明日の鐘 - 26/31

教会の地下室へ向かい、男のミイラ化した亡骸を持ち出し、俺達はそれをあの天使の遺体と一緒に燃やしてみせた。

あの時、悪霊天使が復活しなければずっと教会の地下室でこの男と眠っていた筈の体なのに‥。俺が先にコイツらを燃え散らしてさえいればあんな事には‥

全てが消えたのを見届けてから俺とサクライは“明日の鐘”の下にいるタカミザワの所へ向かえば、そこにはやはり空をじっと見上げているタカミザワの姿が変わらずあった。

ひらひらと舞う蝶や、大空を羽ばたく小鳥達を目で追いながらタカミザワは切なそうに‥羨ましそうな表情でジッと見つめている。

そんな姿を見守る事しか出来ないなんて‥‥俺達はなんて無力なんだ。絶対にタカミザワを天界へ帰すと誓ったのに…

今のアイツを見ていると、歌詞にある“明日の鐘”の「だから人は哀しい時には 大空見上げて安らぎ覚える せつない涙こぼれないよう 心を遠くへ舞い上がらせながら」を思い出す。

こんなにもあの歌に合う奴はアイツしかいないよな‥

俺は座っているタカミザワの名前を呼んでみせた。

 

「タカミザワ!」

サカザキに名前を呼ばれ、後ろを振り向くとそこにはサクライと一緒に立っている二人がいた。あぁ‥今日は確か三人でここに来たんだったな。

そんな事を忘れてしまう程私は心を無にしていたのか‥?

まぁこんなの今に始まったわけでもないのだからな。心配かけさせて悪いと思ってはいるが、暫くは私に構わず放っておいて欲しかった。だけどあの二人の事だから私を必要以上に追い掛け回すのだろう。

 

「ほら、上着ちゃんと着ないと風邪ひくぞ」

サクライがただ背中に羽織っていただけの上着を取り、服を脱げと言ってくる。きっとまた持ってきた包帯を替えるのだと思う。

素直に上半身だけを脱ぐと、サクライは大人しく私の体に巻き付いている古い包帯を取り除き、塞がれた傷口を薬で塗ってくれていたがその手は止まってしまった。

「どうしたのだ?」と聞くもサクライは「…何もない」と答えるだけで、背中の痛々しい傷を見つめている様子。

前に一ヶ所、後ろに四ヶ所と計五つの傷跡が体に残ってしまったが、命が助かっただけでもヨシとしようか。

元々は死ぬつもりでいたのだから‥命がある事だけで喜ばなければならないのに、私は素直に喜べずにでいるのは、それはやはり二人を死なせるような思いをさせてしまったからだろう。

結果的には二人共無事であったが私は自責の念に囚われており、今が苦しくて苦しくて仕方がなかった。

私はもう天使ではない。

だから天界になんて帰れないし、二人を‥この町のみんなを守れる力もなくなってしまった。こんな堕天した私なんかが生きていても意味がない。

 

「よし。もう服着ていいぞ」

「ありがとう…サクライ」

新しく巻いて貰った包帯にサクライへと感謝の言葉を述べ、私はサカザキに預けた服を受け取りそれを着るだけ。

するとサクライが私を後ろで静かに涙を流し始め、その低く美しい声で何度も何度も謝ってくる。

 

「ごめん‥タカミザワ!本当に‥本当にごめん‥!」

「もう良い。こうなってしまった以上、私にはやり残すものは何もない。だから謝らないでくれサクライ」

「俺は一生を掛けてタカミザワへの罪を背負う‥!お前が死にそうになったのも‥天界に帰せなくしたのも全部全部自分のせいだ。‥だからお願いだ、許してくれとは言わない。一生お前の傍で罪滅ぼしさせてくれ…っ!」

「そんな事をされても私は嬉しくない!私はただ二人が生きてさえいれば‥それでいいのだから…」

「泣きながら言うなよ‥説得力も何もねぇよ‥!帰りたいんだろ?もう一度翼を広げて空を飛びたいんだろ?‥そりゃそうだよな‥。飛びたいよな、毎日毎日空ばっか見上げてるもんな…お前」

「サクライ‥」

いつの間にか私も涙を流していたのだろうか。

それに気付かないとはどこまで鈍感なのだ私は‥

そして隣で立っていたサカザキが私の前にとある物を取り出し、それを私に差し出す。

 

「…?」

「渡すタイミングがなかったから今渡す。‥お前の羽根、あの時見つけたんだ。ずっと光ったままだし‥もしかしたらまたこれでお前が飛べるんじゃないかと思って‥、」

出された羽根を受け取ると、それは正に私の翼の中の一枚だった。

 

「消えてなどなかったのか‥。そうか、この羽根が私の命を繋いでくれたのだな。‥ありがとうサカザキ。だが私にはもう二度と翼は生えて来ないのだ。力を失った今、私はただの堕天使。醜くて恐ろしいものなのだよ…」

泣いている私の頬に流れてる涙をサカザキが親指で拭えば、うぅんと首を横に振ってくれる。

「お前は堕天使なんかじゃない。“人間”だ。弱くて脆くて‥そして何よりも心が強い人間さ。そんでもって俺の女。まぁ、みんなには男ってバレちまったけどよぉ‥、タカミザワは俺とサクライが守ってやる大事な大事な親友‥だろ?」

「サカザキ‥。お前、優しいのだな」

「優しいのはタカミザワだよ。こんな酷い仕打ちを受けたのにも関わらず俺達を全く責めないなんて‥。もう少し怒ってもいいんだぜ?」

屈んで私の頭をくしゃくしゃ撫でるサカザキの言葉が嬉しくて、私はつい頷いてしまったではないか。

 

それからは暫く三人で“明日の鐘”の下で過ごした。

 

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