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「うるせえぇッ!!」
バキャッとビンを叩き割るタクローさんの怒鳴り声が店内に響き、喧嘩をしていた二人の手も客達の野次も子供の気を逸らしていた私の動きが一瞬にしてピタリと止まった。
声の主がいる方向に顔を向ければ、鬼のような形相でサクライ達を睨み付けている。
「お前ら二人はここへ何しに来たんだ!?喧嘩する為に来るんだったら二度と店に入るんじゃねぇ!仕事をするならする。しないならとっとと帰れ!」
「 「 ご、ごめんなさい‥ 」 」
こっぴどく叱られた二人は不機嫌そうにこの後店の片付けをさせられていた。自分達のせいでしょうが‥。
客もそろそろと自分達の席に戻り、再び酒を煽り始める。
ぶちぶち文句を言っている二人に近付き、私は恐る恐る「大丈夫?」と問い掛けると、サクライが無理して作った笑顔で「平気へーき」と答えてくれたが目はあまり笑っていなかった。
サカザキの方にも顔を向けてみせるが、彼は私と目も合わせてくれずなようで思わず寂しい気持ちになり、しゅんとしてしまう私を見たサカザキは「なに?」と冷たく言い放つ。
「やめとけタカミザワ。そいつに何を言おうが構ってくれねぇよ」
「そうなのか?なら私はサカザキの機嫌を取り戻したいぞ」
「はい?」
サクライは私の発言に顔を歪ませ、飛び散ったグラスやビンの破片を集める手を止めていたし、タクローさんも興味を示したようにチラリと私たちの方へと視線を流す。
「なぁサカザキ。お前、見た目では考えられない程強いのだな!私は感動したぞ」
「‥‥。」
「サカザキ?」
「‥はぁ」
また腕を掴まれ、グイッと引き寄せられると折れた方の翼をガシッと握り締めるサカザキは冷たい表情で私の目を捉えた。
ズキンと痛みが体を駆け巡るのを確認するかのように彼は私の顎を掴み、今にもお互いの顔が触れ合いそうな位置まで持ってきた。
「アンタが天使だからってあんまり調子乗らないでくれる?ここは人間の世界。今、アンタは俺の女なの。だから余計な事はすんな」
「っ…」
最後の言葉は潜めた声で私だけに聞こえるくらいのトーンで、更にグッと掌に力を込めるサカザキに耐えていたが私は激痛で小さく悲鳴を上げてしまった。
「やめてよ!!」
「‥ん?」
瞑っていた目を開ければ、そこには先程の少年がサカザキに向かって私を助けようとしてくれていたではないか。
サカザキが余程怖いのか、少年は涙を溜めて刃向かってきているようだ。静かにしていた大人の客達も固唾を飲んで見守っているだけで、誰もこの少年を助けようとはしないのだな‥。
そんなにサカザキって偉い奴なのだろうか。
「天使さん痛がってるじゃん‥!離してあげてよ、サカザキの兄ちゃん‥」
「‥‥。」
少年の勇気と説得に負けたのか、サカザキは翼を握っていた手をゆっくりと手放してくれたのは有難い。
しかし、握り締められた箇所がズキンズキンと痛みと共に脈を打つ感覚が体を蝕めていく。だが、今まで酷い扱いをしていたのにこの男は私の傷付いた翼を優しく撫で回すのだ。
するとさっきまでの痛みが徐々に引いていき、私は翼を触っているサカザキの手を取ると「なんで?」と問う。
「‥さぁな」
怪しく笑うサカザキは私の羽根を一枚引きちぎり、それにフウッと息を吹きかければ白かった羽根が瞬く間に黒へと染まっていった。
引きちぎられた時の痛みは一瞬だったのでそれはそれで良かったのだが、どうして羽根が黒に変わったのかが分からなかった。サクライ達も驚きを隠せない様子で、サカザキを見つめる。
「お前‥何をした?」
「俺は何もしてない。タカミザワの体がこの世界に対応出来なくなっているんじゃねーの?その証拠にほら、羽根が穢れてしまった。元々下界に堕ちた天使はそのまま妖怪になるか人間になるかどちらかなんだろ?だがタカミザワは天使のまま。なんでこのままかは不明だけど‥タカミザワが人間界に居続けるとなると……悪魔か人間のどちらかになって天界へ帰れなくなってしまうんじゃね?」
「‥!」
「だったら早く“明日の鐘”を鳴らさないと!タカミザワが帰れないなんて絶対ダメだ!」
「バカ言え。“明日の鐘”は誰も鳴らせないじゃないか。そしてあの教会には誰も近付けないのなんて知ってるだろ?第一、あんなの迷信にしか過ぎない」
悔しそうに奥歯を噛み締めるサクライをよそにサカザキは椅子に置いてあった物をサクライに渡せば彼を連れて店の小さな舞台に上っていく。
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