SP3
「あ、高見沢さんと桜井さんも自己紹介しますー?それか俺がしましょうか?」
「え?じゃあ‥」
と、何かを言いかけた高見沢だったが、棚瀬が横からいきなり割って入っては二人の自己紹介を勝手に始めてしまっていた。
‥バカだな。
「ではまず先にこっちのサングラスとお髭生やした怖そうな雰囲気をしてる人が桜井さん!名前は賢いと書いて賢!高見沢さんとは同期で、銃を使うのは苦手だけど体一つで戦うのが得意なちょっと変わった人です!」
「ちょっと変わったは余計なお世話だ」
「で、こっちのあり得ないくらい髪長いのが高見沢さん!下の名前は見た目からじゃ想像つかないような男らしい名前の俊彦!体型の割にはビルからビルへと飛び回るのが得意で、タバコ大好きなせいでいつも臭いです!」
「臭いとか言うなよ!!」
桜井と高見沢のツッコミと、棚瀬の笑いも交えた紹介に吉田も鈴木も肩を震わせては笑うのをこらえている様子。ホントよく喋る男だよ、棚瀬は。
そして棚瀬が俺の方を指差しては俺の紹介も始めていく。
「このチビが‥」
「誰がチビだっ!!」
ブンっと思い切り振り上げた腕だったが、棚瀬は余裕そうな表情をしながら「よっ!」と言いながらいとも簡単に攻撃をよける。棚瀬がこんな身体能力を持っているなんて思っていなかったのだろう、吉田と鈴木の目の色がハッと変わった気がした。
のけ反っていた体勢から元の直立へと戻した棚瀬は、俺のことなんか気にもせずに再び紹介を進めていく。
「見た目も恐い、中身も恐い、自分以外を誰も信用していない、例え敵が女だろうが子供だろうが一切の容赦もなし!ただし鍛えられたその腕は確か、ある意味リーダーと言われるには相応しいようなこの男が坂さん!幸せなんて二の次でいいの幸二って覚えれば早い」
「どういう意味だソレっ‥!」
「だってホントのことじゃないっすか!別に坂さん、幸せなんて求めてないでしょっ?」
「まぁ、間違っちゃいないが‥」
「ならいいじゃないっすか!あ、ちなみに俺は棚瀬。棚瀬徹ね!仕事でケガしてから、今はこんな場所で毎日モニター観ては肩と腰と目を疲れさせてるけど、元々は坂さんの相棒で二年間コンビ組んでたんだっ。あ、そうそう、坂さんはこの仕事を十年。俺は七年、そして桜井さんと高見沢さんが五年目!なんで俺が仕事上先輩なのに、お二人には敬語なのかというと、俺よりも年上だから。それだけ!」
「えっと‥は、はあ‥」
「そ、そうですか‥」
棚瀬のしゃべくりに二人が付いていけてない。ったく、コイツは‥
ハァーー‥と盛大なため息をつくも、棚瀬には桜井と高見沢みたいに俺の攻撃は簡単に通用しない。コイツは俺も認めるほどの身体能力の持ち主だからだ。ま、だから二年間も相棒続けて貰ってたんだけどな。
ケガをしたとはいえど、コイツの体力は正直に言ってほとんど衰えていない。なのにこんな場所で引きこもって仕事しているのは、彼なりに出した答えであって、俺の足を引っ張りたくないからだと言って外の仕事はあまりしなくなった。
ま、中でもこうしてバリッバリに仕事こなしてるから文句言えねーけどさ。
「そうだなぁ‥、本音を言えば俺は吉田も鈴木も棚瀬に面倒みて貰った方がいいくらいなんだが‥‥」
「じゃあ棚瀬に譲る」
「俺も」
「いいですよ、二人を預かっても。でも、そんなことしてたら高見沢さんも桜井さんも成長しないじゃないっすか。そこが坂さんの意図なんですから、お二人はテキトーなことを言わないで下さい」
「ぅぐっ‥」
「棚瀬のくせに偉そうにしやがって‥」
「へぇ~~。‥じゃあスクワットで勝負しますー?」
「やってやらぁ!あ、お前脚ケガしたんだからハンデつけてやるよ!」
「俺も高見沢も現役なんだから、ほとんど引退したようなお前に負けてられっか!」
「いいですよ、じゃあ優しいお二人なので俺にハンデくれるんすね?言っときますが、俺だって体力落ちないように毎日腹筋背筋腕立てスクワットその他諸々100回×2セットはこなしてるんですからね。じゃ、ハンデつけてくれるという訳で‥」
「待て待て待て!!そんなの聞いてない!」
「時間ある時は500回くらいやってまぁす!」
「バケモノかよお前!?」
「‥それぐらいやれなきゃ困るだろうが」
ボソッと後ろから呟いてみせると、桜井と高見沢はまたまた「うぐっ‥!」となっていた。まぁ、これがいつもの光景だ。
棚瀬は年下だが、仕事上先輩なので二人もあまり噛み付くことも出来やしない。ましてや俺の相棒を二年間こなしていたのだから、無闇にちょっかい出してもアッサリとやられるだけなので、いつも何かと勝負しては負けている。
棚瀬は「さ~、スクワット100回勝負しましょ~!」とシェーキ飲みながらワクワクしている。勝ったらまた何か奢って貰うつもりなんだろう。
‥で、ほったらかしにしてしまっていた吉田と鈴木。チラッと二人を見やると、若干引いている。仕方ない、引くのも仕方ない。
突っ立っている二人の方へと歩み寄り、肩をバンっと一度大きく叩くと案の定痛がっていた。本気出したつもりではないが、コレが相当痛いらしい。だが俺はそんなもの気にしない。
「さぁお前らも今日からコイツらと同じチームだ。バカばっかなイメージがついちまったかもしれねぇが、どいつもこいつもボスから選ばれた精鋭中の精鋭。この国を命がけで守る秘密警察の中でもトップクラスのエリートってことは忘れるなよ。‥もちろんお前たちも今日からその仲間入りってわけだ」
「だから俺‥その、信じられなくて‥っ」
「僕ら、今日の朝いきなり言われたんですよっ?急に呼び出されて、訳も分からないままここに連れて来られて‥」
「だろーな。俺たちも全員そうだったから」
そう教えると、二人はちょっとだけホッとしたような雰囲気を出してくれる。だがしかし、まだまだコイツら二人は俺たちに遠慮しまくっている。もちろん高見沢も桜井も、始めこそは俺や棚瀬に遠慮しがちな態度だったが、今じゃこんな風だからな。
今度はポンポンと軽く叩く程度の力で二人の肩を刺激すると、彼らは俺の居る後ろへと振り向く。
「今はまだ慣れないかもしれんが、慣れたら俺たちに対してはタメ口でも構わない。俺は“それなりに”仲良くするつもりはあるが、自分以外を信頼することはしない性格だ。あとヘマやらかしたりすると、当然俺からの制裁も下ると思ってくれ。ま、そこは桜井と高見沢がアンタたち二人の育て方次第なんだけどな」
「せ、制裁って?」
「あ?じゃあ、見本見せるからしっかり見とけよ」
鈴木の一言で、俺はスクワット中の高見沢を呼び出してみせる。桜井と棚瀬からは「邪魔するな!」と言われたが、高見沢は仕方なく俺の方へ来た瞬間‥
俺は壁に一度トンッと足を着けてから、高見沢の真上まで大きくひとっ飛びしてみせた。いきなりのことで、「えっ!?」と目を見開いてはビックリしている高見沢の脳天目掛けて‥‥
ドゴォッ!!
「ひぎいぃいいいいいッ!!!」
「さっき言っただろ、後でかかと落としするって」
「のわあぁああぁああ!!頭がっ‥頭が割れるぅううぅうッ!!!」
床でのたうち回っている高見沢を見て、桜井は顔を歪めては「うっわー‥」という態度をしているが、逆に棚瀬は笑っている。
で、二人に見本を見せたところで吉田が「や、ヤバいっすね‥」と顔を引きつりながら喋りかけてくれた。鈴木は完全にドン引きしているみたいだが。
多分、今まで配属されていたチームじゃ俺たちのような身体能力がズバ抜けている奴らが居ないせいもあるのだろうから、そっちの部分にも驚いてるってのもあるだろうし。
「た、高見沢さん‥大丈夫ですかっ?」
「正将っ‥お前優しいなぁ‥」
涙目で頭を抱えている高見沢に対し、鈴木は哀れそうな目で高見沢を心配しているようだ。いい奴じゃねーか。
しっかし、こんな先輩でコイツら二人はきっちり成長するのだろうか。そこがやはり疑問に思うも、桜井も高見沢もまだまだな訳だし、いい機会っちゃいい機会なんだがな。
下から高見沢のキツい視線を注がれるも、そんなものはシカトして吉田と鈴木に向かい「こういうことだ、分かったな?」と告げる。それに対して、か細い声で「はい‥」と返事をするだけ偉い。
「坂さあぁん!いきなりソレを見せると新人くんたちがビビるに決まってるじゃないっすかぁ!あははは!坂さんおもしれー!」
「俺は全然面白くない!痛い!!」
「あ、ちなみに俺もうスクワット100回終わりましたから高見沢さんの負けでーす!はい、牛角奢りぃ!」
「はぁん!?俺は坂崎に呼び出されたんだぞ!?その内に終わらすのはずりぃぞ!?なぁ桜井!」
「俺も終わった」
「だあぁああぁあ!!腹立つッ!!」
ドンッ!と床に拳を叩きつけている高見沢を真近で見ている鈴木が、「ぼ、僕も奢って下さいっ!」なんて言ってきやがった。
「ド新人のくせによくそんなこたぁ言えるなぁ!?」
「じゃあ俺も奢って下さい!」
「お前ら全員覚えてろよ!?絶っっ対に仕返ししてやっからな!?しょうがねぇから牛角俺の奢りだ、こんちくしょう!!」
桜井と棚瀬がイェーイとハイタッチをして喜び、鈴木も吉田と一緒になって、ここへ来てからようやく本当の笑顔を見せてくれた。良かった、アイツらはちゃんと笑えるじゃねーか。
‥ま、今回は俺がコイツらの勝負中に高見沢を呼び出してしまったから、あとでこっそり高見沢に端た金でも渡しとくか。
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