サクライの今の言葉を聞き、僕は胸を誰かに掴まれたかのような痛みを覚えた。凄く‥嬉しいのに、凄く哀しい。
思わずポロッと涙が流れてしまった。僕、サクライの前で何回泣けば済むんだろう‥。
この間まではなんで人間じゃないんだろうと考えていたのに、今はなんで女じゃないんだろうと考えるようになってしまった。本当に本当にサクライが好きだ‥。でも、それは友情として彼が好きなのだ。それはサクライも同じで、僕達はその一線を越える事は絶対にないと思ってる。
サカザキもそれと同じくらい好きだけど、サクライとはまた別の好きなのかも知れない。
サクライはこんな僕に優しくしてくれた。人間になって、初めてサクライと逢った時から凄く紳士的で‥ずっと僕の隣に居てくれて、慣れない脚を心配してくれたり、こうして僕が人間になれなかった事の罪悪感を覚えてしまっている。
この人は完璧だ‥。狡いくらい完璧だ。
白い砂浜を歩きながら、流す涙を親指で拭き取ってくれるサクライの手を取り、僕はゆっくりと彼を誘うように海の中へと連れて行った。そしてある程度の深さまで来た僕達は、サクライを抱き寄せてバシャンと海の中へと潜り込んだ。
「‥サクライは狡い。僕が今、どんな気持ちかも知らないのに優しくしてくる」
「どんな気持ち?」
「‥‥なんで女じゃなかったんだろうって」
「‥!?」
それに凄くびっくりしていたサクライは僕を見て固まっていた。
「別にサクライに恋したとかじゃないよ?‥サクライが優しすぎて辛いんだ。本当に‥凄く苦しい。もっと僕の事、怒ったりしていいのに‥」
「出来ないよ‥」
「なんで距離を置くの?」
「ち、違う‥!さっきも言ったように、タカミザワが人間になれなかったのは俺達のせいで‥」
「そんな事思ってないよ。やめてサクライ。僕は二人の近くに居れるだけで幸せなんだから‥。ほら、こうして海の中で人間と居るだけで幸せすぎるくらいなんだ‥。だから、もうそんな事思わないで‥」
「でも‥」
言い掛けてるサクライの口を手で塞ぎ、「お願い」と頼んだ。するとサクライは小さく頷いてくれた。
「本当に分かってくれた?」
「わ、分かったよ‥。約束する‥」
サクライの言葉を信じて僕はサクライをもっと深い場所へ連れて行けば、色とりどりの数多の魚達が居る所へと案内した。
「すげぇ‥」
「サカザキには一回見せた事があるんだ。だから今度はサクライにも見せてやりたかった」
「‥ありがとう」
嬉しそうに眺めてるサクライの頭を抱き寄せ、僕は話を続ける。
「僕‥ね、女の人魚だったら絶対サクライに惚れていた」
「そっか‥」
「ほんと、女じゃないなんて後悔した事なかったのに‥全部サクライのせいだ。責任取れ」
「どうやって?」
苦笑しながら聞いてくるサクライに対し、僕は再び話す。
「人魚にしていた恋心以上に大切な人を見付けて‥それ以上に愛して欲しい。そして幸せになって欲しい。覚えてる?僕との約束」
「勿論。この紅が入った貝殻を送る事」
服に隠れていた首飾りを取り出すサクライは、「ほら」と僕に見せてきた。
「俺、まだまだそういう事疎いけど‥ちゃんと大切な人を見付けられるかな?」
「出来るよ!サクライに愛された人は本当に幸せ者だと思う。こんな紳士的な人、中々居ないよ。‥ほんとは僕が代わって欲しいくらいに‥」
「また泣く‥。俺もお前が女なら絶対大切にしてた。例え人魚でも、構わないのに‥」
深い青い海の中で人魚と人間の王子様が泣きながら漂う所を魚達は見守ってくれていた。
叶わない恋心のようなものを抱いてしまったのは僕の方だ。でも、僕は何度も言うように“友情”としてサクライが好きだ。サカザキが好きだ。
「サカザキが知ったら泣くかな?」
「アイツは引き摺らないタイプだから気にしないと思う」
「じゃあ、もう少しこのままで居ていい?」
「うん‥。流石俺のファーストキス奪っただけあるな」
「あ、あれは違うとサクライが言ったんだろっ?」
「そうだっけ?」
とぼけてくるサクライの顔を引っ張ろうとした時、彼の体がいつの間にか僕の背中にあり、僕は後ろから抱き締められる形になっていた。
「お前も責任取れよ」
「え‥」
そう言ってくるサクライの顔に僕の顔を近付け、頬に軽く唇を落とした。
「口じゃないの?」
「男同士だよ‥」
「一回やったじゃん」
「キスは大切にしろ‥!」
「お前が言うなよ」
クスクス笑うサクライは、後ろから僕の顎を引き寄せ、頬にチュッとキスを落としてくる。
-からかわれてるけど、少し嬉しかった-
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