらしてないコイツら二人の間に微妙な亀裂が入ってしまっているからムリもないと思うが。
‥ちったぁ可愛げがあるんじゃねーのか。
「お前一人だけ生き残ったらどうする?」
「‥言ってるだろ。桜井は死なせねぇ」
一瞬だけ眉間に寄せた皺が彼の決意だろうか。
施設がある方向へと歩き始めてしまったので、俺もその後を追いかける形になりながら会話を続ける。
「明日‥アイツら大人しくしてると思うか?」
「思わないねぇ。今夜は桜井を一晩中見張るつもりだ」
「裏切ってるみたいで辛いか?」
「うるせぇ。相手は詐欺師だ。人を騙す事なんて造作もないし、何も感情なんて持ち合わせてねぇよ」
クルクルと器用に棍棒を回している七十二番。
「そうかな?二十四番だって苦しいんじゃないのか?だってお前らさ‥」
「黙れ。桜井はガキのが大事に決まってるだろぉ?」
「え、なにそれ。もしかして嫉妬してんの?」
「ハァッ!?なんで俺があのガキに嫉妬するんだよぉ!?ぜんっぜん意味が分からん!」
「そう必死になるなってー。取られて悔しい気持ちは分かるけどさ~」
「おい船頭テメェ‥あんま調子のりやがると殺すぞ‥?」
ギロッと睨まれたその冷めきった瞳の奥に思わずゾクッと背筋が凍ったが、やはり彼にはこうでいて貰わなくちゃ逆に調子が狂う。
苦笑いを見せ、「冗談だよ」と付け加えるとそれ以上しつこく責めるつもりはなさそうだった。しかし、チッと鳴る舌打ち音は大きめだ。
「‥なぁ、船頭さんよぉ」
「ん?」
「信じ切れないって‥嫌だな」
「‥‥。」
その言葉にあえて返事はしなかった。
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