「こーんばーんわぁ」
いつも通り仕事をして桜井たちと何事もなかったかのようにご飯を食べて。
桜井が船頭の部屋に様子を見に行って自分の部屋に帰ったのを確認してから俺は家を抜け出していた。
着いた先で一応あいさつはしてみたけど俺を一瞥しただけで返事はない。
ま、俺も返事は期待してない。
だって相手はこの島のお偉いさん。
俺みたいな罪人に返事するほど優しいヒトじゃない。
……ってヒトではないけど。
今は一応人の形をしているけど悪魔。
「船頭は寝たよー」
「知っている」
だろうね。
悪魔の目の前の空間に浮いているなんかよくわかんないモノに映し出されている船頭の部屋。
最近はそれで船頭の様子を覗いている。
「船頭さんってばシブトイよねぇ」
「こんなにもニブイとは思わなかったんだけどね」
ふーん。
悪魔でも思い通りに行かない事ってあるんだねー。
悪魔をイラつかせるそんな船頭のニブさってすげー。
尊敬しちゃう。
「あれで良かったぁ?」
聞けば悪魔は鷹揚に頷く。
桜井と船頭に揺さぶりをかけてこい、とは悪魔の指令。
ふたりの仲に変化が無さすぎてつまらない、と言い始めた悪魔がちょっと面白さを求めて船頭にちょっかいを出しているののお手伝い。
俺だって変化のない毎日がつまらなかったから協力させてもらうことにした。
悪魔はまず船頭に自覚させたくて夢で揺さぶりをかけていたが船頭が思った以上に自分の殻にとじ込もって悩むタイプだったから結局あまり進展はなかった。
桜井も心配ならムリヤリ聞き出すくらいすれば良いのにアイツもムダにガマンするタイプだからやっぱり進展はしない。
たまに後押しとか俺らしくない事もしてみたけどそれでも自分にとって大切なものの為ならどこまででもガマンするタイプだったみたい。体に良くないよなー。
で、今夜。
もう少しハデにやってみようということになった。
「そこに寝な」
悪魔の言うとおり部屋にあったベッドに横になる。
目の上に手を乗せてきたから目を瞑ってスタンバイ。
「ホントに好きにしちゃっていいのぉ?」
悪魔の大事な船頭だから一応確認。
「かまわないよ。どうせ『夢の話』だ」
そう。
これから俺は船頭の夢に入って来る。
悪魔の力が働くから現実と変わらないリアルさはあるみたいだけど。
「欲しいものは強く思い浮かべればお前の手元に現れるから」
さあ行っておいで。
悪魔のムダに美しい声に導かれて俺は船頭の夢に降り立った。
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