人魚の王子様 番外編 - 13/15

翻弄編

 

彼は「ぷっ、」と小さく吹き出すと、「お前が女の場合な」と付け足した。

そ、そんなの分かってるよ‥!

 

だけど、不覚にもドキドキしてしまった。うん‥サカザキって本気で誰かを好きになれば、絶対いい男に生まれ変わると思うんだけどな。

それを待つしかないのかな‥。まだまだ先は長いし、サカザキを信じてみよう。

 

「偶に思うんだよね。お前が人間の女に恋したら、どうなるんだろうって」

“僕が人間の女に‥?”

 

考えた事もなかった。僕が‥恋?しかも人間に?

 

「俺達が人魚に恋したように、お前が人間に恋をするのかってさ」

それは‥お父様が許さないような気もする。こうして人間になる事自体反対されていたのに、それ以上の事なんて許されるのかな?

 

「ま、お前はのほほんとしてるから有り得なさそうだな」

『失礼な!』

唇を尖らせ、ムスッといじけた僕を見たサカザキが「あー、ムラムラするー」と呟いてきた。
その発言に反応した僕はメモ帳に向かってペンを走らす。

 

『もう、女遊びはやめろ!』

「何で?」

『自分でも解っているなら何とか出来るだろっ』

「やだよ。だって、つまらないじゃん」

『女性を傷付けるのが一番最低な行為だよっ?サクライならそんな事絶対しないのに』

「は?」

 

いきなりの見下すような視線に、ビクッと肩が跳ね上がった。僕‥何か変な事‥‥

あ‥、もしかしてサクライの事‥?

チッと今日二回目の舌打ちをするサカザキを恐る恐る見上げれば、外を眺めながらハァ‥と溜め息をついた。僕の予想は的中し、サカザキは喋り出す。

 

「アイツは大事な家族だからこんな事言いたくないんだけど‥。やっぱり悔しいんだよね。父上が俺なんかよりサクライに王座を渡したいって言った時、正直アイツに怒りを覚えちまった。

ずっと一緒だからいい所も悪い所も見えちゃう筈なのに‥アイツ、やっぱり隙がない奴でさ‥ほんっとムカつくくらい完璧なんだよ」

『だってサクライは紳士だもん‥』

「やっぱりお前はサクライの所に行くな」

『はぁっ?なんでそうなるの!?』

「違うの?」

『そういう問題じゃない!僕はただ、二人が幸せになって欲しいって願ってるだけだよ!』

「‥どうだか」

“‥!?”

 

今のサカザキの一言で、プチンっと頭の中にある何かの糸が切れそうな気がした。

 

『僕が二人の幸せを願ってるのは嘘だと言いたい訳!?』

「口だけなら言えるさ」

“ッ‥‥!”

 

 

気付いたら、持っていたペンとメモ帳を勢いに任せてサカザキが居る方向へ思い切り投げ飛ばしてしまっていた。

 

“あっ‥”と思い、僕は身構えた。サカザキが怒って僕を責めるんじゃないかって。だけど、サカザキは予想外の反応を示す。

 

チラリとサカザキが居る方へ目をやると、当たったペンとメモ帳が下に落ち、彼はそれからピクリとも動かなくなってしまった。「え‥?」と口から出てきそうな、物凄くショックを受けた表情だった。

そこで僕はようやく、自分は今何をしたかに気付いた。

 

今、僕はサカザキを‥哀しませてしまった‥。取り返しのつかない事をしてしまった。

 

“ち‥違っ‥!違うサカザキ‥!”

声が出ないと解っていても、口が動いてしまう。サカザキは下に落ちたメモ帳とペンをぼうっとしながら見つめていた。ちゃんと見ているのかさえ不明だけれど‥。

 

解って貰おうと、顔を横に振ってみるが、サカザキは一向に反応を示さない。居辛くなってしまった僕は、ベッドから立ち上がり、この部屋を飛び出してしまった。引き留めてくれると思っていたけど、サカザキが僕の名前を呼ぶ事はなかった。

じわりと涙が溢れてくる。だけど、泣きたくはなかった。泣くとサカザキに申し訳ない気がしてきて‥。

 

俯き加減で廊下を走っていた為、門を曲がった時にドンッと誰かに思い切りぶつかってしまった。

 

 

「大丈夫かっ?」

そう聞き慣れた声が耳に届くと、目の前にはサクライが後ろに倒れそうになった僕をグッと引っ張ってくれていた。その反動でか、今まで我慢していた涙がポロッと床に落ちてしまう。

 

びっくりしていたサクライが、心配そうに「どうした?」と優しく聞いてくるものだから、尚更泣けてきた。次から次へと目から零れてくる涙を止めようと必死にこするけど、効果はない。

「また泣いてる」と困ったように笑うサクライの言葉を聞き、“あ‥”と思ってしまう。僕、またサクライの前で泣いてる。違うのに‥泣きたくなんかないのに‥。ねぇ、どうして?

 

そんな優しくしてくるサクライを押しのけて、僕は城から出る為に走り出した。

さっきと違うのは、サクライが僕の名前を呼んでくれた事だ。

 

 

 

サカザキside

 

俺は何をしているんだ‥。

自分がさっき、タカミザワに向かって吐いた言葉を思い出そうとしたが、何故か思考が動かない。

 

下に虚しく転がってるペンとメモ帳から目が離せずにいる。だけど、タカミザワを追わないと‥って思ってはいたけれど、そんな気が沸き起こる筈もなく、俺は窓の外へと目を移す。

そこには、城から飛び出して行ったタカミザワが俺らがいつも会う岩場から、海へと飛び込んで帰ってしまう姿が映し出された。

 

「ハァ‥、」

 

アイツがあんなあからさまな態度で怒った所を見た事がなくて、驚いたのは言うまでもないが‥それ以上に、俺のせいでタカミザワをあんなにも怒らせてしまったと思うと胸が痛かった。

いつも笑顔で、優しくて、怒る時もあるけれど、それは注意してくれているという柔らかい表現だったのに対して、今のは本気だった。

 

何で解ってやれなかった?

アイツが俺達の幸せを願っている事なんて、一番感じているのに‥何であんな言葉を口走った?

 

「サカザキ、入るぞ」

 

始めから開いていたドアから顔を覗かせるサクライに顔が向けられずにいると、「タカミザワ‥泣いてたぞ?」と聞きたくない言葉が並べられる。

 

「何だよアイツ‥。俺の前では絶対泣かない癖に‥サクライの前でならすぐ泣くよな」

嫌みたらしく言ってみるが、サクライは不思議そうな顔をしていた。

 

「‥アイツ、俺と会う前から泣いてたぞ?」

「そうなの‥?」

 

てっきり、またタカミザワはサクライの前で泣きすがっているのかと思っていたが、話によればアイツはサクライと会ってすぐに走り去ってしまったらしい。

勘違いしていた‥。俺は‥

 

「‥サクライ、俺を思い切り殴ってくれ」

 

「えっ?」と驚いていたが、サクライは頬を指で数回掻いてから、俺の右頬をバキッと殴りつけてきた。構えていた為、倒れる事はなかったが、多少体が揺れた。

 

「わっ‥、ごめんサカザキ!痛かったよな‥?俺も結構痛かったよ」

あははと苦笑しながら殴った方の手をぶらぶら振っていた。だけど、俺には痛みが伝わっては来なかった。感覚が麻痺してるのかな‥。

それに、謝らなくてもいいのに謝ってくるサクライの優しさが辛くて‥本当にコイツは狡い。

 

俺に持ってないものを全て持っているから‥。

 

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