人魚の王子様 サカザキside
今日、サクライと一緒に海へは来ていない。二人で行く事も多いが、こうして一人の時も少なくはない。この間は俺に来客が来ていたので海へは来れなかったが、今日はサクライに来客が来たそうだ。
一応この国の王子だからさ‥俺達も。色々と忙しいんだよ。しょっちゅう遊んでる訳じゃないし。
同じ王子でも目の前に居る海の中の王子様は、いつものほほんと過ごしてる風に見えるが‥。コイツ、いつも楽しそうでいいよな‥。
「お前さ、王子だけど王子らしい事してる?」
さっきまで違う話をしてたが、俺が急に話題を変えるとタカミザワは、少し不機嫌そうに顔をムッとさせた。
「僕だって本当は色々したいけど、お父様にはまだ早いって言われる。だからお兄様の手伝いしたりしてるけど‥僕、お姉様達に囲まれて育ったせいか、頼りなく見られるんだよね」
「だって頼りないもん」
俺がそう言うと彼は頬をぷくーっと膨らませた。そんな彼の頬を両手でガシッと鷲掴めば、タカミザワは凄くびびった表情でこっちを見てきた。
「お前、見た目からして女だもん。俺とサクライを勘違いさせてその気にさせたくらいはあるよな」
「そっちが勝手に勘違いしてきたんでしょ‥!僕の辛さなんか知らなかった癖に!」
「俺らだってすげぇ辛かったんだぞ?サクライが言ってたように俺もあんなにアイツの事を憎く感じた事なかったんだからな。どう責任取るんだよ?」
俺が詰め寄るとタカミザワは「うぅ‥」と尻込みしてしまい、掴まれていた頬の手を振り解こうと必死になっていた。ムダムダ。俺らは小さい頃から剣術や弓の練習をしてきてそれなりの体力はあるからさ。
そしていつしか諦めたようにタカミザワは「ハァ‥」と溜め息をついて抵抗しなくなった。
「‥僕なんか三日間で答えを出さなければならなかったんだよ。焦りと人間になりたい気持ちと二人を傷付けないようにするにはどうすればいいのかずっと考えてた」
「俺はお前が現れた時でも人魚の事しか頭になかった」
「ほらね」とタカミザワは呆れたような目で訴えてくる。
「サクライだってそうだったよ。目の前の人間の僕より人魚の僕に夢中だったんだもん。ほんと、死ぬ程辛かったよ」
確かに一番辛かったのはコイツなのかも知れないな‥。
声も出せず、伝えたい事も中々伝わらない。そんなタカミザワは目の前に居る俺達に真実を言えなかった事が。声が出ないって考えた事もなかったから‥どれだけ苦しくてもどかしいんだろう。
俺はタカミザワの頬から手を離そうとすると、彼の手が俺の左手だけを掴んで自分の頬へと持っていった。
「人間って温かいからもう少しこのままでいて‥」
あー、コイツさぁマジで女みたいで偶に見てるとムラムラするとか俺大丈夫か!?
別に男に惚れた訳じゃないけど、胸がないのを除けば殆ど女だもん。綺麗な顔立ちに長い髪と白い肌、それに後で気付いたけど‥このくびれ!流石お姉さん達に囲まれて育っただけあるわ。
‥だからあの時、女と勘違いして惚れてしまったんだよな‥。はあぁ‥。
また好きでもない女抱く事になりそうだなこりゃ‥。でもタカミザワは「そんなのダメ!」と言ってくる。人間の事なんてほんの少ししか解らないコイツに言われてもムリだがな。
「だから頼りないんだよ‥」
「え?」
「もっと男らしくしろって事」
「‥‥、」
次にタカミザワが口を開こうとした時だった。向こうから「王子様ー!」と家臣が呼ぶ声がして、俺が「なに?」と返そうとした時だった。慌てて帰ろうとしたタカミザワが俺の手を握ったままのせいで、俺はバランスを崩してそのまま海の中へとダイブしてしまった。
「何でサカザキが付いてくるんだ!?」
「お前が俺の手を握ってたからだろうが!」
海の中で言い合いをしていても仕方ないので、俺が這い出ようとした時。グイとタカミザワに腕を引っ張られ、なんだ!?と思ったが、さっき俺が居た場所に家臣が二人程来ていて、俺を捜していた。さっきの飛沫の音に気付いたのか‥。
「アイツらが居なくなってから出て行け。怪しまれる」
タカミザワは俺を庇うように少し離れた場所の岩部へと連れて行ってくれたが、コイツが見つかるリスクも高くなってしまう。俺は「大丈夫だよ」と言うが、タカミザワは「平気」と笑顔で返してくる。
「ドジばっかして俺らに見つかった癖に」
「でも、二人は僕が友達になりたかった人間だから‥」
ニコッと微笑むタカミザワの笑顔はやっぱり綺麗で‥、それが海の中だと尚更だ。
久しぶりにちゃんと見た人魚の特徴である下半身。サファイア色をした深くて透き通るような青が、海の色と丁度いい具合に混ざり合っていて見とれてしまう。
それに俺を見つめる青い瞳も‥ふわりと揺れる長い髪も‥まるでこの水泡達のように柔らかく、一瞬にして俺の前から消えてしまうようなものに見えて‥。
人魚は人間には見られてはいけない存在の筈だけど、俺達は特別で‥。タカミザワが俺達を受け入れてなかったらきっと俺とサクライの関係はあのまま泥沼化していただろう。
ほんとは感謝しなくちゃいけないのは分かってる。
タカミザワが俺を岩部へ運ぼうとしたが、俺はその岩を思い切り蹴って彼の手を握り締め、ぽけっとしているタカミザワの顔を見つめた。
「‥ありがとう。お前と出逢えて良かったよ。大事な大事な親友だ。人魚の王子様」
「僕も嬉しいよ。大好きな人間の王子様‥」
タカミザワは目を伏せ、そっと額をこつんと当ててきた。
「‥でも、ごめん。また眼鏡‥だっけ?落っことしちゃって」
「あ、ほんとだ。俺、今年に入って何個海でなくしたんだろう。お前いい加減にしろよ」
「うぅ‥ごめん!」
「やだ。許さない」
するりと下半身を撫でるとタカミザワはビクッと反応した。おー、楽しいなコレ。
「ほんとごめんってば!もう、無理やり引っ張り込まないから許して‥!」
「次やったら鱗引きちぎるからな」
「ド鬼畜‥」
涙目なタカミザワをよそに俺は岩部へ行き、びしょ濡れになった体で這い出ると、付いて来たタカミザワが顔を半分だけ覗かせ心配そうに見てきた。
「じゃ、またな」
「うん‥」
「次やったら本当に引きちぎるからな」
「そんな事したらサクライの所に逃げる‥」
「逃げれると思うなよ」
「うぅ‥」
そう言うとタカミザワは帰って行ってしまった。それは向こうから来た家臣に気付いたからだろう。
「王子様!こんな所におられたのですか」
「体が濡れておりますが、海に入られてたのですか?」
-ちょっと二人きりの世界の海でね‥-
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