Rtf11
まだまだ暫く歩き、ウロウロしていると坂崎がピクッと身体を示す仕草が現れた。
その坂崎の反応を見逃しそうになったが、彼の雰囲気が瞬く間に変化していった事もあり、俺だけが気付く事が出来たっぽい。あれだけ毎日過ごしていたんだ。普段反応しない坂崎がこんな風になるなんてそうはなかった為、分かるようになってきてしまったらしい。
反応してから少しの間は歩いていたが、次第に歩く速度が落ちていく。‥まさか。
「‥みんな隠れろ」
「奴らが来るのか?」
「多分」
坂崎の言う通り、俺たちはそれぞれ曲がり角の辺りで数人に分かれて息を殺しながら潜んでいく。一つの物音すら立てないよう、緊張感が走るが‥どうする?相手が無線か何かで俺たちの居場所を知らされていたら、全員ここでお陀仏かもしれない。
ドク、ドクッ‥と嫌な胸騒ぎが起こり始めた。
ヤバい。物凄く喉が渇いてきた。頭がクラクラしそうだ‥
ジッと待機していると、やがて俺たちが向かっていた方向からカツカツと足音が聞こえてくるではないか。その足音で、みんなの顔が一気に強張っていったのが窺えた。
恐れるな‥。ここで怯むと殺されるぞ?
隣に居る坂崎に合図を送ると、彼は別の場所でも待機している他のみんなにコクッと小さく頷いてみせた。
一瞬が勝負だ‥。
カツ、コツ‥と次第に大きくなる足音。さっき俺たちが殺してしまった奴らと同じ状況の中、ふと脳裏に浮かんできてしまった真っ赤な死体。
バカやろ‥っ、こんな時に思い出してるんじゃねぇよ。
だが、自分もああなってしまうのかも知れないという恐怖がのし掛かってくる事実。ダメだ、考えるな。こんな下らない事に頭を乗っ取られるなら、今この状況に集中しろ!
‥‥今だっ。
「いけぇええええぇえ!!」
俺の合図で、パッと始めに物陰から出て行ったのは、銃を持っている三人だった。そしてその後ろから、ナイフを持っている者たちが一斉に続いていく。
突然大勢の人数が押し寄せて行った為か、相手の黒スーツ野郎は一瞬の隙を俺たちに見せてしまっていた。
そこを付け狙うかのように、銃部隊が一発ずつ弾を放っていくと、まさかの二発が黒スーツ野郎の肩と太ももに掠めていったじゃないか。それに喜んでいた銃部隊。
「よしっ、一気に攻めろ!!」
ガクッと膝をついてしまった黒スーツに向かうのはナイフ部隊。だけどこのままじゃみんな黒スーツを殺しそうな勢いだなオイ‥!
アイテムを何も持っていない俺は、ナイフ部隊の後ろを追いかけながら「殺すな!!」と叫んでみせるも、そんな言葉を無視してみんなは一斉に黒スーツ野郎を襲いかかっていった。
待てまて、無駄な殺生はするんじゃねぇよ!
「やめろッ!!」
‥そうは言ってみたものの、次の瞬間には再びあの時と同じ光景が目の前に広がるだけだった。
喚く苦しむ絶叫と、肉の引き裂かれるような不快感な音。流れ出すのは赤い液体のみ。
生臭さがそこら中に広がっていった。
「‥‥っ」
鼻を押さえて顔を歪ませてみるが、吐き気が押し寄せてくる。こんな弱くっちゃこれから先やっていけねーぞ俺。踏ん張れ。
グッ‥と押し寄せてきそうなものを飲み込み、動かなくなった黒スーツ野郎へと目を落とせば見ていられないくらい無残な姿があるだけ。‥やっぱり人が死ぬのは嫌だ。
ハァ、ハァ‥と息を途切らせては汗だくになっていたナイフを持っていたみんなは、俺に視線を流すと「なんでさっきあんな事言った?」と問い詰められてしまった。
「‥無駄に人が死ぬのは‥見たくないから」
「だけど殺さなきゃこっちが殺られてたんだぜ!?」
「見ろよコイツ、マシンガンなんか持ってやがった。コレで俺らを皆殺しにするつもりだったんだろ」
「アンタは黒スーツが死ぬのは嫌だろうが、この黒スーツたちは俺たちを殺すつもりなんだぜ?そんな奴らに慈悲なんていらねぇからな」
「悪いが次に出会った黒スーツも容赦なく殺していく。‥そうじゃなきゃ、ここに居る全員が死ぬかもしれないんだ。アンタ、なんの為に俺たちを先導してるんだよっ?」
「‥‥。」
言い返す言葉も見つからない。
彼らの意見は正しい。確かに黒スーツたちは俺らを容赦なく殺していくだろう。まるで虫ケラを退治するかの如く、ただのお遊び感覚にしか過ぎないものでもあるんだろうから。
‥だけど、見たくない。
ブルッと震えた身体が今の自分の弱さか。
立ち止まっている俺に、後ろで見ていた坂崎が俺の横を通り過ぎ、更には黒スーツが倒れている場所まで歩いていく。そして彼は、落ちていた使われる事のなかったマシンガンを拾い上げたかと思えば、それを俺へと手渡してくる。
「‥え?」
「お前の言いたい事は分かった。だから次はお前が好きなだけ撃って、相手が死なない程度にやればいい」
「無茶言うな‥!こんなもん使った事ないんだぞ!?」
「だったら俺がやる。お前は俺たちのやり方に口出しするな。‥みんなも必死なんだ。高見沢みたいに生半可な気持ちでやってる訳じゃないんだぞ」
「‥‥っ」
坂崎の一言が心にガツンと突き刺さってきた。
‥俺は覚悟も出来ないままみんなを先導しようとしていた。こんな俺に命令する資格があるか?
フゥと溜め息にも似たような深い息を吐いた坂崎はというと、マシンガンを慣れた手付きで構えながら「見損なうな」と呟いてきた。しかし、反論出来る余地もない。
「いいか、みんな。一旦ここで騒いでしまったから、他の黒スーツたちが集まってくる可能性が高い。出来るだけ早くここから離れよう。それと、気配を感じたら俺に知らせてくれ」
俺に代わり、坂崎がみんなに命令を下してしまっていた。
‥何も言いだす勇気が今の俺には生まれて来なかった。
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