FC! - 6/23

FC!4

包まれていた白い光りが小さくなった時、私の目の前に現れたのはコウよりもちょっとだけ大きな黒猫がそこに居た。

キョトンとして座ったままでいるこの黒猫は紛れもなくサクライさんなのは間違いない。私を一瞬捉えた後、あまり現状を理解していないサクライさんは、周りをキョロッと見渡しては口をポカンと開けたまま。

私達の見ている世界の広さに驚いてるといった方が正しいかな。人間の体と私達の体とでは大きさが違いすぎるもの。

すると「俺‥‥、猫?」とぽつっと呟いたサクライさんに「えぇ、そうよ」と答えてみせると体を異常にビクッと跳ねさせていた。そんなに驚かせてしまった?ご、ごめんなさい。

そろそろとした足取りでサクライさんに近付くと、彼は背筋をピンと伸ばしながら私を僅かに警戒している様子で窺っている。

「さ、サクライさん‥よね?」

「‥‥あ、あぁ」

分かる。

ナカノが今、俺の名前を呼んだ。幻聴なんかじゃない。

目をまん丸くして如何にも驚いてます、といった表情をしているのが俺自身でも面白い程分かるじゃないか。

は‥ははっ。俺、本当に猫になんかなってやがる‥

見ている世界がいつもと違う。空が、月があんなにも遠くに見えるのは初めてかもしれない。家が、木が、電柱が‥全てが大きくて強大な脅威に見えてしまっている。

ブルルッと震わせた体には真っ黒な毛が全身にビッシリ。右手を持ち上げて掌を確認してみると、そこにあるのはプニプニの肉球。

本当に猫だ‥

疑うつもりはない。何度もこの目で坂崎が猫になった姿を見ているし、俺自身が今これを体験しているから。

恐る恐る「サクライさん‥?」と声をかけてくるナカノに「俺の言葉分かる?」と問う。

「えぇ、もちろん分かるわ」

「すげー‥!俺本当に猫だ!猫になってるよ俺!しかもナカノの言葉が理解出来る!」

子供のようにはしゃぐ俺をナカノは優しく微笑むかのように「ようこそ、猫の世界へ」と俺を受け入れてくれたではないか。

「あ、ありがとうナカノ!‥って、こんな事で浮かれてる場合じゃないんだったな。ナカノは今何をしているんだ?」

「私は今野良猫たちに話しを聞いてるの。なるべく優しそうな子たちを見つけて声を掛けないと、危ないから気を付けて下さいね?」

「あぁ‥!とにかく俺も参加したい。ところでドングリとシッポナはどこに行ったんだよ?」

「あの子たちは‥多分、私と同じ事をしてると思うの。コウに何も言わずに出てきてしまったから何かあると私の責任だわ」

「いや、ナカノのせいじゃないよ。俺も頑張って情報を収集するし、ドングリとシッポナも見つけ出さないといけないからね」

「無事でいてくれると嬉しいのだけれど‥。他の野良猫たちと争い事になったり、追いかけられてないかが心配ね」

「匂いは?二匹の匂いとかは‥」

「他の匂いに掻き消されて足取りが掴めないの」

「‥ごめん、俺が足手まといになってたみたいで」

俺のいきなりの謝罪でナカノは「えっ‥!?」と驚きの声を上げる。しかしこのセリフの意味にナカノはすぐさま察知し、「貴方のせいじゃないっ」と否定してくれた。

うん、優しい子だ。

「‥‥とりあえず行こう。こんな所でウダウダしてても無意味だからね。今はナカノに大人しく付いていくし、言う事も聞くよ。坂崎を一秒でも早く人間に戻してやりたい」

「分かったわ。なら付いて来て。あ、でもサクライさんが上手く走れるまでに少し慣れさせないといけないけれど‥」

そ、そうか。四足歩行なんて人間でいる内なんて、そう滅多にしないものだもんな。座っていた体を持ち上げ、ヨロッとした慣れない四本の足を前に出して、まずは歩いてみる。

お?意外と普通に歩けるぞ。

それを見たナカノが「上手ね。それなら走れそう?」と聞いてくるので、コクンと頷きながらタッと軽く走ってみせた。自分の運動神経の良さにビックリだ。

「よっ‥、とっ!」

「大丈夫?」

「あぁ、なんとか。よし、多分走れる」

「あまりスピードは出さないようにして走るからムリはしないでね?」

「ありがとう。ナカノは優しいね」

「そう?」

澄ましたお顔でこちらを見てくる煌めく瞳が美しかった。夜のせいもあり、金に輝く目にも鋭さを感じるがナカノは違った。

‥明らかに俺を心配している保護者目線のような、やさし~い眼差しといえば早いか。

「‥今の俺はドングリとシッポナとそう変わりない存在って訳か」

ボソッと呟くと同時に走り出すも、ナカノに聞き取られたみたいで「そんな事ないですよ」と苦笑されてしまった。

猫に気ぃ遣われてるじゃねーかよ俺。

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