罪人
「次、三十五番。言い残した事はあるか?」
いいえ、と小さく首を振る男の目の前の視界に広がるのは業火。この中へ強制的に落ちて貰わなきゃいけないのなんて見てるこっちからしたら辛いが、コイツだって人に許されない事をしてきたからここに来てしまった。
可哀想だけど、今日ここに居る五十八人の罪人には全員この窯の中に飛び降りて貰う。もう既に半分ちょっとがこの中へと飛び込んでいった。
番号と罪状を確認をすれば、一人‥また一人と消えていく。
周りに居る仲間は二人。窯の下には二人の罪人とあともう三人俺の仲間が見張りをしてくれている。
こんな事を長年やり続けているのに罪人の数は減っていかない。どれだけ国が隠しているかは知らないが、よくもまぁここまでやれるなと。
また番号を読み上げれば、その後に続く罪状を言葉で繋げようとしたが、急に頭がグラッときてしまい、背筋に悪寒が走ったような気がした。あ、これヤバイ‥と思った瞬間、体が一気にガクンと力が抜けてしまい、俺は思わずその場で膝をついてしまった。
それを見ていた二人の仲間が「坂崎さん!?」と慌てて俺を介抱してくれようとしたが、俺が断ろうとすると下から他の仲間の「どうした!?」という声が聞こえてきた。
「やっぱり今日はやめた方が良かったですって‥!朝から顔が真っ青で体調もいつもより優れないって言うから‥」
「ざ‥罪人達の、最期を見届けてやらねぇと‥」
「そんな事より自分の身体の心配して下さい!」
「けど‥」
ダメだ‥。目の前がクラクラする。何かおかしいぞコレ‥
寒気も酷いし気持ちが悪い‥
「おい船頭!」
「何やってんだよてめぇ!」
「あっ、二十四番さん七十ニ番さん!坂崎さん、身体が熱すぎます。危ないですよ‥!」
何となく聞こえてくる会話。アイツらがここまで来てくれたらしい。だけど顔を上げるのもしんどくなってきており、荒い息を吸っては吐き出す事しか出来ないでいると、七十ニ番が「おぶされ」と言ってきた。
それに甘え、体を預けようとしたが、上手く動いてくれなくてどうしようもなかった。そんな俺を見ていた二十四番や二人が手伝ってくれて何とか七十ニ番におぶさる事が出来た。
ザワザワし出す罪人達の声が僅かに聞こえてくる。ちくしょう‥何でこの身体はいつもこんな‥
最近、この男におんぶされてばっかな気がする。
そう思いながら温かい背中に少し安堵しながら意識が遠のいていった。
「‥‥ぅ、」
「気付いたか、船頭」
船頭がぶっ倒れてから付きっきりになってしまっていた俺と高見沢。最近コイツの体調が益々悪化してきている。それは本人より俺ら周りの方がそれに気付いているのかもしれない。
船頭の仲間は毎日コイツの心配をしていて、「坂崎さん、大丈夫ですかね?」といつも俺か高見沢にこの質問をしてくる。大丈夫な訳ねーだろ、あと五年の命なんかで。
「ったくよぉ、お前心配させすぎだっつーのぉ。体調管理くらいしっかりしろ」
「わ、悪りぃ‥。何か‥もう暗いな。俺、そんなに寝ちまったか‥?」
「は?」
「今‥何時?」
「‥船頭?」
「部屋の電気くらい‥つければいいのに」
「船頭‥」
何言ってんだコイツ?
高見沢と不振がるように目を合わせた後、俺は船頭の前に手の平を見せつけるように突き出す。
「船頭‥、俺の指が見えるか?この指何本に見えるっ?」
「指‥?」
いかん‥、焦点が定まってない!
すると高見沢が「お前‥目が‥」と、疑い始めていた疑問を口にする。
「船頭、今はまだ正午だ。天気は曇りだがさほど外は暗いとは言えねぇ」
「は‥?何言ってんだよ‥。そんな嘘ついたって‥」
「嘘じゃねぇよ!そんなしょーもない嘘つく訳ねーだろ!」
「‥‥うそ」
そこで自分の置かれた状況に気付いたのか、船頭はゆっくりと手を顔の方へと持っていき、そっと目を触った。
開いている目を直に触れながら。
「‥‥、」
「船頭‥」
嘘だ‥
嘘だッ!!
失明‥?
何でっ?何で目が急に見えなくなるんだよ!?
違う‥何かの間違いだ!目が‥視力が‥消えるなんてそんな‥
疲れてるんだよ‥。働きすぎてるだけで‥目が疲れてるんだきっと‥!だからほら‥!ちょっとボヤけて見える!大丈夫だろ、こんなのすぐ治るよ‥、
こんなの‥きっと、すぐ‥
「‥やっぱり見えねぇか」
七十ニ番の声がすぐ隣から聞こえてきた。え?お前何した?見えないって何が?おい、教えろよ。お前何したんだよ‥
嘘だ嘘だウソだ!
こんな突然‥おかしいよ。
「‥そんな」
待ってよ‥
視力は奪うなよ‥!
仕事していけなくなるだろうが!!目は‥まだまだ使うんだよ‥
体力が衰えたっていい。体がダルクても頭痛くても気持ち悪くなってもいい。だけど‥!!
目だけは‥持っていかないでくれ‥
「‥‥っ、」
「‥泣くなよ」
二十四番の優しい声が聞こえてきた。
泣いてなんかいねぇよ‥
その後に七十ニ番の「どこ行くんだよ?」と二十四番が外へ行こうとガチャとドアを開ける音がした。
「高見沢は船頭見てろ。俺はマモンの所に行くからよ」
「気をつけろよ」
「‥あぁ」
パタンと静かに閉まったドアの音。
絶望の中に閉じ込められたような気もした。
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