罪人たちの舟 終焉 - 11/13

罪人たちの舟 終焉 last

 

「えっと…俺がいなくなってこれから先もっと大変になってしまうかもしれないけど、みんなならきっと出来るはずだから頑張ってね」

「はい!」

「お世話になりました、坂崎さん!」

「全員と連絡先交換したもんね…?大丈夫だよね?分からないことがあったらすぐ聞いてきてね?分からないことや不安なことを放置すると、とんでもないことになるって胸に刻んでおいて欲しいからその時は絶っっ対に俺に連絡してね?」

「大丈夫です!」

「そこはきっちりと守りますから!」

「うん…。本当にそこだけはよろしく頼むね?」

全員の元気のいい「はい!」が聞けたので、もうこれでこの話は終わりにしよう。

新人のみんなが俺を送り出す為に舟のところまで集まって来てくれて、こうして俺を見送ってくれるのはとても嬉しい。大丈夫だ、この子たちならきっとやっていける。俺みたいに失敗ばかりしないはずだ。

「とは言ってもまた三週間後か一ヶ月後なのかは分からないけど、様子見しに来るからまたその時もよろしくね」

「こちらこそその時はよろしくお願いします!」

「坂崎さんがいなくて不安ですけど、俺たちなりにやり遂げてみせます…!」

「うん。頑張って」

みんなへエールを送りつつ、そろそろ時間なので俺ともう一人…強欲の罪の使者である子と一緒に自分たちの舟へと乗り込み、最後に俺が舟を漕ぐことになっている為オールは今自分の手にある。

舟を沖へと出す為に仲間たちが舟を押し出してくれて、既に舟の上にいた俺たち二人は離れてしまった島の方へと顔を向けては俺だけが手を振ってみせる。すると「さようならー!」とか「また今度〜!」という和気あいあいとした明るい声が聞こえてくるので俺はフッと口角が緩んでしまった。元気なのはいいことだ。

海を渡り漕ぐ俺は、同乗者に対して「これから大丈夫そう?」と尋ねてみせれば「…多分」と、不安そうな声を漏らすけれど…それでもこの仕事に向き合いたいという強い意志を感じる瞳が俺の心を安堵させる。君たちなら大丈夫だよ、絶対。俺に教えられることは全て教えたつもりだもん。

霧の中を突き進み続け、暫くは濃い霧が俺たちを包み込んでいたのだがそれもやがては次第に晴れていき、うっすら見えてくる本土の船着場。もう少しだ…

 

「そろそろ着きますね」

「うん。着くね」

舟を漕ぎ続けていればあっという間にたどり着く船着場。そこには数人の役人さんがいて、俺たちを見ては「お疲れ様でした坂崎さん」なんていう労いの声を早速頂いてしまった。それに対して素直に「ありがとうございます」と返してから、舟に乗っていた俺の荷物やマモン様から頂いた金品の入っているカバンも向こうの人に受け取ってもらってから最後に俺たち二人が舟から降り立ってみせた。

荷物を車の中へ運んでいく為に全員で船着場から駐車場の方へと行き、俺の荷物が積まれたのを確認してからもう一度俺と新人の君と二人だけで船着場へと戻る。役人さんたちはここで待機してくれるらしいが、気を遣わせてしまって少しだけ申し訳ないので早めに終わらせよう。

 

「手伝ってくれてありがとね」

「いえいえ、こちらこそ一ヶ月とちょっとお世話になりました。まぁでもこれからもちょくちょくお世話になるかと思いますが!」

「あはは、そうだね。まだ暫くは俺もあの島に通うことになりそうだもんねぇ」

「正直めっちゃ不安ですけど、やれることはやります。罪人たちへの対応も間違えないようにします。絶対に」

「うん。みんな…死なないように気をつけてね?」

「はいっ」

「マモン様にもよろしく伝えといて」

「分かりました。マモン様、坂崎さんのことが好きすぎて俺のことぜーんぜん興味なさそうですからねぇ〜」

あははー…と苦笑いしているけど、まぁそれぐらいで丁度いいんじゃないかな?とは思うね俺は。

 

「じゃあ……頼んだよ、強欲の罪の使者よ」

「はい。任せて下さい、先輩」

 

俺が最後にオールを手渡すと、そのオールを両手でしっかりと握りしめる新たな強欲の罪の使者。

もう俺は悪魔の使いでも船頭でもなくなるただの一般人だ。

 

「では、俺はこれで戻りますね」

「うん…。じゃあね」

舟を出してしまえば、ゆっくりユラユラと海の向こう側へと行ってしまう一隻の舟。

俺がいつも乗っていた舟であり、罪人たちを数え切れないほど乗せた舟だ。

そんな舟が今俺の前から消えようとしている。…濃い霧の彼方へと。

全てが不思議な気持ちだ…。俺が本土に残り、あの舟を見届ける立場になるのはもう少し先の未来だとばかり思っていたのにね…

 

「……。」

 

〝罪人たちの舟〟よ…、全ての救われぬ罪人たちをこれからもあの償いの島へと届けて欲しい。

そして全ての罪人たちの魂が生まれ変わり、次の世ではその人生を全う出来るよう俺はここで祈るばかりだ。

…ま、犯罪なんて起きなきゃそれが一番いいんですけどね。

 

「…じゃあな」

 

次第に消えていった一隻の舟を見届け、俺は最後にもう一度この海の彼方を見渡してから振り向くことなく歩き出す。

俺の人生の大半が不幸だったけど、それでも俺は幸せを捨てた訳じゃない。この先の十年、ちゃんと俺は幸せになってみせる。生きていて良かったって言えるほどの人生でありたい。

この命が返ってきたのだから、二度とムダになんてさせない。

 

ねぇ、みんな…

こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、俺はこの人生を終えたらみんなのところへ逝けたらいいなって思ってるよ。

俺一人だけになんてさせないでね?十二人の仲間たちと…二人の罪人が許さなくても、俺はお前たちと一緒がいいと思ってるから。

俺の大事な人たちなんだから。

 

「すみません、遅くなってしまって。出して下さい」

待機してくれていた役人さんたちのところまで戻れば、俺は軽く謝ってはお礼を述べながら車へと乗り込んでいく。

車内では役人さんと雑談しながらこの一ヶ月のことを話したり、今からなんの手続きを済ませるかなどの説明を受けたりと色々と話すことが沢山あったが、こんなに緊張感なく人と話せるのがこれからそれが普通になっていくのだろう。そう思うと俺はやっと全てから解放されたんだな、って今ようやく実感出来た気がした。

そして何気なく上着のポケットに手を入れるとサワッと触れる布の手触り。一瞬「ん?」と思い、それを取り出してみせると……俺の手元にあるのはマモン様から頂いた手土産だった。

 

「…まだ解放され切った訳じゃねぇか」

「ん?なんか言いましたか坂崎さん?」

「あっ、いや別に独り言…!気にしないで…!」

俺の独り言にツッコまれてしまったけど、こんなこと言えるはずがないのでテキトーに誤魔化すしかない。マモン様からの手土産を見せびらかしていいだなんて思えないしな…

「……。」

そうか……でも、俺はまだあの島との繋がりは深い。

マモン様が何を考えて何を思ってこれを手渡したのかなんて俺には計り知れないが、決して俺を逃がさないぞと言っているようにしか聞こえなかったのは間違いであって欲しい。

 

「…ま、今日はなんも考えないでゆっくりしよっ」

 

マモン様からの手土産を再びポケットに戻し、俺は久しぶりの本土を満喫してやろうと心に決めた。

これからの時間は誰にも邪魔させないからな!

誰にも。絶対に。

 

ーー 愚か者たちの夢 変わり行く正義よ
過ちを重ねて 生まれ来る歴史よ ーー

 

ーー 罪人たちの舟に僕等は乗り込む
新しい海に迷う舟を動かすため ーー

 

ーー 誰のために生きるの 答えを探そう
君は孤独の海を一人では泳げない ーー

 

ーー 何処に向かって 何をめざして 何のために
舟は行くのか ーー

 

 

「罪人たちの舟 完結」

 

➝あとがき

 

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