「幸桜」
ベッドに座っているオレの目の前に桜井が立っている。
ご飯を作りに行ったのにいつ戻って来たんだ?
なぜか桜井はスッと手を伸ばすとオレに触れようとして……手を止めた。
「どうした?」
「……なんでもない」
嘘だ。
何でもないわけない。
桜井は微笑んでいるが寂しそうに見える。
「オレには言えないのか」
何を言われたのか分からないという顔になる。
桜井はいつも自分の事よりオレの事を優先して思っていることをあまり口にしない。
高見沢にはそれなりに言っているようだが。
「そんなんじゃ…」
桜井はまた言葉を飲み込んだ。そして困ったように眉を下げている。
「なんでいつも桜井の気持ちを口に出してくれないんだ。オレが船頭だから信用してないのか?」
言わないでおこうと思っていた言葉が溢れだして止まらない。
「ずっと一緒にいても所詮そんなもんだったんだな。オレはいつまでも桜井たちと相容れない存在だったんだ」
「違う!!」
「違わない。お兄ちゃんに置いてかれてひとりぼっちになったと思った。おまえたちと暮らしてて漸くひとりじゃないって思えるようになってきたけど違ってたんだ」
オレひとりでそう思ってただけなんて。
罪人と船頭はどうやっても分かり合えるわけ無い存在だと知っていたはずなのにいつの頃からかオレは勘違いしていたらしい。
ひとりぼっちなんだと思ったら涙が出てきた。
こんな事で泣くなんてやっぱりオレは弱い人間だ。
「泣かないでくれよ…」
桜井が手を伸ばしてオレの涙を拭った。
ビックリして桜井を見ると心なしか顔が赤い。
「言ったら抑えが効かなくなりそうだから我慢してたのに」
涙を拭った手をそのままオレの頬に添える。
……なんだ?
「そんな顔されたんじゃ我慢できない」
添えた手に少し力が入った。
オレは桜井を見上げるような形になる。
心臓が飛び出すんじゃないかってくらいドキドキしている。
桜井の顔が近づいてきて……?
えっ!?
唇の横にキスされた!!
何が起こったのか分からないでいるオレに桜井は満足気に微笑んでいる。
「桜井……今…」
「幸桜、俺は」
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