また、桜井に迷惑をかけてしまうのが嫌だった。
だから精一杯強がって桜井の居心地の良い腕の中から出てきたのにあっさり連れ戻されてしまった。
頼って、なんて言われたら強がっている心が折れてしまいそうだ。
「本当に大丈夫だから」
桜井の腕から抜け出そうとするがさらに強く抱きしめられた。
「俺じゃ頼りにならない?」
桜井の悲しげな声が耳元でする。あまりの近さにオレの心臓がかなりの速さでなっている。
桜井に聞かれたらどうしよう……
今までずっと桜井に慰めてもらていたのに急に恥ずかしくなって力一杯桜井を突き飛ばしてしまった。
「頼りになる、ならないじゃない。オレが大丈夫と言ったら大丈夫なんだ」
自分の気持ちを気づかれない様にと感情を殺して告げた言葉は思っていた以上に冷たく聞こえた。
突き飛ばされた桜井は床に尻餅をついたままオレを見上げている。
「…そっか……」
あ……
桜井の顔が……
「俺ではダメなんだな……」
桜井は無理やり作ったような歪な笑みを浮かべる。
「こんな所に送られて死ぬはずだった俺を幸桜は助けてくれた。あの時から幸桜の兄貴の変わりでもなんでも良い。側で守っていこうと思っていた。でも俺みたいなのを頼ってくれるわけないよな」
一筋の涙が桜井の頬を流れていった気がする。
あれ?と思った時には桜井は俯いてしまったからオレの見間違いかもしれないけど。
「所詮俺は罪人。俺みたいな穢れた人間が船頭みたいな綺麗な人間に近付こうとしたこと自体が間違いだったんだ」
オレが綺麗?
桜井が穢れている?
一体何を言い出したんだ。
オレも桜井も同じ人間。
オレだって……
心の中には人並みに黒い感情が渦巻いている。
いや、悪魔の手を取ってまで自分を優先したオレは人並み以上かもしれない。
桜井を見下ろしたまま返す言葉も見つけられないでいるオレに構わず桜井は続ける。
「 この前、側にいろなんて言われて調子にのってたのかもしれないな。あの時はこれからも幸桜の側にいて良いんだ、やっと自分の居場所を手に入れたと思ってたけど俺が思ってただけだったんだな」
「違う。桜井、違うんだ」
声を掛けるがこちらの声が聞こえないくらい自分の中に入り込んでしまっているようでオレの方に向いてさえくれない。
こんな桜井を見たことはない。
ずっとオレの考えを優先してくれて、優しく見守っていてくれる、いつもの桜井とは違う。
「俺が要らないのなら。俺の命を助けた事を後悔しているのなら。幸桜の口からちゃんとそう言って。それならば俺はいつでも幸桜が思うようにするから」
それって……
「幸桜が必要ないと言うならここにいる意味はない。いつでもこの命、還すから」
桜井が居なくなる……?
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