秘密警察-Secret Police- - 2/39

秘密警察ーSecret Policeー

いかにも高級そうなホテルが佇む向かい側にそびえ立つビルの屋上には何やら怪しい影が二つ蠢いている。

一つの影は双眼鏡を使って、向かい側のホテルのとある一室を覗き見‥否、見張っているようだ。

「あ、来たっ!」

「予定時間よりちょっと遅れたな」

「でも坂崎のことだからすーぐに終わらせるんだろ、どーーーせ」

「‥自分だけいい思いしやがって」

ブツブツ文句を垂れている二人。

双眼鏡を覗いており、この長くて鬱陶しくて重たそうな巻き髪をしている方が高見沢。

一方、高見沢の隣で腕組みをしながら目には真っ黒なサングラスをかけているのが桜井。

この二人が見張っているその一室に居る男‥‥



「わあぁ!こんな素敵なホテル予約してくれてたの幸ちゃんっ?」

「あぁ、お前が喜ぶだろうと思ってさ」

「ちょっと、ここの部屋って絶っ対に高いでしょ?ムリなんてしなくてもいいのに」

「いいんだ、俺が勝手にやったことだし。お前は何も気にせずゆっくりしていってくれ」

「‥うん。じゃあ、お言葉に甘えて今回はゆっくりしようかな!」

目の前にいる彼女は俺が予約しておいたこのホテルを相当気に入ってくれたそうだ。

子供みたいに、いきなりベッドへとダイブする彼女。「ふっかふか~」なんて言いながらはしゃいではテンションが上がってしまっている。

テレビが大きいとか、バスルームを覗いては広いだとか、ホントに子供みたいだ。あちこち部屋の中をウロウロしているし。

「ねぇ幸ちゃん!あとで一緒にお風呂入らない?」

「ん?あぁ、いいぜ。‥でもよ、一回こっちに来いよ」

「うんっ!」

素直に俺の元までやって来る彼女の手首をグイといきなり掴み、そのまま壁へ背中を押し付ける形にしてみせた。いわゆる壁ドンとかいうやつだ。

そんな風にいきなり壁ドンをされた彼女は俺を見上げては顔を赤くしながらも俺の名前を弱々しく呟く。その呟きに対して「お前が早く欲しい‥」と囁いてみせれば、こくんと頷く仕草。

小さな了承を貰い、俺は今にも我慢していましたと言わんばかりのキスを相手にせがみ、彼女の唇を堪能する。舌をねじ込み、深い深い口付けに変わった頃には彼女も身体を若干うねらせては、興奮を覚えている様子。

そんな彼女の腰へと手を回し、俺はそのまま‥‥

‥‥あった。コレだ。

探していたメモリーを見事くすねたので、もうこの女は用済みだ。

向かい側のビルからこの部屋を覗いてるであろう、仲間の二人に合図を送る為に俺は彼女を壁から離し、ベッドへと押し付けてみせる。この先を行うつもりは一切なかったが、それなりのフリをしてやらないと怪しまれちまうからな。

服の中に艶かしい手つきでお腹から胸‥辺りまで這わせていった時だった。

いきなり鳴り出す電話の着信。

「あ、悪りぃ‥。上司からだ」

「えぇー!もう、せっかくこれからだってのに!‥無視できないの?」

「んなことしたら俺のクビがとぶ。勘弁してくれ」

「もうー‥」

拗ねている彼女をほっとき、俺は電話に出た‥‥はいいが‥

「お疲れ様です、坂崎です‥」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

コイツ‥

「‥‥あぁ、その件でしたら明日にでも取りかかろうと思っていたのですが」

「おめーばっかりいつもいい思いしやがって許さん!」

仕事だっつーの。

「‥そうですか。では今すぐそちらに向かいます」

「戻ってくんな!」

スマホを握っている手からギリッ‥ミシッという嫌な音を立て始めたので、俺はすぐさま通話を終了してスマホをポケットにしまい込む。

「ごめん、戻る」

「ウソぉ!」

「ウソじゃない。すぐ戻ってくるから。多分、一時間か二時間くらいで戻れると思う」

「あり得ない、もうっ!」

「悪かったって。ほら、いい子だからそんなに怒らないの。好きなことしてていいからさ」

「‥すぐ帰ってくる?約束だよ?」

「もちろん」

彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた後、俺はこの部屋から出て行くだけ。

パタンと閉まったドアの音を合図に、目の色をいつものドス黒い色へと変えてみせた。

‥もう二度と戻ってくるはずねーだろバーカ。

すぐさまこのホテルから出て暫く歩いていると、どこからともなくやってきた二つの影。それが俺の両隣へと立った。

「俺のジャケットとマスク」

「おらよ」

桜井から預けておいたスーツのジャケットを羽織り、そしていつものマスクを着けてみせる。

「水」

「はいよー」

高見沢からは水の入ったペットボトルを受け取り、そのフタを開けては水を口の中へと流し込む。喉へ通すわけじゃなく、口の中をゆすぐ為。

ゆすぎ終わった口内に溜まっている水は、溝へ向かってプッと吐き出す。その繰り返しを五回くらいしていると、高見沢が「おめー、ホント贅沢すぎ」とジト目で俺を見てくる。

「クソっ‥、舌なんか入れるんじゃなかった‥気持ち悪くなる」

そう呟くと、桜井がベーっと舌を出して嫌な顔で俺を見下ろす。

すると左に立ってる高見沢が俺の顔の前で、預けておいた懐中時計をブランとぶら下げてきた。

「坂崎、今回は滞在時間七分だったな。最短の二分はまた超えられんかったぜ」

「ちくしょう!‥しかしあん時は神がかってたからな。俺もあんなに早く終わると思ってなかっただけだから」

「だろうね」

目の前でユラユラ揺れている懐中時計を手に取ると、それを懐へとしまい込んだ。

「つーか高見沢、テメェ電話越しだからってチョーシのってんじゃねーぞ!」

「ち、違うよ!桜井が言えって‥!」

「ハァ!?俺のせいにすんのかよ!?」

「おめーら二人ともグルみたいなもんだろ!」

ドガッ!!と、二人に肘を喰らわせれば、高見沢はうずくまり、桜井は変な声を出しては泣くのを我慢している。

サッサと車に戻るぞバカども。

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