明日の鐘 - 16/31

サカザキside

 

俺が気付いた時にはあの呪われた教会の祭壇で寝かされており、左手首には手枷が嵌められていて身動きが出来ない状態だった。

昼間でも暗くてカビと埃臭く、蜘蛛や小さな虫が地を這って生きていた。
何日間もここに居るんだなとは感じたが、どのくらい眠っていたのかは不明。体力も残ってなさそうだし、無闇に動いたら動いたで命が惜しくなるかもしれない。

 

「誰か‥‥」

ぼそりと呟いてみるが、こんな寂れた恐ろしい場所に人間が来る筈がない。もし来るのであれば、それはサクライぐらいしか‥‥

サクライ?

そうだ、サクライ‥!
アイツは今どうしているんだ?あの悪霊を復活させてしまったのか?

タカミザワは無事なのだろうか…

 

バクバク鳴る心臓が何かを知らせようとしているようにも聞こえる。

あの日、サクライが俺とばったり出会ってしまったあの日の夜。俺の記憶はそこでぷっつり途切れてしまっている。サクライが俺をここまで運んで寝かせたと言うのか?‥寝かせるというより気絶させられたと言った方が正しいのだろうけど。

まだタカミザワが死んでいないのなら早く伝えなきゃ。

動かない体を引きずり、出口に向かおうとしたが鎖が俺の手首と祭壇に繋がれていて出られない。長さは結構あるのに、あと数歩という所までしか距離がなかった。

歯痒い気持ちを抑え、冷静に考えてみる事にする。

「……。」

 

ここには何か手枷を破壊させるような物が置いてあるのだろうか。辺りを見渡しても長椅子が左右に幾つも並べられているだけで、他に堅い物体はなさそうだった。

ステンドグラスの破片はそこら中に落ちているが、とても使えそうにならない細かい物ばかり。

悩んでいると、祭壇の横に何かが一瞬キラリと光り輝く物が見えたので急いでそっちへ駆け寄ると、そこにはかなり上等なナイフが転がっているではないか。ラッキーと思い、そのナイフを拾おうとした瞬間に何やら寒気を感じ、バッと背後を振り返ってみるが、やはりそこには何もない。

「……?」

強いて言うならマリア像の顔部分が壊れているくらいの物があるだけ。そしてその隣には天使の像が飾られていた。

よくよく見れば、さっきからこの教会には天使の像があちこちに置かれているな‥。

一体何だっていうんだよ‥不気味だなぁ。

そんな事を思いながら俺は祭壇に左腕を置き、手枷を外す為にナイフで鎖を引きちぎろうとした時。また背中を凍らせるような寒気がしてくる始末。

 

「な…なんだよ」

幽霊とか天使だとかそういう類の物は一切信じて生きて来なかった人生なのになぁ…

 

(そのナイフを使うのはやめた方がいいと思うよ)

「!?」

突如背後から男の声が聞こえたかと思うと、勝手にガチャリと手枷が外れてくるので思わず逃げ出したかったが、脚がすくんで動けない。

 

「だ…誰だ…ッ!?」

すると霧のような物が人間の形を形成し始め、その何かがいきなり俺の目の前に現れた。顔や手足といった細かい部分はハッキリとは見えなかったが、それがさっきの声の主だという事は理解した。

 

(僕はこの教会に棲み憑く幽霊さ。早くあのサクライとかいう男を止めさせて)

「サクライの事を知ってんのか!?」

(あの人はタカミザワって奴を殺すに違いない。ここに棲み憑くもう一人の天使に魅入られてしまったんだ)

「じゃ、じゃあこの間ここで話してたのはやっぱり昔死んだ天使‥?」

(そうだよ。僕を騙してこの教会で殺した天使)

「騙してって‥アンタがあの天使を裏切って国の奴らに手渡したんじゃないのか?」

(今はそんな風に語り継がれてしまったのか)

「違うのかよ!?」

(全然違うね。だって僕は彼女を裏切ったりなんかしていない。寧ろ彼女が僕を裏切ったのに)

「はぁッ!?なんだよそれ‥」

この男の霊が嘘を言ってるようには聞こえなかった。そりゃあ、サクライとあの天使があんな会話をしていたから尚更だけど‥この男を信じてもいいんだよな?

疑う気持ちがないかって言えば嘘になるけど、一か八かでコイツを信じるしか道はない。

 

「タカミザワもサクライも救いたい。どうすればいい?」

(天使は救えるかもしれないけど、あのサクライって男はちょっと厳しいかも‥)

「ハァッ‥!?なんで‥なんでサクライだけ…!」

(取り憑かれてる時間が長すぎた。彼の体は既にボロボロだ)

「いつから…」

(もう、かなり前じゃないかな。僕はずっとこの教会の地下に棲み憑いていたから詳しい事情は分からない)

「……。」

俺は言葉を失った。

サクライがあの天使にずっと前から取り憑かれていた‥だと?

信じたくない。じゃあ、今までのサクライは本当のサクライじゃなかったって事なのか?

一緒にギター弾いて、歌って、喧嘩して、殴り合って‥それでも毎日一緒に笑い合って、ついこの間までタカミザワが天界に帰れるよう努力していたサクライが偽物?

 

そんな筈ない‥そんな筈が‥

 

俺は哀しいという感情より、悔しさの感情の方がはるかに上回っていた。

 

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