罪人たちの舟 終焉10
島に人間がただ一人しかいなくなってしまってから十日ほど経った頃、本土の方からようやく連絡が入り明日には新しい船頭候補たちが送られてくるというのでその詳細を聞き、明日に備えて俺も今自分にやれる準備を進めていく。
この十日は完全に一人ぼっちだった為、マモン様以外の悪魔ともそんなに交流が頻繁にある訳でもないから誰かと面と向かって喋ったのなんてマモン様しかいない状態ってレベルで喋っていなかったよ。もちろん寂しい。
にしても候補がもう七人揃うなんて早いなー…。こんな訳の分からん仕事を探して見つけてこんな仕事をしたいってことは、相当犯罪者が憎くて仕方がない奴らが来るんだろうなというのは予想している。ただ、こんなことが二回もあったので相当危険な仕事だってのは承知なはずだし、罪を犯した者を憎んで虐げていい理由にはならない仕事なので、そこら辺はちょっと会ってみんなに話しを聞いてみないと分からないしなー…。難しいところだ。
あの頃は二十四番と七十二番が最初からいた為、つい最近まで一緒だった仲間たちは割とすんなり早い段階で二人のことや罪人たちへの理解も早かったような気はする。もちろん俺と同じで罪人は嫌いは嫌いだけど、それだけじゃないってことを知るのが早かったからまだ良かったんだ。そう思うと二人の存在ってやっぱかなりデカかったのかなって今改めて知れた。俺のやり方は間違ってなかったのかも?なんて、少し思えて救われた気もする。
「…ふぅ。こんだけまとめておけば俺があとで楽でしょ」
暇だったこの十日で仕事のマニュアルをまとめてみせ、自分が楽になる為というのもあるけど新人たちがどう罪人たちと接していけばいいかも事細かく書いておいたつもりなので、本当にこれだけはしっかりと読んでおいて欲しい。これが出来なきゃまた十年前の過ちを繰り返すことになるだけだから、仕事を覚えるのは正直後回しでもいいから罪人との接し方だけでも先になんとかして欲しい。じゃないと憎悪や嫌悪が最初はとんでもないので、そこに支配されながら仕事を続けていくと俺みたいに大失敗するから、まずは罪人との向き合い方を学ばせなければならない。
もちろん他の業務も大切だし、同時進行で色々覚えさせるつもりではあるけど優先順位が明確なのでこれだけは俺の中でも譲れないことだ。
「…どんな人たちが来るんだろ」
最近は暇すぎて仕事って言ってもブラブラしてるだけのが多かったので、正直マモン様に報告する時も報告することがなさ過ぎて毎度気まずかったから明日新人たちが来てくれることのが逆に有難い。
楽しみとか言ったらなんか不謹慎になりそうな仕事だからあんまそういう言葉は使いたくないけど、十日ずっと一人だったので誰かと話せるのが少し嬉しいし一人じゃないって実感出来るから寂しさもだいぶ紛れるはずだ。ま、まぁ夜になるといろーんな感情が昂って時々泣いてたけども、明日からは忙しくなりそうなので泣いてる暇もないはず!もうひと踏ん張り頑張るぞ俺!
「さてと…寝るかぁ」
少しのワクワクと大きな不安を抱え込みながらも、人と会えることの嬉しさのがやはり勝ってしまう俺はこのあと寝る為の準備だけをしてから、明日に備えてしっかり眠ることにした。
┈┈┈┈┈┈⿻*.·
霧の向こう側から見えてきた一隻の船。
ほぼ時間通りに来てくれたのでこちらとしても助かるし、早く人と喋りたかったので有難い。
俺たちがいつも漕いでるようなオールで漕ぐようなタイプの舟ではなくて、ちゃんとエンジン付きの…舟っつーか船だな!いいもんで乗ってきやがってコンチクショウ。
送り届けてくれた役人の人にお礼を述べてから、降りてきた七人はすんごく不思議そうな顔をしてこの島に上陸しては俺に対して「初めまして!よろしくお願いします!」と元気よく挨拶してくれたので印象は悪くない。そしてみんな若い…。羨ましいねぇ…
「うん、こちらこそよろしく。俺はこの島で十五年近く船頭をやってる坂崎幸二ね。早速で悪いけど、あんまり時間もないから今日は全ての場所だけでも案内させてね」
「はい!」
「取り敢えずみんなの荷物は各々の家があるからそこに置いてきてね。俺が今着ているこの着物も各家にそれぞれ予備合わせて三着ずつは置いてあるからそれに着替えてきてから外へ出てきて欲しいな。家は今から案内するよ」
「分かりました!」
「お願いします!」
てことで、早速みんなをそれぞれの家に案内してしまう。
かつての仲間たちが使っていた家だけど、ここは歴代の船頭たちが住んでいた場所なので別に自分の家って訳ではないから簡単に言えば寮?みたいなもん…か?
以前住んでいた仲間たちの私物などは俺一人で全てまとめ、それはさっき来てくれた船に積んでは送り届けておいたので彼らの家族の元に届いてくれたらいいなと思ってる。いや、ちゃんと届けてくれなきゃ困る。
そんな訳でこの島には俺たち船頭+二十四番七十二番が住んでた家があるので合計八軒建っているが、二人の住んでいた家に新人を住まわせるのもなんかちょっとアレかな…と思い、俺が逆にアイツら二人が住んでいた家に引っ越したって感じです。そりゃ新人くんにいきなり罪人たちが住んでた家に住めって言うのも酷だろうし何より……俺がなんかね、新人がいきなりアイツらが住んでた家に住まわせるのもなんかヤダな…って思っちゃった訳よ。
集合場所で一人ボーッと海眺めながら待っていると、ポツリぽつりとこの場に集まってくる新人たち。七人全員揃うまで来た人たちから雑談をしているけど、みんな「肩の紐結べませんー…!」って泣き言言ってくるのでなんか可愛いなって思っちまった。うん、これ難しいよねぇ…分かるよ分かる。なので縛り方を一人ずつに教えてあげた。
「全員揃った?」
俺が尋ねると元気よく「はい!」と答えてくる新人くんたち。なので一旦ここで自己紹介。俺もみんなの名前早く覚えたいしね。
「自分の名前と、年齢、それと趣味でもなんでも好きなこととか」
俺がそう言ったあと、「はいっ」という返事がくるけど俺はそこで「最後にもう一つだけ」と付け足すのでみんながキョトンとした顔になってしまった。
「なんで君たちはこの仕事を選んだのか。話せる範囲でいいから聞いておきたい。もちろん人前で話せる内容でなければまた後日俺と二人だけででもいいから理由を聞かせて欲しい。この仕事をするならば、犯罪に手を染めた者たちを憎んでいい訳でもなければお前たちが勝手に罪人たちに裁量していい仕事でもない。全ては七つの大罪の悪魔たちが決めることだ」
俺が声のトーンを落ち着かせて真剣な表情をしながら七人に向かって伝えてみせると、みんなはまだよく分かっていないので少しオロッ…としていたが、俺の気迫があったのかは分からんが真面目に耳を傾けていることだけは分かったのでそこは一安心。反論してこない奴がいないとは思わないけど、まだもう少しだけ俺もここに残る時間はあるからなんとかその期間でみんなと心を通わせたい。
「もう聞いてるだろうけど一つでも間違えればとんでもない事態に発展してしまうんだ、この仕事は。もしかしたら自分の命の危険にも晒される羽目になるだろうし、悪魔たちの機嫌を損ねればそれも自分が死ぬ羽目にも当然なる。自分の心が強固でなければ罪人たちに隙を突かれてこれまた反乱や暴動が起きる」
全ては自分が通ってきた道だから分かる。
「きっと今の君たちは罪人…犯罪者たちが憎くて憎くてて仕方ないはずだ。それは俺も同じだったからめちゃくちゃ分かる。痛いほどに理解してやれる。…でも、罪を犯した者たちが全て悪だと決めつけるのは危険すぎるから、そこは罪人たちの話もしっかりと聞いてやって欲しい。殺したいと思うだけじゃ意味がない。だってそこを間違うと……俺みたいになってしまうから」
「……。」
全員がなんにも喋らなくなってしまった。ちょっとやり過ぎた気がするな…。でも事実だから仕方ない。気を取り直そう。
「と、取り敢えずさっき言ったように…自己紹介が終わったらこの島を案内するね…!」
「は、はい」
なんか引かれたような気がするけど、俺はこの島を案内する為に七人を引率する。
꧁——————————꧂
正直バッタバタな一週間だった。
全てを一人で教え込まなきゃならないので、久しぶりにこんな大変で楽しくてあっという間な時間を過ごせたと思う。十年前も一気に来た六人に加え、罪人二人にも仕事教えなきゃだったのでその時もめちゃくちゃ大変だったがまだ今回のが全然マシだ。だって突っかかって嫌味言ってくる奴らがいないからな。もうそれだけでほぼストレスフリー状態よっ。
にしても若いせいかみーんな覚えが早くて助かる!でもまだ罪人たちは運ばれて来てはいないので、本番はまだではあるけど頼りにしたいとは思ってる。
それとようやく七人を悪魔たちに今日初めて顔合わせをしたのだが、会う前はみんな「本物の悪魔に会えるー!」とかはしゃいでいた癖に、いざ目の前に立たせてみると全員笑っちゃうくらいブルッブルに全身震えててマモン様たちがいる前で吹き出すのをどれほど我慢したか。まぁね、分かるよもちろん。この俺でも今もこえーもん、この悪魔たち。
自己紹介する際、ほぼ全員声が震えてたうえに悪魔たちから全員そっぽ向かれてたからこれから先が思いやられるなぁ〜…なんて呑気なことを考えながらその様子を笑い堪えながら眺めていた。とはいえ悪魔から気に入られすぎるとそれはそれで恐ろしいから絶妙な距離感を保っておいた方がいいとは思うな。
正直マモン様もどう思っているのやら…って感じだけど、直接本人にそんなこと聞ける訳がないのでこのままスルーしとくけど。
更に次の日は罪人たちが運ばれてくる日だ。
もちろん俺が先導してみんなにやり方を教え込むが、罪人たちを憎む前に仕事を覚えるのに必死って感じでまだそこまで余裕がなさそうに見える。が、ここはちゃんと威厳を保っておかないと罪人たちにも舐められるのでそこもまた考えなきゃいけないとこだ。偉そうにしすぎず、でもオロオロした態度をしていると舐められてしまうのでそこの中間を探っていくのにはやっていくしかないって感じかな。
ま、もう少しだけ俺もこの島に残るしその間に罪人たちも何回かは連れて来られるはずだからやるしかないんだよ。
初日はなんとか無事に終わり、ドッとした疲れが襲ってくるも前みたいに体調悪いとかはあんまりなくなったのでそこはまだ良かった。あのままの俺だったら多分ぶっ倒れてて寿命をギュッと更に短くしていただろうしね。
二日目は少しトラブルがあったはものの、すぐに対処が出来るものだったので大事には至らなかった。そして最後の三日目は、とてもとても大事な日。罪人たちを悪魔の前に連れて行き、悪魔の裁きによって瞑道の窯で死ぬのかそれとも生きるのかを今日ここで決めるからだ。生き延びる奴なんてほとんどいないけどさ…。だってこの島に連れて来られたってことは国に見捨てられてるって意味だし…
裁きを終えて、瞑道の窯へと行く罪人たちは皆死にたくないと嘆き泣いている者が多い。でも逃げ出さないのには逃げ出せない理由がちゃんとあるから。悪魔たちが支配する島だぜ?十年前あんなことがあったからそりゃこの日は余計に厳重な拘束も入るし、逃げ出すことは許されないから死ぬしかない。
俺はもう幾度となく見てきて慣れてはいるが、初めて見るこの恐ろしい光景に新人くんたちは脳裏に焼き付いて離れない映像をこれから何十人も見ることになるので覚悟をしておいて欲しい。
。
。
「あーーー疲れたぁ〜〜…!!」
家に帰りすぐにベッドへボフンッと突っ伏してみせるが、この仕事ってこんな疲れたっけー?って思ってしまった。というよりまだみんな体力が追いついてなさすぎて俺がやっぱ一番動かなきゃならなかったのもあって超疲れたよーー…。俺もう歳なんスよぉ。
まだ他のみんなは悪魔たちの力の影響を最大限に受けていないからか、体力面と身体能力は正直一般人とは言わないがアスリートほども凄くないから中々に厳しい。この体力がないとまだ危ういからもう暫く島に滞在決定かもなー…
「…先に風呂入ろっ」
ムクっと起きては風呂に入る準備をするものの、本当は腹減ってるから先にメシでもいいけどなんかすげー疲れたから先に風呂入ってゆっくりしたい。このままゴロゴロしてると寝ちゃいそうだから目を覚ます為に風呂入るって理由なんだけどね。
未だにこの家にはベッドが二つ残っている。片付けるにもベッド移動させるの面倒くさすぎて結局手をつけてないんですよ。片付ければ部屋がかなり広くなるのは分かっちゃいるが、せめて俺がいる間だけでも二つここに並べて置いておきたいのかもしれん。
。
。
なんだかんだ一ヶ月以上この島に残ってはいたが、少しずつみんなも慣れてきてはいるので俺は一旦この島から離れることとなった。だけどまだまだ不安要素が多すぎるので、定期的にここへ戻ることにはなっているが流石に役人さんたちにも「このままズルズルいくとマズいから、もうそろそろ指導も終わっていい」なんて言われちゃあこの仕事を辞するしかない。
向こうの人たちも俺の事情は把握してるので、優しさで言ってくれてるのも当然分かるからその言葉に甘えさせてもらおうかなって感じだ。
なのでこれからマモン様のところへ一応の最後の挨拶に行くところ。今日は罪人たちはいない日なので、少しのんびりしながらマモン様の部屋へと向かい、相も変わらず重たい扉を開けては中へと入っていく。
「坂崎か」
「は、はいっ、すみません。…新しい使者の方が良かったですか?」
「どちらでも良いわ」
めっちゃ冷たく言い放たれてしまったが、マモン様俺の方あんま見てくれない。これはどういう意味なのだろうか……コワイ。
「あの、マモン様…今まで大変お世話になりました。私のせいで多くのトラブルを引き起こしてしまい、本当になんと申し上げていいのやら…」
と、俺が頭を深々と下げながら申し訳ない気持ちでマモン様に謝ると、マモン様は「いや、」と否定の言葉を付けて下さった。
「えっ?」
「何もないよりかは暇潰しになって良いからな」
「そうですか…」
その暇潰しのせいでとんでもない人数が亡くなっているんですけどね…なんて言えるはずもなく、マモン様をそっと見ながら頷くしか出来なかった。
「お前が今日でいなくなるのか」
「ま、まぁそうですね…」
「だが度々ここへ戻って来るのであろう?」
「はい、そのつもりですっ。まだまだ新人たちに教えなきゃならないことが多すぎて教え切れませんでしたが、本土の者に私は一度戻りなさいと言われてしまいましたから…。す、すみません」
「何を勘違いしておる?お前如きが消え失せたところでこの私が寂しがるとでも?」
「い、いえそんなつもりで言ったんじゃ…!すみませんマモン様…っ」
あーー、こーーわっ。その視線だけで殺されそうだ。
「失礼致しました…っ。あ、あのでは私はこれで…」
と、俺がそそくさと帰ろうとしたのだがマモン様に「待て」と言われてしまえばそこで動作をピタッと止めるしかなく再びマモン様の方へと体を向き直す。
「はい、なんでしょう?」
「坂崎、この先お前が働かずとも暮らしていける程度の金品は用意してあるから、それを持って帰ると良い」
「…!い、いいのですかっ?」
強欲の悪魔が…人間に金品を与えるだなんてどういうこっちゃ…!?と、内心めちゃくちゃビックリしたのだが、これも多分俺がマモン様に気に入られてるお陰だと思うことにした。
「お前がこの先の十年、安寧に過ごせるようにしてくれと言われておるのでな」
「えっ?」
それは……誰が言った言葉なんだろう…?
一瞬考えてしまったが、またマモン様に名前を呼ばれてしまえば「はいっ…!」と慌てて返事をするしかなかった。
「やはりお前がいなくなると少しばかり寂しいな」
「へっ…!?」
マモン様の口からそんなセリフが飛び出してくるだなんて思いもしなかったので死ぬほどビックリしてしまって、目をまん丸にしながらマモン様を見やってしまったがマモン様は気にすることなく少し俺を見下しながら「なんだ?」と逆に聞いてくる。
な、何を言われたんだ俺…?耳を疑うような素直すぎるセリフのせいで頭真っ白になってしまったではないか。さっきは寂しくないとか言ってた癖に…なんなんだこのお方は。
それと同時に俺の中でいつか聞いてみたかった疑問が頭を過ぎったので、勇気を出して尋ねてみせた。
「あの…ずっと気になっていたのですが…、なぜマモン様はそんなにも私を好いておられたのですか…?」
恐る恐る言葉を選びながらそっと尋ねてみせるが、マモン様はさも当然だと言いたげな表情で俺に答えをくれたようだ。
「そんなもの、お前が憎い罪人の為に命を分け与えてやるほどのお人好しのバカで、浅はかな考えをした最高に愚かな人間だったからよ。それ以外に理由などない」
「そ、そうですか…」
めちゃくちゃに貶されたけど、多分マモン様的には一応俺のこと褒めてくれているんだと…思う。悪魔たちにツンデレとかの概念があるのかないのかもすらよく分からないからこれがデレなのかも分からんし、もしツンツンしてる時があるならば最早それは虐めという名のほぼ虐待をしてきているだけなので悪魔たちの感情なんて読み取れる訳がない…
「それは過去にいた使者たちの中でさえも、私みたいに自分の命を罪人に分け与える者などいなかったという意味でしょうか?」
「当たり前だ。誰が自分の寿命を縮めてまで罪人を生かしたいと思う?貴様のような愚か者が他にいて堪まるか」
「はは…。確かにそうですね…」
ですよねぇ〜…と思いながら目線をマモン様から床へと逸らし、苦笑いをして誤魔化すしかなかった。でもそれをやったせいで俺はマモン様に気にいられちまったからこうして俺一人が生き残る羽目になっちまったんだけどな…
いいのか悪いのかが分からんな…
「教えて下さりありがとうございました。長年の疑問が解けてスッキリしました」
理由が理由だから本当は「うーん…?」って言いたい部分もあるが、余計なことを言うと怖いのでここでストップしておく。それが俺の為でもあるからだ。
「そうか。……坂崎、」
「はい?」
「これをやろう」
「?」
マモン様が右手を俺の方へ差し伸べてくるので、慌てて俺がマモン様の座っている方へと向かってみせてはマモン様が手に持っている小袋を両手で受け止めてみせると、マモン様が「私からの手土産だ」と言っては俺にとある物を渡してくれた。
「…見てもよろしいのでしょうか?」
「構わん」
受け取った袋をスルッと開けてみせ、中身を取り出してみせるとそこにあった物は……
「これは…金貨と銀貨?」
なんとも強欲の悪魔らしい手土産だろうか。
少し不思議そうに金貨と銀貨を眺めていると、マモン様が「私の力が宿っておるから常に身に付けておくといい」と伝えて下さる。
「でも…私はもう、貴方の使者では…」
「お前が生きている限りお前は私の使者だ。なに、悪いようには力が働かんので気にするでない。お前を周囲からの悪意から守り、そのお前の今持つ力も持続するので悪くはないだろう?」
「た、確かに」
てことは俺のこの体力と身体能力は、この金貨と銀貨のお陰でマモン様の力の影響を受け続けるから本土へ戻っても持続するという意味か?あ、それともまだこの島にちょくちょく戻ってこなきゃならないから、その体力が急激に落ちても困るからこれを常に持っとけってことなのかな?
どっちにしろマモン様からの直接渡された手土産が嬉しくないはずがなかった。
「ありがとうございます、マモン様。一生大切にします」
「十年しか生きられないお前の言う一生は惨めで滑稽だな。…もう良い、行け坂崎」
「はい。……今まで大変お世話になりました。そして本当にありがとうございました」
「…ふんっ」
もう一度深々と頭を数秒間下げたあと、マモン様の顔をチラッと見てから俺はこの部屋から出て行った。
…にしても、マモン様が最後あんな風に笑うだなんて思いもしなかったのでまた内心ビックリさせられてしまったじゃないか。
。
。
マモン様への挨拶も終え、今住んでいる方の家まで戻ってから荷物がちゃんとまとめてあるか、忘れ物がないかをチェックする。…よし、大丈夫そうだな。まぁ最悪忘れたとしてもまたここへ来るからその時取りに帰ればいっか。
「……。」
そういえば…二十四番と七十二番が使っていた物とかを持って帰ってもいいかなぁ…?
そもそも二人が愛用していた物とかって特になさそうだし、二人が使っていた棍棒を持って帰ろっかな。荷物になっちゃうかな?とか思ったけど、この棍棒が多分一番思い入れが強いだろうからこれにしとくか。
そんな訳でこの壁にずっと立て掛けてあった棍棒を貰い受ける。
あ、そうそう。この家はまだ俺がここへ来る際に使うので、勝手に使わないでくれとはみんなに一応言ってある。あと定期的に掃除だけはして欲しいって伝えといた。
荷物をまとめ終え、舟の出す場所の砂浜まで赴いてからこの大荷物を一旦ここへ置いておき、俺は最後にとある場所へと向かってみせた。その場所とは……
「みんな…、ごめんね」
その場所とは、仲間たちが眠っているお墓だ。
この場所だけは空気が驚くほど優しくて、心も一瞬で穏やかになれてしまうある意味俺を癒してくれる場所でもある。しかし悲しい場所なのには変わりないので、俺にとってはとても複雑な場所。
十二体ある墓石が俺の心を何度も抉ってくるし、そのうちの六体は本当にただ墓石がそこに建ててあるだけで魂はここにはないので、その事実を思い出してしまうだけで涙がウルッと込み上げてきてはまた泣きそうになってしまった。
そして……、本当に凄く…すごーーく悩んだのだけれど、二十四番と七十二番のお墓も俺が勝手に作ってここの地に弔っておいた。仲間たちの墓石はちゃんと悪魔たちが用意してくれた物だけれど、二人は罪人なのでそんな物が用意なんてされるはずもないから俺が勝手にちょっと大きめの石を運んできては、墓前と言っていいのか分からんけど、一応墓前にお線香が炊いてある程度のちゃっちい物で申し訳ない。
それにかつての仲間たちがこの二人によって殺されたのだから、同じ場所に墓をつくるのは本当に死ぬほど迷いに迷ったのだけれど…。二人も最後は改心してくれたのを多分昔の仲間たちも見てくれていただろうし、内心ごめんねとは思いつつも俺のエゴでこんなことするのを許して欲しい…って思ってしまったり。だって俺ともう六人の仲間たちは、二十四番と七十二番のことちゃんと仲間として仕事していたんだもの…。本当に勝手なことばっかしてごめんね、みんな。
「……。」
一人一人に線香をあげ、腰を落としながらみんなに向かって何秒目を瞑って手を合わせていたのかも分からないけれど、ようやく自分の気が済んだので「…よし」と呟きこの場から立ち上がる。
「みんなごめんね…。いつも俺ばかりが生き残って、そして俺だけが帰ることになってしまって……本当にごめんね…」
あぁ、ヤバい…。また泣きそうだっ…
なのでこの場から離れようと振り向いた時……
後ろから「そんなことない」って言われたような気がして、慌ててパッと振り返ってみせるとそこには…
「……みんなっ…」
多分絶対に俺の幻なんだろう。
でも俺の目の前には十四人がそこにいて……、みんながみんな優しい顔をして全員が俺にこう言ってきてくれたような気がした。
〝幸せになれよ!〟って。
「……っ!」
なんで…みんなそんな優しい顔で笑っていられるんだろうね。
本当に優しい奴らばっかだったよ、俺の仲間と…それに二人の罪人も。
「ありがとう…。本当にありがとう…っ」
だから今度は俺も目に涙を溜めつつも、もうそこにはいない全員へとしっかり笑顔を向けてみせたあと俺はゆっくりとこの場から立ち去ってみせた。
もうこれが幻だとかそんなのどうだっていい。俺にとってはこれが現実にしか見えないのだから、今の現象は現実でしかない。ウソだったなんて言わせない。
俺が今こうして生きているには意味があるはずだからだ。仲間たちの命が犠牲になってしまったのは到底受け入れ難いけれど、その代わり二人の罪人が俺に「生きろ」と言ってくれたことの意味を俺はこの先考え続けていく。
これは俺が船頭として生きてきた証だ。
例えそれが凄惨な世界を何度も見てきてしまった過去があったとしても、俺は決してそれからは逃げない。みんなのことを一日たりとも忘れるもんかッ。
この島の一番の高い場所までやって来れば、俺はここからこの島を一望しては遠い海の向こう側を眺める。もうすぐ俺はあちら側へと帰る。もう俺は船頭ではなくなる。
この島と悪魔から解放される。
「…生きるよ、俺は。最後の最後まで」
みんなの分とまではいかないけれど、もう俺は生きることを諦めたりなんてしない。
大丈夫…、俺は俺の罪を受け入れて残りの人生は贖罪をして生きていくだけだから。
「……そろそろ行くか」
この島の風が運んでくる潮風は、いつも生暖かい。
だがこれがいい。これでこそ償いの島なのだから。
※コメントは最大1000文字、10回まで送信できます