SP2
車に戻り、桜井が運転席へと座り、高見沢が助手席。俺は後部座席のドアを開けては勢いよくバンッと閉める。あぁクソっ、なんかイラつく。
そのイラつく原因とは、俺に纏わりついているこの甘ったるい匂いだろう。さっきの女がつけていた趣味の悪い香水が俺の体にまで移っちまってる。だからさっきからずっとイライラしっ放しなんだよ。
マスクをズラし、右腕を鼻の前まで持ち上げてはくんくん嗅いでみると、やはり染み付いてしまっている。最悪だ。
助手席に座っている高見沢の座席をドンと軽く足蹴にし、「お前なんかこの匂い消すやつ持ってねーか?」と尋ねてみると、彼は眉を寄せては「うーん‥」と唸りながら、グローブボックスの中からいくつかのスプレーを出してくれた。
「ほらコレは?エイトフォーの男もんバージョン!‥制汗スプレーだけど」
「‥まぁいいや。貸してくれ」
はいよ、と手渡されたスプレーを体中にシューーッと吹きかけていると、運転している桜井が全ての窓を全開にしてきやがった。お陰で髪がボサボサになり始めてる。
この間は確かシーブリーズとかいう女子高生が使いそうな制汗スプレー持ってて桜井に、キモいわ!とか言われてたっけな。
「おわっ!いきなり窓開けないでよ!髪がヤベェことになるじゃん!」
「お前は髪を一回切れ!」
「やだよ!ここまで伸ばしたのに!」
「鬱陶しいんだよお前の髪!なんで一々縛るのに俺と坂崎が手伝わなきゃならんのだ!?」
「だって二人がやってくれるんだもん!!お前より坂崎のが上手いけど!!」
「俺だってうめーだろうが!」
まーた始まった。いっっっつもコレだからな。
後ろから俺がハアァァ‥と盛大なため息をついてみせれば、二人もピタッと口喧嘩するのをやめる。最初はこの俺のため息すら気付かなくて、よく殴られていたから俺の下でそれなりに学んでる方なんじゃないか?
威圧感たっぷりで脚組み腕組みをしながら前の席を下らなさそうに二人の様子を眺めていると、高見沢が恐る恐る「な、なんか曲かける‥?」と尋ねてくるので、「マイケルかけてくれ」と答えてみせた。
「マイケルね」
「スムーズクリミナルを最初にかけてくれ」
「う、うん」
その数秒後には、マイケル・ジャクソンの有名な曲でもある「Smooth Criminal」が流れ出す。あぁ、曲名を言われてもピンとこないよな。この曲は、かの有名な斜め四十五度ダンスのアレさ。ま、気になったら自分で聴いてみてくれ。絶対誰しも聴いたことあるから。
流れ出した曲に合わせてブラブラさせている足で小刻みにリズムを取り、この曲を口ずさむ。あー‥マイケルは格好いい。
「つか坂崎さ、いっつも俺らにはこういう役目くれないよな」
そうボソッと嫌味を言ってくるのは桜井。
「そーだよ、女相手になると絶対に坂崎が仕事奪うもん!しかも毎回毎回いい思いしやがって!」
後ろをクルッと振り向き、ウザそうなその目付きで文句を垂れるのは高見沢。
聞いて呆れるわ。
「あのなぁ‥俺だって心底どーーでもいい女を相手にするのは嫌に決まってんだろ」
「ウソつけ」
「ウソじゃねーよ。つーかお前らじゃああいう女たちを相手にするのは絶っ対にムリだ。第一お前らだとあのまま流されて最後までヤるだけだろ」
「んなことするもんか!」
「そーだそーだ!毎度毎度キスだけで終わって、その先までいったことのない童貞のお前なんかが偉そうに!」
「おい高見沢、もっぺん言ってみろゴラァ。ぶっ殺すぞ」
「す、すいません‥!冗談です、坂崎様は女たちを魅了しまくる素敵な男性ですっ‥!」
「許さん。後でかかと落としな」
「やだああぁあぁあ!!」
隣で運転していた桜井は「ざまぁみろ~」とムカつくような表情で高見沢を物凄くバカにしている。それに腹が立った高見沢が桜井の頭をポカンと殴ったりと‥コイツらガキかよ。
言っとくが童貞なんかじゃねーからな。からかう奴がいたらマジで殺すかブチ込むから覚悟しとけよ。
こんな騒がしい車内のまま、気が付けば俺たちのいつもの居場所まで帰ってくる。
車から降りて、このバカでかい建物の中へと入っていけば目指すは俺たちの所属しているところ。つまりは秘密警察の中でも俺たちはトップレベルなので、俺はともかく桜井と高見沢もあんなんだが一応俺と同じ精鋭部隊だ。
そんな機密組織の中でも精鋭部隊の人しか入れない、とある部屋。この部屋に入る前にはセキュリティーチェックがある為、ICを埋め込んでおいた腕時計をかざすと扉は開き、ロックも解除される。
躊躇することなくどんどんと奥へと進めば、もう一度だけセキュリティーチェックがある。これを通り抜ければそこには‥‥
「ただいま戻りましたー」
「あ、お帰りなさい!」
まず俺たちを出迎えてくれたのは棚瀬。
暗い室内で目の前にある何十ものモニターを監視しては、パソコンを何台も所有して毎日朝から晩までカタカタとキーボードを叩いてる。コイツは謂わば頭脳派って奴だ。
「あれ、ボスは?」と桜井が棚瀬に尋ねるも、彼は「一時間くらい前に出てっちゃいましたよ」と返答。んだよ、せっかくいいモンゲットしてきてやったのによぉ。
なんだかやる気をなくした俺は、端に設置されてあるソファーにドカッと座り込んで、桜井もその隣へと腰を下ろす。しかし高見沢は、棚瀬が食べていたチップスターを貰っては食っていた。
「それなんのジュース?」
「バニラシェーキ」
「いいなぁ!俺も飲みたい!」
「なら買ってこればいいじゃないっすか。俺はアンタの分なんて買いませんからね」
「ケチ」
「ならチップスター返して下さい」
掌を高見沢の方へ向けた棚瀬に対し、高見沢は慌てて貰ったチップスターを口の中に全部放り込んでは急いで食べ終えたようだ。
そんな高見沢の様子を下らなさそうに見ている棚瀬に対し、高見沢は「もうないもん!」などと相変わらずガキみたいなことをしている。棚瀬も「はいはい」とあしらっては仕事の邪魔をすんなとでも言いたげな表情でいるが‥‥
「あのさ、ずっと気になってたんだけどお前たち二人誰?」
「えっ?あ、ひゃ‥!」
「うっ、」
左隣に座っているのはもちろん桜井だが、右隣には見慣れない若い男が二人さっきからガッチガチになりながら座っている。声も出せないくらい縮こまっちまってるわこりゃ。
桜井も「そう、俺も気になってた」と口にするも、彼ら二人は完全に俺たちを恐がってるようにも見えた。‥俺たち?いや、俺相手だけかもしれんが。
「おい棚瀬、コイツら二人誰だ!」
「えーー、俺今忙しいんすからまた後でにして下さいよぉ」
「たーなせぇ、面倒くさがるな」
「‥‥むぅ」
じゅーー‥とシェーキを飲んでいた棚瀬だったが、かったるそうにしながらも椅子から立ち上がり、隣に座っていたこの二人をちょいちょいと手招きしていた。それに従い、二人は慌てて棚瀬の下へと走っていくので、俺も桜井も棚瀬の前へと向かう。高見沢はもう既にそっち側にいるのでどうでもいい。
ようやく棚瀬の前までやって来た俺と桜井。すると棚瀬が並んでいる若い男二人を紹介してくれるらしい。
「はーい、ではさっきボスから預かってきた二人の秘密警察を紹介しまーす!」
やっぱりコイツらも俺らと同じか。
「この子たちはぁ‥えっと、名前なんて言うの?」
「あ、えっ?んと‥、吉田太郎ですっ」
「す、鈴木正将(ただすけ)ですっ‥!」
「ですって!皆さん、この子たちをチームに入れろとボスからの命令です!」
「コイツらを!?」
「マジかよ!?」
「‥‥。」
ボスの奴、なにを考えてんだ今更。
「確か二人とも一年目の若手ちゃんですって!お三方ともみっちりとこの子たちを鍛えちゃって下さいね~!」
「鍛えろって言われても‥」
「なぁ?」
桜井と高見沢が顔を見合わせ、首を傾げている。‥これでチームが五人、か。しかもまだまだ一年目の若手。さっきから未だに体が固まったままではあるが、この場所に居るということは‥相当のやり手って意味なんだろうな。
うむ、面倒みるのも悪くないかもな。そろそろ桜井と高見沢にも刺激が必要だしな。
「よし!なら桜井お前は吉田、高見沢は鈴木の面倒を見ろ」
「ハァ!?」
「常に二人一組になって行動を共にし、桜井と高見沢はこの二人に多くのことを教え、そして吉田と鈴木は二人から沢山のことを学べ。よく下らない言い合いを始めるが、そういう所だけは真似するんじゃないぞ」
「は、はい!」
「はいじゃねーよ!」
桜井が早速吉田にツッコミを入れてるが、コイツら二人に任せても大丈夫なのだろうか‥。不安に思う部分しかないが、これは四人ともが一気に成長していくチャンスだからな。
フゥとため息をつき、一応顔をちゃんと見せる為にもマスクを取ってみせた。
「坂崎幸二だ。よろしく」
「はいっ‥!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますっ!!」
「うん、元気でいいなお前ら」
俺の雰囲気に気圧されている二人の為に少しでも緊張感をほぐして貰わなきゃいけないので、こういうのは苦手ながらもフッと微笑んでみせた。すると二人もほんのちょっとだけ俺に対してニコッと可愛らしい笑みを向けてくれるじゃないか。
コイツら素直だな。桜井と高見沢よりかは手がかからんだろう。
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