FC!13
「よぉ、待たせたな王様」
「気にするでない」
「えっ‥!?しゃべ‥れるの?」
「あぁ、もちろん」
さっきから声が大きい高見沢の言葉に淡々とした口調で返す王様は格好いいくらいに堂々としている。高見沢のしかめた顔にシワを寄せている眉間。
坂崎が猫になった時も驚いたが、この状況にも当然ビックリせざるを得ないだろう。しかし俺らも現実的にあり得ないものに慣れているせいか、案外アッサリとこの事実を受け入れる事が可能だ。
目を丸くしていた高見沢ではあったが、ものの数秒で元の表情に戻ると胸の前で抱えていた坂崎に視線を落としては「おい」と呼びかける。
呼びかけられた本人はというと、眼鏡をかけた奥の瞳は目の前に居る白い大きな猫を魅入っていた。口をポカンと開け、不思議そうに王様を眺めては「貴方が‥王様‥」などと聞き取りづらいの音量で呟く。
腰を落としていた王様がふと立ち上がり、こちらへ歩いて来てから坂崎を捉えると「貴方がサカザキ‥ですな?」と問いただした。
「えっ?あ、はい‥!」
「お会い出来て光栄です。いつか会ってみたいと思っていた。我々救われない猫達をいつも助けてくれている素晴らしき人間よ」
「いや‥別にそんな大した事なんてしてないし‥!特に‥俺、あの‥」
「そうか‥。しかし人間に戻れなくなって迷惑をかけて申し訳ない事をした。許してくれ」
「だから、その‥!これは俺が悪いだけだから王様、アンタが謝らなくたって‥」
「我々が悪い節もある。だから今から付いて来てくれ」
「分かった‥」
王様達が悪い所もある‥?
ふーん、と思いながら猫の王様の後ろに付いて歩きだせば、隣には高見沢が歩き出そう‥という前に抱えていた坂崎を下におろしてしまった。
一瞬とぼけたように坂崎が高見沢を見上げていたが、僅かに頷いた高見沢の意図を察したのか、坂崎は「ありがとう」と礼を述べてから先を歩いていた王様の方へ行った。
なるべく二匹の空間を作り上げたかったので、周りに居る坂崎んチの猫達に向けて「しーっ」と口許に人差し指を持っていき、大人しくしていなさいと命令をしておく。
「‥ん?」
「どうした、高見沢?」
「いや‥不気味な気配があるようなないような‥。気のせいか?」
「多分それ王様の護衛の猫達だよ」
「あぁ、さっき桜井が言ってた?」
「そうそう。刺激しない方がいい。多分何匹も居るから一斉に襲いかかって来られたらたまったもんじゃない」
「‥ここは大人しく王様に従ってようじゃないか」
後ろからタタッと王様を追いかける。
う、うん。ホントこの猫デカい。こんな大きさの猫なんて見た事もない。
真っ白な毛並みは汚れがあまり目立つ事もなく、ハッキリ言って美しい。尻尾だけが黒く、フサフサしていて人間に戻ったら是非この手で触ってみたいものだ。
しかもオッドアイ‥という事は、青い方の瞳はあまり視力が良くないのか?
頭の中では多くの考え事をしつつ、王様の隣にやって来れば、優しくて魅力的な声色で「もう一つのピアスの存在を知っておられますか?」と尋ねられる。
「いえ、知りませんでした‥」
「そうか。もう一つのピアスの持つ力は“猫が人間になれる”という物でな、」
「猫が人間に?俺の持つピアスとはまるっきり逆の力なんですね」
「そうだな。だからこのピアスは無闇に使われたくはないのだよ。何が起きて誰が犠牲になり傷つき死にゆくのか分かったものじゃないからな」
「そんな危険な物ですか?」
「使う人間と猫によってそれは変わるからな。‥だから私は貴方にピアスを持っていてくれて正直ホッとしている」
「俺で良かったんですかねぇ‥」
「自信を持ってくれ。最終的にあのピアスが貴方の手許に辿り着き、ここの場所へと戻ってきた。これは何か不思議な力が働いてるのかもしれないな」
「不思議な力‥ですか」
暫く歩いていると、どこか開けた広い場所へと誘われてきた。今まで木々が月の光を遮っていたが、ここの場所は木が立っておらず、丸くてハッキリ強く輝く青白い月が真上に現れる。
なんだか気持ちが妙に落ち着いていた。
そうだ、王様を目にした時から俺の心を覆っていた不安は一気にどこかへと吹き飛んでいったんだ。今も王様と歩いて喋っている間も、さっきまで焦ってた俺とは大違いな程。
「‥王様?」
「来てくれ。こっちにピアスがある」
トクン‥と騒ぎ出す心臓。
謎が解けていく。
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