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あれからサクライ達は数曲歌って弾いた後、しっとりとした店内の中をあちらこちらのテーブルを行き来していた。どうやらチップを貰っているようだ。
こうした稼ぎを生活の足しにしているらしいが、サクライはもっと別の仕事もしているらしい。ここで歌うのは趣味程度のもので、楽しければそれでいいみたい。
サカザキはこの店自体で働いているから元々食べていけるし、タクローさんが何かと面倒を見てくれているようなので心配はないんだって。女と遊んでる話も有名だしタクローさんにも程ほどにしとけと言われているが、中々やめてくれないとかなんとか。
この町にある酒場が唯一ここだけなので、みんなが集まって来るうえに、お菓子も貰えるからさっきの少年のような年の子供も関係なく訪れる場所。だからこの町でサクライとサカザキを知らない人は殆どいないくらい有名だという。
だからサカザキはあんなに女と遊べるんだと理解した。一方サクライはと言うと、女とかには今はあまり興味がないらしく、神話や妖怪等といった伝説の物が好きなので女はそっちのけで色んな事を調べて趣味で研究しているとか。
逆にサカザキは伝説を信じない奴で、昔から伝えられて来たこの町の天使の伝説は迷信だと言っている。が、私が存在した事を知って少しは信じようという気持ちは芽生え始めた所だったみたい。
両手一杯にチップを貰い、カウンターの席に着いたサクライに私はそろりと質問を投げかけてみよう。
「なぁ、この町の伝説って一体なんなんだ?教えてくれ」
「ん?あぁ、いいよ。タクローさん、いつもの頂戴」
「了解」
サクライは出されたお酒を一口含み、喉をこくりと鳴らすと一息ついてからぽつりぽつりと伝説について語り出す。
「ずっとずっと昔、この町に傷付いた天使が舞い降りたんだ。その天使は空へ戻りたいと泣き続けていた所、哀れに思った町のみんなが彼女を天界へ帰そうと言い出した。天使も心から喜び、人間を好きになり、そしてある一人の男と恋に落ちてしまったんだ。その男というのが本当に最低な野郎でね、自分に惚れ込んだ天使を捕らえ、金を得る為に国の王に差し出すようないわゆるクズといった輩かな。
そんな悲劇があり、悲しんだ天使は治りかけていた傷が広がって遂には少しも飛べなくなってしまっていたんだって。
そんな弱り切った天使に構わず城の奴は彼女の大切な羽根を一枚一枚剥ぎ取りそれを売り物にして稼ぐだけ。
そして最後の一枚だけは残してやると言ってその羽根を彼女の手許に残し、用が済んだらすぐに捨て去ったんだよ。心配していた町の人々は彼女の美しかった翼がなくなってしまったのを見て一緒に悲しみ、人間に変わってしまった彼女と力を合わせて暮らそうと言ってくれたみたいなんだ。
しかし彼女は余程のショックで生きる気力さえも失っていたらしく、そしてその日の夜‥彼女は自分を裏切った男を呼び出し、丘の麓にある教会でソイツを殺して‥‥
彼女は最後、心を邪な心で支配されていき、更には人間から悪魔へと変わり果ててしまい、自分もそのままそこの教会で命を絶った。
そんな天使達を発見した町の人がみんなを呼ぼうとした時‥キラリと光る何かが彼女の胸元にあったのを見つけたんだって。それは純白な一点の穢れもない彼女の羽根だった。その羽根は大切に保管され、今でも教会に飾ってあるって話なんだ。
だけど誰も入れないから本当の事かどうか不明だけど‥」
「何故入れない?」
「気持ち悪くて誰も近付けないんだよ」
後ろから別の声が聞こえてくるかと思ったら、サカザキが嫌な笑みを向けながら私の隣へと座った。
「その教会ってのは事件が遭ったその日から式を挙げた男女が数日後、必ずその教会で死ぬようになったんだよね。しかもその死に方ってのがエグくてさ、男は見てられない程グチャグチャに殺されてるのに対して女は傷一つないんだよね。でも女の方は血が全て抜き取られていて、まるでヴァンパイアに血を吸われたかのように‥
ヤバいと思った王や町の人々はその教会に新しく鐘を造ったんだよ。それが“明日の鐘”。彼女が書き残していった手紙によると“飛べない翼を持った天使が私を救ってくれるまで成仏は出来ない”って書いてあったの。
さっきの歌詞にもあったでしょ?“飛べない翼を広げた時に明日への鐘が鳴り響く”って。そう、あの鳴らない鐘を鳴らせるのは堕天使や人間になってしまった天使なんかじゃダメ。普通の天使しか“明日の鐘”を鳴らす事は出来ない。
だからサクライはあの恐ろしい教会の鐘を鳴らしてその悪霊になった哀れな天使ちゃんと一緒にタカミザワを天界へ帰そうって考えじゃないの?だろ、サクライ?」
私を隔てた場所にいるサクライに顔を向け同意を求めるサカザキに対し、サクライは素直に「あぁ」と言って頷いた。
「“明日の鐘”を鳴らせるのはタカミザワだけだ。そしてあの教会に棲み憑いている哀れな天使を助けたいんだ」
「けっ。そんなの迷信だって」
真剣な表情のサクライと対照的なサカザキはあっさりとその伝説を一蹴してしまうではないか。
どちらが本当なのかは分からないけど、私は少なくともサクライを信じる方向にしてみせた。
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