人魚の王子様 番外編 - 12/15

翻弄編

 

着ていた服を慣れた手付きで剥ぎ取られれば、サカザキは小声で「恥ずかしそうにしろ」と囁いてくる。慌てて僕は左腕を右側の腕に持って行けば、胸辺りを隠してるみたいな構図が出来上がる。

 

そしてサカザキが僕の後ろ頭に手を置くと、ゆっくりとベッドへ押し倒してきた。

僕の上に居るサカザキが眼鏡を外し、広いベッドの端へと避けさせる。その行為が当たり前なのか、ツウッと指先で僕の脚を怪しく触られれば、ピクッと反応をしてしまう。普段なら僕にはない脚を遊ぶ彼の顔が暗くて見えなかった。

 

「大好きだよ‥ソフィア」

 

サカザキの口から出て来た久しぶりに聞く僕のもう一つの名前。声が出なかった僕に名前を教えてあげられず、サカザキが勝手に命名した名前だ。

 

その名前を呼ばれた時、不覚にも心臓がドキンと鳴ってしまった。僕の名前は本当にソフィアなんじゃないかと‥錯覚に陥ってしまいそうだ。

そんな事を考えてると、サカザキの顔が僕の耳許に近付いてきて「息荒くしろ」と命令をする。注文が難しすぎるぞ‥!

それでも僕はサカザキに応えようと、わざと息を荒らげてみたりする。顔が離れたサカザキがニヤッと怪しい表情を浮かべながら言葉を吐く。

 

「これが好きなんだろ?ん、?気持ち良くなりたいんだろ?」

“‥!?”

 

いくら演技だと言っても、今の一言でカアァと一瞬で赤面してしまった。くびれに触れるサカザキの片手のせいで、くすぐったいってのもあるけど、ビクンと体が跳ねてしまう。

思わず体を動かして、サカザキから離れてしまったが、それを許さないサカザキが僕を捕まえて「おら、逃げんなよ」とピシャリと言い放つ。そんな‥事、言われても‥。

 

チラリと目を扉の方に流すサカザキは、チッと小さく舌打ちをすると、僕の髪を弄りながら「愛してる、好きだ」と繰り返す。

 

 

「お前は俺のモノだ‥。ぜってー逃がさない。俺だけを見ていればいい。他の男なんかじゃ満足いかないようにさせてやる」

 

そんな台詞を僕に向けて言ってると思うと、胸が締め付けられそうになった。まだ、大丈夫‥。ギリギリを保っていられそう。

 

けれど、それがいつ壊れるか分からない。サカザキの一言一言が苦しい。

 

そしてまた僕は思ってしまう。

 

なんで女じゃないんだろう‥って。

 

同じ考えが再び頭の中を覆うなんて、思ってもみなかった。しかも今度はサカザキ相手に‥だ。

大分前にサクライと二人きりで居た時も今と同じ気持ちになった事がある。僕は人魚でいる前に男である事に後悔しているのか?いや、そんな事はない。こうして三人で居られるのは、僕が男だからだ。

 

チラッと扉の方へ目をやると、顔を手で隠しながら立ち去っていく女性の陰が通り過ぎていった。“あ‥”と思い、起き上がろうとしたが、サカザキがグイとまたベッドに押し付ける。

 

「誰がやめていいと言った」

“え?”

 

いつものおふざけかと思い、僕が笑おうとした時だ。

 

サカザキの目が明らかに違った。僕だけを見つめる真っ直ぐな瞳が異様に痛く感じてしまい、戸惑う事しか出来なかった。

 

もう、終わったんじゃないの‥?
そう、目で訴えてみるがサカザキが僕の上からどく様子は見られない。彼の手が僕の頬に置くと、重たく口を開く。

 

「またサクライの所へ行くのか‥?」

“はっ?えっ?急に何?”

「お前はいつもサクライの所へ行っちまう。俺はそれをただ見てるだけで、何も言い出せない。アイツは男として‥人間として俺と違って完璧だ。タカミザワがサクライを好きな理由がよく分かるよ」

“‥‥、”

「もし、お前が人魚でも女なら‥きっと俺はサクライに負けてた。女だと思ってたお前に恋をしたのは俺が先だし、俺の為に歌も歌ってくれた。なのに‥それを全部サクライが持っていっちまいそうで、手が出せなかった」

“サカザキ‥”

 

頬から手が離れると、サカザキはベッドから下りて、大きな月が顔を覗かせる窓辺に持たれかかる。

 

サカザキの表情は何処か切なくて、けれど温かい目で僕を見守ってくれる姿。体を起こし、ハダケていた肌に一枚服を被せて彼が立っている方へと向き直る。

するとサカザキがデスクからメモ帳とペンを持ってきて僕にポンと手渡した。

 

うぅ‥、字書くの苦手なのにな‥。
喋れなくても伝わる、と言っても流石にキツい部分があるので、偶に文字で伝える時がある。字なんて小さい頃に習ったっきりで、記憶も薄れていた為、久々に書いた文字を見てサカザキに「読めない」と言われた為、サクライに教えて貰い、最近やっとまともに読めるようになってきた。

ペンを握り、覚えた文字をサラサラと書き出していく。それをじっと待って、静かに眺めているサカザキ。

 

『僕は二人共好きだよ。同じくらい好きだよ?』

「けど、お前が女なら俺とサクライどっち選ぶ?」

『そういう事は特に‥』

「なら何で目を見ない?」

 

この言葉に思わずドキッとした。
僕、サカザキと目を合わせれてない‥?言われて気付いた。全然、気に留めてなかったから‥無意識だったのかな?

指摘されて、サカザキをちゃんと見ようとしたけれど、何故か顔が上げられなかった。どうして?僕、本当に二人共同じくらい好きなのに‥。親友だと思っているけど‥心の奥では順位を付けてしまっているの?

 

「ねぇ‥サクライの前では泣く癖に何で俺の前じゃ泣いてくれないの?」

“それは‥”

 

ペンを書く手が止まり、僕は膝の上にそれを置き、言い訳を探している自分に気が付いた。それを感じた時、息苦しさを覚えてしまい、凄くサカザキに申し訳なくなってしまった。

 

「俺が優しくないから?タカミザワの言う通り、女遊びをやめないから?」

違うよ、と文字で表す前に口が勝手に動いていた。そんなんじゃないよ‥。
それなのに、言い訳しか思い付かない。

 

ちゃんと声で伝えたい。話したい。

僕‥知らない内にサカザキを傷つけていた。そういう事は気にしない奴だと思ってたから、今更そんな事言われても‥。

 

「俺、だらしないし‥サクライみたいに真面目じゃないし、お前に心配ばかり掛けさせちまうしさ‥。守りたい、とかそんな大それた事も思えないんだよね。お前が俺の幸せを願ってるのに実際は名前も知らない女を抱いては傷つけてるだけだし‥。最低だよな」

 

そんな事ない、なんて言えない程サカザキは自分を解っている。なのに、どうしていつまでもこんな愚かな事を続けるの?

いい加減僕の気持ちにも応えてよ。

 

『僕、サカザキのそういう部分が嫌なのかも』

「‥だろうな。でも、一つ言える事があるんだ」

『何?』

 

 

「‥‥お前が女だったら俺のもんにしてた。さっきの愛の言葉、お前が女ならどれだけ良かったんだろって思いながら囁いていた。例え、お前がサクライの下へ行ってしまっても、俺は力尽くでもお前を奪った筈だ」

 

 

サカ‥ザキ‥、

 

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