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「まさか‥、そんな‥!」
こっそり覗いていた俺は驚愕してしまった。
サクライの前には得体の知れない物体がゆらゆらと揺れているようにも“見えた”から。
その蜃気楼のような物体は、どことなく人の形をしているようにも見えるが、ハッキリとそれが人と言い切れる自信がない物だったので俺はただ黙って‥いや、声すら出てこない状況にまで追い込まれていたのが現実。
な、なんだよアレは‥
「‥‥ハァ、俺に取り憑いておきながらアンタは何も行動を起こさないんだな」
(マサルが心からやりたいと願わないからでしょ?これでも我慢してるんだから)
「まぁ‥な。俺はただ単にお前を救いたいだけだからさ」
(なら早く願いなさいよ)
「バカ言え。そんなに簡単なものじゃないんだよ。アイツを‥タカミザワを殺せる筈なんか‥」
(意気地なし。それでも男?)
「‥…。」
嘘だ‥‥
サクライ、何してんだ‥?
頭おかしくなっちまったのか‥?
いや違う。俺にだってサクライが“何か”と会話してる声が聞こえるのだから幻でも夢でもアイツが狂ってるわけでもない。
現実だというのか‥。
信じられない、。
それってまさか‥まさか。
この教会で命を断った天使?
はっ‥、バカな。そんな訳あるもんか。
いや、でも俺が今見ているのはサクライとその誰かだよな?
本物の堕天使‥?否、あれは悪霊に等しい物だろう。‥サクライの奴、自分に取り憑いておきながらとか言ってたし‥。
違う違う違う違う違う違う。
違うッ!!
サクライはそんな……
「とにかく、タカミザワを殺るのは俺が決心してからだ。アンタには口出しはさせない」
(あんまりモタモタしてると私の意志で勝手にマサルの体使って先に殺しちゃうからね。わかった?)
「あぁ‥。なら一刻も早く“明日の鐘”を鳴らさないとな」
(うん。私が完全になる準備だからね‥。あのタカミザワとかいう天使に“明日の鐘”を鳴らして貰わないと困る)
「町の奴らは鐘を鳴らすとアンタが成仏してくれると思っているからな。まさか悲劇の始まりとは知らずに‥」
(頼りにならない伝説が伝わっていったものなんだね)
な……なんの会話してんだよサクライ達‥!
“明日の鐘”を鳴らしたら悲劇の始まりって一体どういう意味だ‥?完全になる準備って?
頭がこんがらがっておかしい事になっている。
聞いてはいけない会話を聞いてしまっている俺の心臓はバクバクと尋常じゃない程の脈を打っていて、飛び出してしまうのではないかと心配になるくらいだった。額に手を置き一発ゴツンと殴ってはみたが、やはりこれは現実で‥痛みがちゃんと伝わってくる。
じりじりと痛む額を押さえて俺は何とかふらりと立ち上がってみせた。
サクライが怖い‥‥。
町中の人々に恐れられていたこの俺が…逆にあの温厚なサクライに対して恐怖を覚えている。
それより早くタカミザワに伝えなくちゃ…!これはサクライ達の罠だって。
タカミザワがこの事実を知ったらどうなるのだろうか‥。アイツは、‥アイツはサクライを疑っていたのか?それともただ純粋に彼に付いて回っていただけなのか。
目眩がする頭を抱えてここから離れようとしたら、足許を躓いて危うく転びそうになった体を何とか持ち上げ、サクライの家にいるタカミザワの所へダッシュで向かった。
(‥‥聞かれたかもね)
「あぁ‥。サカザキだった」
(サカザキって、いつもマサルが仲良くしてる?)
「そう。‥俺の親友だ」
(暫くサカザキを動けないようにして貰わなきゃ困る)
「‥そうだな」
呟いたサクライの瞳には怒りとも憎しみとも言えないものが宿っており、どこか哀しみにも帯びているようにも見えた。
この時点でサクライは“明日の瞳”を鳴らす気持ちがないかと言えば嘘にはなるが、正直な気持ちタカミザワを使って“明日の瞳”を鳴らしたくはなかったのが本音。口ではこうも言っているが、タカミザワを殺したくはないのも事実。
出来るならば自分はおかしいと気付いて欲しかった。そして逃げて欲しかった。
しかしタカミザワは本来の力を取り戻せていない為、サクライの異変もなかった事にしようとしていた。彼の体にはこの教会で死んだ天使の魂が憑いているのにも気付かないくらい力が弱まっていたのだ。
そういう時が一番のチャンスだが、サクライはいつまで経ってもタカミザワを殺す事は出来ずにいた。
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