Rtf13
「‥‥行け、行くんだ自分っ」
勇気を振り絞るのにどれだけの時間がかかったか。
もう逃げてくる者たちさえ居なくなってきてしまった状況の中、一人駆け出して行った坂崎の安否が心配なのも事実。アイツが今ここで死なれたりしたら、俺たちにとってそれは最大の痛手だ。
こんな事をしている内にも鳴り響いてくる銃声音が一つ減った気がした。その途端にゾクッと背筋が凍ったものの、その唐突な恐怖心と焦る気持ちがやっと俺の身体を動かしてくれる。
「坂崎ッ!!」
彼の名前を呼びながら駆け出すと、俺の後ろの方で待機しては銃やナイフを構えたりしていたみんなが「あ、おい‥!」と俺を止めに入った。しかし、そんなものは聞こえないふりをして坂崎が居るであろう場所へと向かうのみ。
今ここで止められたりすると、また迷ってしまう。だから何も言わないでくれ。
ちょっとの間走っていると、次第に大きくなる銃声音。もうすぐそこで銃をぶっ放してるんだと分かる音。
「うわっ‥と!?」
そして飛んでくる銃弾。
シャレにならない事なんて分かってる。
ここから先は慎重すぎる体勢で進んでいくと、やがてそこの十字路みたいな曲がり角では激しい戦いが繰り広げられていた。
俺はそこまで辿り着くつもりが今の所ない‥が、坂崎がたった一人だけで黒スーツと銃撃戦をしていた。だけど相手は二人いるって誰かが言ってたような‥。影からチラ見してみるが、明らかに坂崎は一人の相手としか戦っていなかった。
まさかコイツ‥
「さ、坂崎ッ!!」
「なっ‥!?」
背中から突然俺の声が聞こえたせいなのか、一瞬油断してしまっていた坂崎がパッとこちらを振り返ってしまったではないか。やべ、こんな時に呼ぶんじゃなかった‥!
その隙を狙うかのように、向こう側に居る黒スーツ野郎が更に遠慮なしで撃ちまくってくる。
バッカ野郎、あぶねーじゃねーか!
それでもってチュインッと目の前を通り過ぎる銃弾。‥‥ちょっと待て、話し合おう。
ドッ‥ドッ‥、と大袈裟すぎるような心臓の鳴り方は異常。だけれども、俺はすぐそこで戦っている坂崎の方へとどうやって近付けるかを考えていた。足手まといにしかならないかもしれないが‥
「バカ野郎!高見沢お前、なんにも武器持ってない癖にこんな場所来るな!」
隙を作らせてしまっていた坂崎ではあったが、自分のテンポを取り戻しながら再び相手との撃ち合いが始まる。
「お前、もしかしてまた一人殺したのか!?」
「あぁそうだよ。それがどうした!」
「だったら‥!ソイツが持っていた銃はどこかに落ちてるのか!?」
「向こう側に多分落ちてるんじゃないかっ?」
そう言われ、物影で潜んでいた所から顔を少しだけ覗かせてみると、坂崎が相手の黒スーツと戦ってる姿が映し出される。そして、坂崎が殺したであろうもう一人の黒スーツが持っていた銃らしき物があっち側に落ちているじゃねぇか。
‥取りに行ける訳がない。
諦めかけていた俺に、さっき逃げ出してきた奴らの数人がこちらに近寄りつつ、「どうなってるんだ!?」と後ろから声をあげてくる。
それに気付いた俺は、武器を持っているであろう者に「ナイフでも銃でもいいから貸してくれ!」と頼み込むと、丁度ナイフを持っていた人がいた為、それをアッサリ貸して貰う事になった。
俺との距離が多少あったので、俺の方からみんなの元へ駆け付けると「今はどういう状況なんだよ?」と聞かれるのは当たり前。それに対し「坂崎が黒スーツの一人を殺した。残りはあと一人」とだけ返しておき、俺はそのままナイフを受け取ったら元の位置へと戻っていく。
「坂崎‥!俺もそっちへ行くから待ってろ!」
「はっ‥?やめろ高見沢!こんな中‥くっ、!?」
「坂崎ッ!」
ガチッという物凄く変な音がしたから何だと思えば、坂崎が持っていたマシンガンが次の瞬間弾を出さなくなってしまっていた。さっきの音は、相手の弾が坂崎のマシンガンへと直撃してしまったものだろう。
カチ、カチッと虚しく鳴るだけで銃弾を放たなくなったマシンガンを見限り、速攻捨てた坂崎は俺に向かって首を横に振る仕草をつけた。
来るなって意味か?
だけどこのままじゃ坂崎が一方的にやられちまうだけだ!
手にしたナイフを出来る限り強く握り締める。これだけは手放すな。自分の命を捨てたくないなら、やるっきゃねぇ‥!
すうっと一度深呼吸を終えてみる。
‥よしッ、行くぞ!!
「坂崎、こっちに来いッ!!」
「ばっ‥!」
物陰から潜めていた体を解放し、坂崎が居る方へと一気に走り抜けて行けば、目をまん丸にしながら驚きの表情を見せている坂崎。そして突如走って来た俺の存在に一瞬怯んだ相手の手が止まった。
よし、今だ‥!
「何やってるんだ、そんなナイフ如きで‥!!」
飛び出して来た俺が相手に向かってナイフを思い切り投げかけた瞬間、落ち着きを取り戻したのであろう黒スーツ野郎がまた撃ち始めてきてしまった。
それを見ていた坂崎が、慌てて俺の方へと駆け出してみせた時だった。
「えっ‥」
飛んでくる弾から俺を庇おうとした坂崎の肩口から飛び散る真っ赤な液体が溢れていたのに気付いたのは、ようやく俺の所へと辿り着いた坂崎が一緒になって物陰へと倒れ込んだ時。
ドタッと背中を打ち付け、正面からは坂崎が覆い被さってくるせいで痛くて苦しくもあったが、俺のすぐ目の前に見えるのは彼から流れてくる血。ジワ‥と服の色を次第に赤へと染めていく所を目にしてしまい、自分の中から沸き起こる罪悪感が蝕んでくる。
「いっ‥てぇ‥!」
「坂崎‥、しっかりしろ坂崎!」
「うるさい‥なぁ。こんなもん、かすり傷だ」
「どこがだよ!?こんなにも血が‥!」
「それより‥誰か早く、アイツにトドメを‥。高見沢が投げたナイフが‥、っ!命中してる筈だから‥」
坂崎が言う通り、銃声音がピタリとやんでいる。それを確かめるべく、そこに居たみんなが覚悟を決めて走り出した数秒後に聞こえた苦しむ声。
‥‥どうやらこれで三人目を殺し終えたらしい。
「ハァ‥ハァ、‥やったか‥」
「‥みたいだな。動けるか、坂崎?」
「なんとか‥」
こうは言ってるものの、坂崎を含め、何名かの負傷者が出てしまっているのも現実。
「‥‥ちょっと休もうか」
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