翻弄編
「サクライ‥」
「ん?」
「俺、お前の事心から大事な親友だと思っている。家族だと思ってる‥。なのに‥俺、」
「サカザキ‥。その先は言わなくていいよ。俺だって解ってるさ。長い間一緒に居るんだから、相手に嫌な感情が生まれるのなんて当たり前だよ。こっちもお前がどれだけ羨ましくて、嫉ましく思ってたか知らないでしょ?」
「俺に‥?」
ベッドに座るサクライは「うん」と頷く。数秒置いてから、言葉を紡げるサクライの声を遮る事なく聞く。
「お前は、誰にでも笑顔振りまけてさ‥女性に対しても分け隔てなく付き合えて、何でも重く受け止めない考えとかも、気軽な所とかも‥。生きてて楽しいんだろうなーって」
「サクライは‥楽しくないのか?」
「俺は元々使用人で落ち着く筈の人生だった。だから、王子になった時から“ちゃんとしないと”って思い続けていたら、真面目で、誰にでも優しくして、皆が認める紳士にならないといけないっていう気持ちがのし掛かってきて、自由に生きられなかった」
「‥‥、」
「隣に居るサカザキは、こんなにものうのうと生きていられるのかが解らなかった。最初から王族で、後継者もお前な訳だし‥俺が王子である意味さえ解らなくなった事もあった。けどさ、俺がお前なんかを憎んでても仕方ないじゃん?
お前の事、全部知ってるなんて言えないし、やっぱり大切な親友だろ?」
「‥時々、お前のその性格が作られたものなんじゃないかって思う」
「バカだなぁ。今もこうしている事がキツいのに、もっと性格を作るなんて器用な真似出来ないよ」
「お前、器用だから‥それ位簡単にやってのけそう」
一瞬、ぽけっとした顔を見せるサクライだったが、小さく笑いながら「ないない」と言いながら手を横に振っていた。
「それよりさ、タカミザワ‥」
「朝になったらアイツ呼び出して謝るよ。結構酷い事言っちまったからな」
「その前にあのお姫様に謝れよ。泣いてたぜ?」
「知らねーよ。今はタカミザワしか頭にない。いつも傍に居る‥タカミザワを泣かせたのは俺だ。こんな筈じゃなかったのに」
ベッドから立ち上がるサクライは、「じゃ、」と呟くと部屋から出て行った。そしてまた一人残されるが、さっきよりかは気分が大分楽なのに気付いた。
「ほんと‥優しい野郎だ」
◆
タカミーside
今朝になってからサカザキに呼び出され、僕はいつもの場所まで一応は向かう。
ちゃぷんと頭の上半分だけを海面から出すと、そこには仁王立ちをしている姿のサカザキがあった。恐くて少し離れた場所から「何?」と問えば、サカザキが「もっとこっち来い」と人差し指でチョイチョイ誘ってくる。
仕方なくそれに従って、サカザキの立っている方へ恐る恐る近付いてみると、ガバッと腕を取られて無理やり陸へと上げさせられた。
「人間になるなよ」
「うぅ‥分かってるよ」
僕は何も考えずに、サカザキの方へと顔をやる。
「悪かったな‥。あんな事言っちまって」
「ううん。僕も反省した。物を投げるなんて最低だよね‥。ほんと‥!ごめんなさい」
シュンとした表情を見せてしまい、サカザキに「お前は謝らなくていい」と言われた。そんな‥サクライみたいな優しいキャラ似合わないよ。
「お前を傷付けた時、胸が痛かった。苦しかったんだ‥。追い掛ける気力さえ残ってなかった」
「僕も‥辛かったよ。サカザキがあんな風になるなんて予想してなかったから‥その、もしサカザキが追い掛けてきたら嫌だなーって思って‥ね、」
「ん?」
「こっそり術を解いちゃってたんだ‥。ごめん!ほんとごめん!」
今のサカザキは、海に入っても息が出来ない状態にさせてしまった。つまりは、普通の人間と変わりない状態になってしまっている。
サカザキに会いたくなかった為、追い掛けて海まで来られたら困ると思った僕は、サカザキに掛けていた術を解いてしまっていたんだ。そこまでやる必要なかったかなーって、今更になって思うけど。
するとサカザキが、「何だそんな事か」と言った次の瞬間だった。
彼に体を預けている態勢になっていた為、サカザキが僕の顔をクイと指で顎を持てば、唇に柔らかい感触が伝わってきた。
「んんっ‥!?」
一瞬だったけど、サカザキは僕を見て「これで海に潜れる?」と、何ともなかったかのように聞いてくる。こくんと頷けば、「良かったー」と安堵の言葉を漏らした。
「‥‥バカ」
「ん?」
「な、何でもないわ!」
声を荒らげる僕を見たサカザキは満足そうに、「じゃ、人間になろ」と言ってくれた。それに頷くと、僕は再び人魚から人間へと変わってみせた。
-僕、二人に惑わされっ放しだな‥-
*
普通にちゅうをしても許されるのは、人魚シリーズだけ
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