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あれから数日。
私は未だに“明日の鐘”へと足を運ばせ続けた。
二人に迷惑掛けさせたくなかったし、アイツらにも仕事があるから二人が交代する時を狙って一人小さな病院を抜け出し教会へと向かう。
翼がなくなった体はバランスが取り辛く、真っ直ぐ歩こうにも右へ左へふらふら傾いてしまうのだ。
そんな体を引きずりながらも私は町を一望出来る“明日の鐘”へ向かう。そして大空を見上げる為にもこの場所が一番良かったから。
サクライとサカザキからは伝説の真相を聞かされ、私が必然的にこうなる運命だという事を説明してくれた。この教会に棲んでいた男の幽霊が教えてくれたそうだ。
そうか‥
私はもう生まれた時から堕天するのは決まっていたのだろうか…。智天使として神に仕えてエデンの園を守ってきた私の運命はあの悪霊天使によって全て‥全て仕向けられたもの。最初から私を地上に落とすよう細工付けられていたのだろうか?
そう考えると苦しくて哀しくて涙が止まらなかった。
ずっとずっと天界で暮らしていた今までの私はなんだったのだろう?
皆は私がこうなる事を知っていたのだろうか?神は私の運命を変える事が出来なかったのだろうか?
‥多分、気付いていた筈だ。
だから私を天界から落としたのか。だから無実の罪の私を地上に落とし、あの悪霊天使と闘えという意味で私をそのままの姿として落としたのか?
そしてサクライとサカザキの命を助ける為に私は選ばれたのだ。
きっと皆は私があの悪霊天使を成仏させてくれると信じて私に力を‥二人を救う力を与えたというのに私は帰る為の翼をなくした。
何をしているのだ私は‥!
帰りたい‥帰りたい…!!
毎日泣いているのに枯れる事はない涙は、このまま永遠と流し続けるのではないのかと疑ってしまうほどだ。
二人に見つからないようにここで一人泣いているが、きっと気付かれていると思う。アイツらは優しいから見て見ぬふりをしてくれているのだろう。
サカザキから受け取った私の羽根は、ずっと銀色のまま光り続けている。しかしこの羽根一枚でなんとかなるわけでもなく、ただ大事に取っておく事しか出来なかった。
炎の剣も力を失い、大きさはそのままだったがただの円盤になってしまっているし‥こうなるくらいなら誰か別の天使にでも明け渡したいくらいだ。
鳥達はさえずり、気持ちよさそうに空を飛んでいる。
その翼‥折れてしまったらどうなるのだろうか?私のように飛べなくなってしまうのか?それとも治れば再び大空を舞い上がれるのだろうか?
「‥皆よ、私を人間として生かせてくれるのなら‥、あの二人、サクライとサカザキを守ってやってくれ。それが最後の私の頼みだ。聞いてくれるか?」
羽根に問い掛けると、一瞬心の中に何かが通り過ぎるような感覚がした。
「またここに居たのか」
「‥‥。」
心配して来てくれた二人が私の傍までやって来て、サクライは私の隣に座り、サカザキは目の前の柵に腰を下ろし私達と向かい合わせになるようにして見ていた。
「ここに来たいなら俺達に言ってからにしろと何回言えば分かるんだよ?俺とサクライだって仕事もあるし、一日中タカミザワの隣に居れるわけじゃないけど、言ってくれれば連れて来てやるってのに」
「‥‥一人がいい」
「あっそ。じゃあ、これからはサクライに任せるよ」
サカザキは前と変わらず冷たく言い放ってはいるが、私が心配でいつも見に来てくれてるのなんて分かっている。
一昨日、こんな風に変わってしまった私に向かって「落ちて来た時より情けなくなってる」と言われてしまった。確かに私は以前より弱くなってしまっていた。そんなもの自分の事だから分かりきっているさ。
けれど、中々立ち直れない私を見て皆は最後私にこう語り掛けてきたのだった。
「二人共、聞いてくれ。私は二度と飛べないと言ったがそれは間違いだ」
「え‥?」
私の言葉に驚き、目を見開いた二人は何か希望を取り戻したかのような目で私を見つめてきた。
「期待させるようで悪いが‥この羽根に語り掛けたら天界にいる仲間達に声が届いたのだ。だから二人にだけはちゃんと言おうと思って‥。たった一度……たった一度だけなら天界へと帰れるよう皆がこの羽根に力を込めてくれた。だから私はあと一度だけ元の世界へと帰れるそうなのだ」
「だったら今すぐにでも‥!」
「それは違う。皆は私を“人間”として生きろという為に力を授けたのだからな。今この羽根を使い、天界へ戻ったとしても結局は人間界へと帰らされてしまう。私はその時が来るまでこの羽根を使う事はしない。もしかしたら一生使わないかも知れないしな」
二人はただ黙って私の話を聞いてくれていた。
天界へ帰れるというのは事実だけれど、もう私は“人間”なのだからあの世界では暮らしていけない。それを哀れだと思った皆は私にたった一度のチャンスを与えてくれたのだ。
そのチャンスを無駄にする事は出来ない。
「本当にそれでいいのかよ‥?」
サクライが私に質問する声は嬉しそうにしていたさっきまでの目ではなく、申し訳なさそうにしている声と目だった。
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