FC!3
猫って速いよな‥
ロクに運動もしていないこの訛った体があんなすばしっこい子たちについて行ける筈がなかった。
先に走って行ってしまったドングリとシッポナを追いかけようとナカノが駆け出そうとしていたが、俺の方も心配なのかどこか我慢しながら俺のスピードに合わせてくれていた。
‥いい子だ。
しかし、もう既にあの二匹はどこか夜の街へと消えてしまった。さて、どうすればいいのやら‥。俺は坂崎と違って猫達と話せないしな。
頭を悩ませていると、ナカノがピクッと何かに反応を示した様子で、走っていた足を止めてしまう。キョロキョロ辺りを見回した後、俺の方をチラリと見たと思いきや、ナカノはそこにあった路地裏へと入ってしまった。
「あ、おい‥!」
慌てて追いかける。
しかし息が上がってきたな‥。走りっぱなしもキッツイぞこれ。
走って行くと薄暗い路地裏の奥からは、猫達がニャーニャーと鳴いてくる声が耳に届いてくる。しかも一匹だけじゃない。数匹はいるぞ。
乱れた息を整えようと小走りになってしまっていると、暗がりからヒョコッと現れたのはナカノだった。雰囲気的に「ここに用はもうない」といった感じで、来た道をまた戻って行く。
あれ、もういいのか?
疲れている俺を見てはナカノが気遣ってくれて、今は走り出そうとせずに歩いてくれて俺の歩調に合わせている。
ハァッ‥と息を吐き、手をポケットに突っ込んだ時だった。
何か小さな物がコツッと手に当たる感触が残る。
「‥‥、」
始めは「ん?」と思ったが、すぐにこの感触がなんなのかは理解した。先ほど俺が自分でやった行為だから。
指先でソレを摘んでみせると、中から出てきたのはチャリッ‥と金属が密かに鳴る、坂崎のあのピアスだった。
ドクッと一度大きく身体全体を叩いた心臓は、何かの合図を送っているかのようにも感じ取れたが‥俺なんかがいいのか?
猫になったとして、そもそもこの人間の体に戻れる可能性は?今の坂崎みたいな状況になり兼ねなくもないんだぞ?分かってるのか俺?
俺まで戻れなくなったら、高見沢はどんな態度を見せ付けてくるだろうか‥
想像したくない。
しかし、ナカノ達と会話が出来ないのがもどかしい。ナカノが何を言ってきて、俺に何を伝えたいのかさえ分かればこんなにも苦労しないのによ。
‥自分だけで判断しちゃあダメか?
「ねぇ、ナカノ‥。あのさ、」
急に真剣な声で私の名前を呼ばれてしまえば、ピタリと立ち止まるしかなかった。
あまりにも声が良すぎるので、少しばかりドキドキしてしまったのは秘密よ。コウに知られたらムッとされるのは目に見えているもの。
ハァ、ハァ‥と息を整え終えるサクライさんは脚を曲げたかと思いきや、右手の指先に摘んでいる物を私に見せ付けるように腕を伸ばす。キラリと光るのは見慣れたピアスが目の前には現れた。
一瞬だけ困惑したけれど、サクライさんの「‥いいと思うか?」と尋ねてくる質問で全て理解出来た。
「俺は今ナカノ達の言ってる言葉が伝わらない。それは当たり前だけど‥今だけはお前達猫の言葉を聞いてみたい。坂崎を助けたいんだ。‥‥もしも俺が坂崎みたいに戻れなくなったとしても、それは俺自身の責任だから‥‥」
サクライさん‥
「ごめん高見沢‥、坂崎を元に戻す為だ」
私が「サクライさん‥!」と鳴こうとする前に彼はピアスを左耳に付けてしまっていた。
そして白く、大きな光りが彼の体を包んだ光景が私の両目に映り込む。見慣れた光景なのに、この光りが収まった時に現れるのは‥
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