誰にも見えない
次の日は何事もなく仕事が順調にいき、二日目の今日も二十四番が何かを仕出かす様子は見られなかった。
島の土木作業をさせられている罪人たちに混じり、二十四番はしきりにあの子の様子を窺っては常に見守っている感じには見えた。
時折話し掛けては笑いあってる場面もあり、本来ならそこはしっかりと働けと口出ししたくなる行為ではあるが、今回はやはり何も言えないし、そっとしてあげたかったのは事実。
けれど、あの二人がこのまま大人しくしている可能性は?信じてない訳ではないが、奴らは詐欺師。一人はかなり有名人だし、もう一人はその有名人に育てられた子供。‥多分俺の頭脳じゃ勝算はないな。
作業をしている罪人たちを見張り続けていると、七十二番がこちらに近付いてきた。何かの報告かな、と思いつつもあの話題だろうと確信はしていたが。
「船頭」
「なんだ?」
隣に立ち止まった七十二番の顔を少し見上げる形になる。
「桜井の奴、死ぬんじゃねーのかぁ」
「えっ‥!?そ、それはダメだ!お前らの命の管理はマモン様に握られてるようなもんだろ‥っ?予定より早く死ぬなんて許されない。あとの五年は絶対生きて貰わないと‥。仮にも俺の命だぞ?」
「そうだとしても、アイツにとってはガキが死ぬという事はよっぽどな出来事なんだろぉな。昨日一睡も出来なかったみたいだしぃ」
「だけど‥っ。きっと死のうなんて考えたら更に罰が増えるぞ?もしかしたら一生ここの島で奴隷のような扱いを受けて死ぬ事も許されないんじゃ‥。あの悪魔たちならやり兼ねない。今は俺が居るからこの程度で済んではいるものの‥」
「だったら俺は桜井と一緒にこの島で生き続ける」
「え‥?」
「俺と桜井は同じ罪を持っている。桜井が早く死ぬなら俺もその時に死のう。アイツが生き続けるのであれば俺はアイツと生き続けよう。‥一番許されない罪を背負ってるのは俺と桜井だ。アイツだけに背負わせたりなんかは絶対させない」
「覚悟はしてるのか」
「生き返ったその日からそう思い続けているさ。どんなに悪魔やお前が嫌いでも、俺たちは他の罪人たちを跡形もなく消してしまった罪がある。お前の仲間を殺せと命令したのも俺らだ。‥許されなくて当然だ」
「もう過去の事だ」
「でもお前は一生俺らを許しはしないんだろ?」
「当たり前だ。罪のない人間を殺したんだぞお前らは?お前たち罪人を理解はしたいが許したい訳じゃないからな?そこら辺勘違いするなよ」
「んなもん分かってるってぇのぉ」
‥口調が普段通りに戻ってしまった。これ以上話しても本音では喋ってくれないだろうな。
小さく溜め息をついた後、そろそろ休憩の時間だったので声をあげ、罪人たちの作業している手をストップさせた。
そうしたら七十二番はフラッとそのまま罪人たちが集まっている方向へ移動してしまい、さっきの話しはもうする気はないんだと思う。まぁ‥こんな話しをアイツと二人きりで話すのも滅多にない機会だし、本音を聞き出せただけ嬉しかったりもするから許す。
‥が、さっき言ったように罪人を理解はしたいが許す訳ではない。
「難しいな‥本当。どうすりゃいいんだよ」
モヤモヤしているこの心はどこで解放されるのかな。
ふと思い立ち、近くに居た仲間に「ちょっと外す」とだけ伝えるとそのままとある場所へと向かった。
「坂崎さん‥」と呼ばれたが、左手をヒラリと振ってからその場を立ち去った。
...
「おい、ちょっと来い」
「なに?マサ兄」
施設の方へと戻って行く罪人たちに紛れ、俺たちは誰にも見つからないようにコッソリと抜け出してみせた。船頭の姿も見当たらないし、ほんの少しばかりのチャンスを俺らにも与えさせてくれ。
連れて行こうとした少しその先には、何故か高見沢がそこに居た。何を言うでもなく、俺たちを見据えてるだけ。
その横を通り過ぎようとすると、案の定「どうする気だ?」と低い声で尋ねられてしまった。逃げ道はないのでコイツだけには正直に話そう。
「お前と出会った時と同じさ。ちょっと抜け出してこの島を散策するだけだよ」
「行く場所を教えろ」
「そんなに俺らが信用出来ない?」
「バーカ。テメェら二人共詐欺師じゃねーかよ。誰が信じる?」
「心外だな。俺とお前の仲だろ?俺は一度だってお前を騙した事あるか?」
「‥‥。俺は今のお前を心から信じ切れてないからな。覚えとけよ」
いつも船頭に向けられてるあの腐ったような目付きが今回は俺に向けられている。‥そりゃ肩書きが詐欺師なら誰も信用はしねぇか。しょーがないけどよ。
そんな高見沢の横を今度こそ通り過ぎると、アイツがこちらを振り返ってはあの目で見張っている気もしなくはない。いや、見張られてるな完全に。
「あの人がマサ兄の相棒?」
「そうだな。たまたま同じ舟に乗り合わせて、同じ牢に入れられて、反乱を企んだ仲だ。八年間ずっとアイツと一緒に地獄に耐えてきた」
「反乱なんてするからだよ。素直に死んでおけばこんなに辛い思いしなかっただろうに。バカなのはマサ兄でしょ」
「論破のしようがねぇな」
けど、人間誰しも「今日この日に死ね」と言われてその通りに死ねる奴なんてごく僅かだ。生き永らえたいと思う気持ちだって大切だとは思うがな。
こんな会話をしながらほっつき歩いてはこの島を案内していく。
御神木や滝つぼに暝道の窯、悪魔たちが住む館なんかを沢山案内した。俺らが今やっている仕事の内容や、死んでいった罪人たちはどうなるのか。俺と高見沢と船頭の命はあと五年という事も何もかも話した。
‥こんなに楽しいのは何年ぶりだろう。
時が止まってしまえばいいって、こういう事なんだな。
そしてもう一箇所行く道中、「マサ兄は死にたいの?」と問われてしまった。さっきの高見沢との会話の中で疑問を持たせてしまったようだ。
話すべきか否か。
しかし、コイツも鋭く育ったみたいだから隠しても意味はない‥か。
「お前たち子供が先に死ぬなんて、親としてはそりゃあ誰でも嫌だしな」
「だからってマサ兄が先に死ぬ意味が分からない。罪を増やしたのはマサ兄のせいだ。あとの五年は生きなきゃ‥それが罰なんでしょ?」
「そうさ。きっと今ここで死んだって悪魔たちが許さない筈だ」
「じゃあ死なないって約束して」
「‥あぁ」
「何その空返事。そんなんじゃ信じてもらえないよ」
ごもっともだ。今の俺は精神的におかしくなっちまってるから正常な判断もつかないんだろう。
コイツをどうしたらここから逃がしてやれるかしか考えられなくなってしまっている。だが、逃がした所でコイツが無事で本土へ戻れる保証は無に等しいかもしれない。
悪魔に見つかれば一瞬でその命と体は消し飛ぶ。仮に海に放ったとしても、船頭たちが居ない舟でどうやって漕げる?
どれもこれもダメだ。作戦すら立てられない。
かと言ってコイツには俺みたいな思いはさせたくないし‥、やっぱり潔く死ぬのがコイツは楽になれるのかな。
明日には全て決まる。
暗い顔をしながら辿り着いた場所は、たった一度しか立ち入った事がない場所。それ以来船頭に近付くなと言われたからここへは来てなかったが、久しぶりに来てみたもんだ。
「ここは‥?」
「八年前、俺たちが殺した船頭たちの墓だよ」
「お墓‥」
不思議とここの場所だけ柔らかい空気が漂い、優しく笑うような花が咲き誇っているここの墓は俺が立ち入ってもいい場所じゃないのは分かっている。
だけど‥‥
「えっ‥!?な、なんで二十四番がここに‥っ?」
「せ、船頭‥」
しかし、そこに寝っ転がっていた船頭に気付かず現れたコイツとの対面に、思わず心臓が飛び出そうになってしまっていた。
や、やべぇ‥
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