罪人続編 番外編弐 - 7/32

船頭さん達がクリスマスだってさ

 

「ふわぁ~。‥なぁ桜井ぃ、今日って何日だっけぇ?」

「んー‥。世間ではクリスマスだってさ」

「あークリスマスねぇ。なんか昔そんな事やってたよーな気がするわぁ」

「もう軽く十年はそんな行事とご無沙汰だな」

「牢屋の中に入ってた期間とここの島に居た期間合わせれば‥あぁ、そうだねぇ、軽く十年超えてるわ」

 

今俺らは家の屋根で曇った空と濁った海を眺めながらボーッとしている所。その隣では指を折りながらクリスマスをやってない期間を数えてる高見沢。

 

クリスマスって一体何をそんなに盛り上がる行事なんだっけ?と思い直してみる。

いや、俺だってまだ“家族”が居たあの頃は子供達にプレゼントしたり、仲間達とパーティーとまではいかないが、そんなような事はしてたっけな。ケーキ買ってみんなで食ってたよな‥

記憶が薄れてしまっている。忘れたくないのに、ここで起こりすぎた出来事のが頭に残りすぎて、昔は覚えてたものが引き出しに閉じ込められてしまったみたいだ。

 

「クリスマスなんて言葉ここの島で使うなバカ」

 

いつの間にやら後ろに立っていた船頭。何だよいきなり背中に立ちやがって、ふざけんな。

ギロッと睨みつけると船頭はフンッと鼻で笑い、俺達の後ろ側にドサッと背中を向けて座り込んだ。距離はだいぶ空いてる。これ位が丁度いいのかもしれないな。

 

お互い顔が見えないまま会話が続いていく。

 

「キリストの誕生日だからぁ?悪魔達がなんか言ってくんの?」

「口には出さないけどピリピリしてる。お前らも気をつけろよ、悪魔達の前であんまり口を滑らすな。命がなくなるぞ」

「別に俺らはいつ死んでもいいんだけどな。この命はてめぇの命だからよ。俺らにゃ関係ない話さ」

「俺の命を無駄にするなって言ってんだよクソが」

「うるさいよぉ?何回言えば分かるの。俺達は生きたくて生き返った訳じゃないのー。俺らはアンタに無理やり起こされたの。分かる?」

 

その後に船頭からの返事はなかった。

つーか船頭達がこの時期には帰らないからコイツらもクリスマスなんてだいぶ肌に触れてないんじゃねーか?帰るとしたら、正月あたりに三日間だけ本土に帰ってるけど。俺らは勿論お留守番だ。この左手首に着いてる腕輪が取れない限り、ここからは二度と出られない。

 

そういやぁ、前に船頭言ってたな。俺と高見沢を一度本土に戻るか?って。あの話はどーなったんだ。まだ悪魔達と掛け合ってる最中なのか?

 

‥そこら辺は詮索しないけど。

 

黙っていた船頭だが、「なぁ、」と声を掛けてくる。俺と高見沢は何も言わずに船頭の次に出てくる言葉まで待った。

 

「子供の頃サンタから貰ったプレゼントで何が一番嬉しかった?」

 

その質問に俺と高見沢は思い切り顔をしかめ、「はぁ?」と二人同時に声が重なり合った。なに言い出すんだコイツ、気持ち悪りぃ。

 

チラッと後方を確認しても、背中を向けているから船頭がどんな表情をしてるかは不明。

船頭は「俺な、ハーモニカ貰った時かな」なんて聞いてもないのに答えてくる。ハーモニカねぇ‥。どことなく横笛と似てる気が‥ん?似てねぇぞあんまり。

 

「二人は?」

すると高見沢が「デカイゴジラの人形かな」なんて答えていた。へぇ‥、お前そういうの好きなんだ。

 

「二十四番は?」

「俺は‥‥、何にも記憶がねぇ」

「‥そっか」

 

船頭も高見沢も少しハッとして、どこか気遣ってくれてるような気もした。別に俺はそんな事で機嫌損ねたりしねーよ。

 

「でもな。俺はサンタから何も貰えなかったけどよ、その代わりサンタになれたからそれでいいんだ」

「‥‥、」

「沢山の子供の笑顔を貰ってきた。俺にとってはそれが一番のプレゼントだったのかもな」

「桜井‥」

 

いいんだ。俺は子供達の笑顔が見れるだけで。本当にそれで良かった。

サンタには何も貰えなかったけど、俺が子供達のサンタになれた時は心から嬉しくて熱くなる胸は今でも忘れられない。なんだ、ちゃんと記憶残ってるじゃねーか。

 

すると後ろに居る船頭が、穏やかな声色で「羨ましい」と呟いた。

「何が」

「俺もサンタになりたかった」

「‥今からでも遅くはねーだろ」

「バカ言うな。あと五年の命で身体がガタガタな奴でこんないい歳した男を誰が貰ってくれるんだよ。第一俺はもう本土では暮らせない」

「もしかして、結婚したかったのぉ?」

「‥そういうお前らはどーなんだよ」

 

話をはぐらかそうとする船頭に、高見沢は「お前が言わないなら言わない」と子供じみた台詞を放つ。それに対して船頭は再び沈黙を漂わせた。

自分から聞いといて何だよ。つーか、結婚したかったオーラすげぇ背中にビシビシ伝わってくるぞ。言わないでも丸分かりだなこりゃ。

 

てか、サンタになりたかったって言ってる時点で結婚したかったんじゃねーかよ。

高見沢は‥どうなんだろ。コイツは危険だしな、結婚する以前の問題だと思うが。

 

「いいなークリスマス。彼女の一人にでも指輪あげれば良かったぁ」

「あげなかったのか」

「うん。俺に用事がない限りはずっと部屋に二人で閉じこもってたからねぇ」

「閉じこもってたんじゃなくて、閉じ込めてたんだろーが」

船頭のツッコミに高見沢はヘラヘラしながら「そーだよぉ」なんて軽い口調で答える。

 

にしてもこの島は太陽も殆ど見えなければ雪も降らないのか。

八年間ここに居るけど、一度も雪が降った所なんて見た覚えがないな。だからと言って雪が見たい訳じゃないんだが、この曇り空もいい加減飽きたんだよ。もう少しだけ他の表情を魅せて欲しいかなとは思う。

 

「いーよなぁ、他の世界の俺らは何やってるんだろ‥」

おい船頭、それは禁句だろ?

俺らは今「罪人たちの舟」の世界観で仕事してるんだ。いつもみたいにオフじゃないんだぞ?と、言い返したかったが、高見沢が「さぁー?」なんて言っている。

 

‥おい。いいのか、これ本当に?初めての試みだぞ。

 

「旅人さんはきっとどこか立ち寄った街で楽しいひと時過ごしてんのかなぁ‥。人魚は‥と言うより、ソフィアが居るから王子様達とラブラブなんだろーな」

「‥俺らだけじゃねーか。こんなつまらねークリスマス過ごしてんの」

「智天使の所とかどーなんだろーな?」

「なんか盛大にやってそーだよなぁ」

「ほら、愛されの俺なんかいっつもサンタコスさせられてるし‥」

 

何故か声が重くなった船頭の声。

そして船頭は「ノーマルってさぁ‥」とまだ続けるようだ。

 

「なんか毎年この時期ライブやってんだって」

「ふーん、」

「この前ノーマルの俺から聞いた。クリスマスの曲もあるんだって。‥なんかいいよなぁ」

何がだよ。

 

「俺達って絶対叶わないよな。生みの親のノーマルの演奏してる所や歌ってる所見るのって‥。自分で言うのも何だけど、ノーマルの俺ってやっぱ格好いいと思うんだ」

「よく言うぜ、説教ばっか喰らってる癖に。それにノーマルの俺のが格好いいだろ。ギターうるせぇぐらい鳴らしてあんなたっけぇ声で叫んで‥、アイツ何がしてーんだ‥」

「声はノーマルの俺が一番だからな?ノーマルの高見沢なんか舞台立ってたまに恥晒してるだけだろ」

「‥否定はしねぇよ」

 

複雑そうな顔で海を眺める高見沢。俺らをよそに船頭は、一つ大きな溜め息をついたかと思いきや、また「すげーよなぁ」と呟いた。

 

「‥やっぱ、かなわねぇか」

それは叶わないという意味か、敵わないという意味なのか。

 

もしかしたら両方なのかもしれねーな。

それにしても雪くらい雰囲気で降ってくれたっていいじゃねーか、と言いたい所だが、寒いのはゴメンだから降らなくていいや。

 

「俺達にはもう二度とクリスマスはねーよな」

 

☃︎

 

船頭さん達の世界じゃクリスマスなんてあり得ねーと思ったから面白いかなと思って書いてみただけ

 

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