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「‥‥、」

「‥‥。」

床に座り込む俺とテーブルを陣取って仕事を進めてる高見沢。

あーあ‥。ここまで気まずいのはそりゃ俺が招いた結果だってのは知っているけどさ‥

決してお互いいい気分ではないままこの果てしなく長い時間を過ごすのは、まさに苦痛。いや‥その、だから‥自分のせいだってのは分かってるよ?分かってるんだけどぉ‥

高見沢に対してここまで気まずくなった事が過去にあっただろうか?彼は今本気で怒っているようにも見える。話しかけていい雰囲気ではないだろうし、第一仕事の邪魔をしてはならない。

ハァ‥と小さな小さな溜め息をついて見せるも、高見沢は一切無反応。カタカタと無機質に鳴るのはパソコンのキーボードだけ。

ポフッと顔を床に引っ付けさせ、仕事をしている高見沢の背中を眺め続ける。‥謝っても暫く許してくれないだろうしなぁ。だけど言わない方がもっと彼を怒らせてしまうのかもしれない。

「‥‥ニャア」

俺が発した鳴き声で、こちらに顔を向く高見沢の目つきはどことなく蔑んでいるようにも見えた‥のは俺が今こんな気持ちだからだろうか。ただ、優しい眼差しではないのは一瞬目にしただけでも理解出来た。

スクッと体を縮こませてしまうが、高見沢は俺に向かって「言いたい事があるならこっちに来い」と冷たく言い放つ。

あんまりそっちに行きたくないんだけどなぁ‥

そう思っていると、俺の心をまるで読み取ったかのように高見沢が「嫌なら別にいいけどさ」なんて急に突き放してくるではないか。こっちに向けていた顔を再びパソコンの画面へと移してしまい、相変わらずの冷たい態度のまま。

‥‥はぁ。

重たい腰を上げ、ヨタヨタした歩き方で高見沢の座ってる椅子の前までやって来ると、フイと下に視線を落とした高見沢が俺を持ち上げてはテーブルの上へと置いていく。

背中には高見沢のゴツゴツとした大きな手が引っ付いたまま。こうして高見沢か桜井に触れていないと、彼らは俺の言葉が分からないからね。

「‥ごめん、高見沢」

「‥‥なにが?」

「その‥こんな‥変な事態になっちゃって‥」

「‥‥。」

「ただ、これだけは分かって欲しい。俺は二人と音楽がやれなくていいなんて思っていない。‥まさか冗談で言って口にした言葉が現実になるなんて思ってもみなくて‥」

「まぁ‥、だろうな」

「え‥?」

「お前が俺らと音楽をやれなくてもいい‥とは思っていないから安心しろ。それに、俺たちの中でも特に強く音楽を愛してるお前なんだからさ‥、分かってる。全部分かってるってば」

「高見沢‥」

「冗談で猫のままがいい、って言うのも別に悪い事じゃないさ。ただ、元に戻らないのだけ絶対にダメだろ?」

「そんな事言われても‥俺、 いつも通り猫になってただけなんだし、まさか人間に戻れないなんて‥」

「まぁ‥ね。自分の予想もつかない事があるのが人生ってもんだしな。‥‥手がかり見つからなくて一生猫のままだったらお前どうする?」

「ぅ‥‥」

高見沢に言われて今初めてゾッとした。

俺は完全に桜井とナカノが手がかりを見つけて帰って来てくれると信じ切っていた。心のどこかで人間に戻れると安心し切っていたじゃないか。

なんでこんな‥

人間に戻れないと何も出来ない。もちろんこの部屋にだって住めないだろうし、猫や他のペットだって世話は到底ムリ。それに、アルフィーとしての坂崎幸之助が死ぬ‥って意味なんだぞ?何を悠長に家で待っていられるんだ俺。

そう考えたら、いてもたってもいられなくて思わず「ど、どうしよう高見沢‥」と弱々しい声で訴えかけるしかなかった。

「俺も外に出て手がかり探さなきゃ‥!ここでこんな事してる場合じゃないよ!」

「まぁ待て坂崎。気持ちは分かるが今はここに居ろ。いくらお前が猫に慣れてるからって、外に出たら何があるか‥。だから桜井達を信じよう」

「でも‥‥っ、。‥分かった、大人しくしてる」

「安心しろって。元に戻る方法は絶対にあるから諦めるな。ほら、諦めたらそこでお終いだぞ?」

「‥そうだね。うん、諦めた訳じゃないから」

「ならいいけど」

すると高見沢が俺の頭をナデナデしてきて、その手付きは温かさを感じ取れた。

チラッと彼の方に目をやると、高見沢は既に怒りの雰囲気は消え去っている。良かった。

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