Roar to freedom(自由への咆哮) - 23/28

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ガクンと落ちてしまった両膝と同時に、今の今まで全部を見ていた周りのみんなも俺と同様、爆発しそうなくらいの歓喜の声がこの広い広い空間へとこだましていった。

 

良かった‥‥本当に良かった‥

流れる涙が止められない。

 

そして奴が「手枷も外してやれ」と命令してくると、その数秒後にはガチャンッと手許が鳴ったのを聞き入れる。‥と、次の瞬間には今まで俺たちを拘束していた手枷が全員分一斉に外れて、それらが地面にゴトンと音を立てて落ちていった。

‥‥長かった。

 

歪んだ視界から覗き見えるのは、黒くて冷たい鉄の塊がなくなってくれた自分の手首。

ゆっくりと右手で左の手首をさすってみる。

‥温かい。

 

長い間締め付けていたこの手首の手枷を見下ろし、心の中で「ざまぁみろ」と投げかけるだけ。よくもこれだけ俺を苦しめてくれたなぁ‥

 

「はぁ‥っ」

盛大な幸せな溜め息を吐き終えると、俺はようやく立ち上がる力が沸き起こってきたので、フラフラしながらもやっと立ってみせる。

俺の事なんて見向きもしないアイツを見計らい、俺はみんなに向かって「早くここから出よう!」と声を掛けた途端、それを待ち侘びていたかのように、全員が一斉に扉に向かって走り出した。

奴の事を避けていくように、もうみんなはこんな男とは関わりたくはないらしい。ま、コイツの恐ろしさを知ってるから無闇にこれ以上手出し出来ないんだろう。個人情報も握られてるし。

 

白い光が差し込む方へと消えていくみんなの後を追いかけようとしたが、何故か坂崎だけが動こうとしないので、不審に思いつつも「行かないのか‥?」と質問すると、彼は「桜井と最後に話しをしてから行く」と告げた。

 

「そ、そうか‥!なら俺は上の出口の所でお前を待ってるから‥!」

「‥‥あぁ」

 

それだけを言い残し、俺は一直線に向かって白い光の方へと駆け出して行った。

 

 

 

「‥‥なんで解放した?」

俺と一定の距離を保っている坂崎が、そんな質問を投げかけてきた。

一度だけ瞼を閉じて、そっと再び開けば坂崎を見据える。

 

「もうあんな左手になんか用はねぇ‥。アイツなら俺を殺せるんじゃないかと期待してたんだがな」

「いいのか?高見沢は俺たちの過去を知っているんだぞ。口外されたらお前は終わりだ」

「‥ふん。あんなヘタレな男がそんな事口外する筈ねぇだろ」

「随分とアイツを理解してるじゃないか」

 

そんな筈ねぇだろうが。

しかし、あの左手が誰にも口外しないと‥確信出来たのは自分でも少し驚いてはいるがな。まさかあんなクズ野郎の事を信じられるとは‥

だが惜しい人材をなくしたのも事実。左手を手放してしまったからには次の相手を見つけ出さなければ。

 

こんな俺を殺してくれるような輩が現れてくれる日まで。

 

「‥‥俺をこんな風にさせたテメェも大概だ。もう、あの頃の俺には戻れない」

「優しさを纏った桜井に、か」

「一度ここまで壊れた人格だ。‥優しさなんてとっくの昔に捨てた。そして、こんな醜い俺が生まれた。お前のせいでよぉ」

「‥悪いと思ってる」

「なら俺の目の前で今すぐ死んでくれ。これ以上俺が暴走する前に消えてくれ。もしくは俺を殺せる奴を見つけて来い」

「高見沢ならお前を殺せた筈なんじゃ?」

「アイツはムリだ。‥正真正銘、ただのバカだからな。あの光を失わない瞳に何をしたって俺は勝てない」

「そうか?」

 

首を傾げてみせる坂崎の仕草が妙に腹がたつ。俺がそう言ってるんだからそうなんだよ。なんで一々口答えするんだお前は。

虚ろで冷え切った両目をしている坂崎と、そう変わりない目をしている俺と二人だけの空間。

 

なんか‥久々だな、お前とこうしてサシで話し合うのも。

ゆったりとした重たい空気が流れている。

‥‥もう、限界が近いのも悟っていたのかな。

 

「坂崎。俺はお前を許しはしない。‥絶対に」

「知ってるさ。許して貰おうだなんて思っていない」

「お前がここから出られたとしても、俺はテメェに何かしらの復讐を続けていく。‥これで自由になったと思うなよ」

「そう?」

「あ‥?」

 

こっちに近付いて来た坂崎は、俺のすぐ目の前まで躊躇なく歩いてくる。その距離はあと二歩といった所。

なんだ‥?と疑問に思ったのも束の間、坂崎が「本当に悪かった」なんて小声で呟きながら、俺の胸へとフワリと体を預けてみせた。

 

「さか‥ざ、‥‥?」

「‥‥。もうお前も楽になれよ」

「‥おめぇ‥、っ‥」

 

腹に突き刺さる鋭い痛みが一瞬にして全身へと行き渡る。

 

「‥っ、ハァっ‥!?」

「殺して欲しいんだろ。こんな風になっちまったお前自身を?」

「ふざ‥けんな‥ッ。誰が、テメェなんかに‥!」

「あれ、そうだったの?てっきり殺してくれるなら誰でもいいかと思ってたよ」

「‥くっ、‥いッ‥」

「痛い?そりゃそうか。お腹から血が一杯滲み出てるんだもんね。このナイフ抜いたらもっと血が溢れ出てくるよ」

「テメェ‥っ!」

 

ズブ‥、と更に奥へと突き刺さってくる鋭い痛み。

この痛みから解放されようと、坂崎が握っているナイフを奪い取ろうとしてみせるも、自分から出てくる血がぬめっていて中々掴めないのが現実。

じわっと顔全体から出てくる汗に、上手く紡げない呼吸。やべぇ‥、痛いな‥コレ。

 

俺は‥一番憎い相手に、こんな形で終わらせられるのかよ‥オイ。こんなんでいいのか‥?

 

ようやくズルッと抜けていったお腹にあった異物が、坂崎の手から離れて地面にカランと冷たい音色を奏でて落ちていった。だけど、俺の意識の方も簡単に落ちていきそうだな、こりゃ。

 

「ハァッ‥!、ハァ‥」

「‥‥、」

体を支える力を見事に失い、俺はそのままドシャリと尻餅をついた状態で、刺された部分を押さえては前屈みになってしまった。お陰で坂崎の表情すらも読み取れないでいた。

だが、上から降ってくる坂崎のどこか嬉しそうな声色が耳の奥へとこびり付く。

 

「なぁ桜井‥。俺だって五年間こんな場所に閉じ込められて、散々苦しめられて、殺されそうになってきたんだよ?‥ただで許そうだなんて思わないで」

「‥‥っ」

「痛くて喋る事も出来なくなったか。‥ざまぁねぇな。奴隷だった俺に殺される気分、どうだ、..ご主人様?」

「‥‥。」

 

すると後ろから「おい、坂崎っ!」というアイツの声が聞こえてきた。

その足音は小走り気味で、坂崎を迎えに来たような風か。

 

「お前いつまで経っても来ないし遅いから戻ってくるハメになったじゃないか」

「あぁ‥悪い。ちょっと取り込み中だったものでね」

「取り込み中‥って‥‥、」

 

そして、やっと俺たちの前までやって来た左手は、こんな無様な姿になった俺を見て一瞬は驚いてはいたものの、「行くぞ坂崎‥!」と言いながら彼の手を掴んだ。

 

「もうコイツとは関わるな!」

「‥そのつもり」

急ぎ足でここから離れて行こうとしていた左手だったが、ピタッと足を止めて俺に一言こう言い放ってきた。

 

「‥こんな事になって当然の報いだからな」

 

そう言い放った後、俺の一番可愛がっていた二人は外の世界へと戻っていってしまった。

‥当然の報い、か。

 

 

 

「‥社長。生きておられますか?」

「‥‥。」

 

だから危険だと仰ったのに。

社長を迎えに来たはいいけれど、この人は既に一人で立ち上がれない状態になっていた。腰を落とし、言葉もままらなくなっていて‥右手で押さえているそこの部分からは、ダラダラと流れてくるだけの真紅。

見れば社長の手は肌色が見えないくらい、赤で塗りたくられたかのような程だった。痛々しくて‥美しくて、汚くて。

 

息はしているものの、ゴフッと咳を込むと同時に口から流れてくる赤い液体。‥‥可哀想に。

私は社長の前で片膝をつき、彼の方へと手を置いてみせた。

 

「貴方‥こんな所で死ぬんですか?」

「‥‥、」

「格好悪いにも程がある。‥しかし社長が死を望んでいたなんて初耳ですよ。ビックリしました」

「‥‥。」

「一番嫌いな奴隷に殺されるのですか?惨めすぎやしませんか?それに何ですか、あのダサい姿。奴隷共に弱さを見せてどうしたかったのです?なぜ全員解放させたのです?私は疑問だらけですよ。‥あんな貴方の姿、見たくはなかった」

「‥‥っ」

「言っておきますが社長‥。貴方が死を望んでいようが私には関係ありません。貴方はこの会社を支えていかなきゃならない人物なのですよ?まだまだこれからも大きくして貰わないと困るのです」

「‥‥。」

 

俯けになっていた社長の頭をグイと無理やりあげさせ、私と社長の目を通わせてみせた。

こんな私の突然の行為に少しばかり驚いているように見えた社長ではあったが、今は痛みでそれどころではない‥か。

しかし気にせずに言葉を吐き出していく。

 

「いいですか社長っ!貴方はこんな所で終わる人間ではない筈です!‥貴方にはいつまでも冷酷な人でいて貰わないと困るんですよ。だから貴方を今ここで死なせる訳にはいきません。生きてもらいます。強制的に」

「‥‥た、‥なせ‥‥」

「なんですか?」

 

口許がそれを否定していたかのような気もした。

 

しかし、私は社長が先ほど言っていた通り、貴方を救う為の救助を既に呼んでしまっていますから。

バタバタと扉から入って来る救急隊が、動けなくなっている社長に向かって「しっかりして下さい!」と口々に声をかけられながら、そのまま担架に乗せられてしまっていた。

そして社長は、救急隊によってここから運ばれていったのであった。まさにあっという間、って所か。

 

「いいですか社長。‥貴方はこの会社に必要な人間なんです」

 

死ぬだなんて許しませんよ。

絶対に。

 

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